第1話
ラジオから女の子の歌声が響く。
三人組のガールズアイドルユニット「ThrTH」の新曲だ。
ThrTHはこのアイドル戦国時代において少数精鋭、本格派として1年前にデビューして以来、一気にそのトップに躍り出た超キラーユニットらしい。
「すげえなあ、あいつ」
俺、三鷹 八録は勤め先であるパン屋のレジでぼーっと、ラジオから流れる歌声に耳を傾けていた。
ちなみに八録の読みは「はちろく」ね。親父が車好きだったらしい、どういうこと?
「何を呆けてんだい」
「あっ、婆様」
レジ裏から出てきたのは店長の婆様。名前は知らん。
「いや、今ラジオで流れてる曲、歌ってるのが俺の幼馴染なんすよ」
「へえ、すごいじゃないか」
「ですよねえ」
正直アイドルはよくわからんが、あいつがすごいのはわかる。俺なんて、中学卒業してからパン焼いてるだけだもん。
「今も連絡取ってんのかい?」
「まあ、ですね」
定期的に自分のユニット、そして自分がいかにすごいか綴ったメールが届く。頼んでない。
「今度うちでライブするように頼んでおくれ」
「いや、店のどこでライブするんすか」
「冗談、冗談。ぼちぼち学校行ってきな」
「うっす」
学校に行くと言っても、学生としてではない。
水森高等学校の購買は、昼時になるとそれなりの賑わいになる。
「ハチロク、オムそばくれ」
常連の男子学生、高橋の間の抜けた声。相変わらず店員を舐め腐っている。
そう、俺はこの水森高等学校購買部の店員なのだ。ちょっと前まで婆様がやっていたが、今年からは俺が担当している。
「あいよ。三百万円ね」
「ハチロク、そのネタつまらん」
「マジに舐めてるよな」
もし俺が高校に通っていたら高校二年生。まあ仕方がないか。
一通りお客を捌き終えると、高橋が話しかけてきた。お前まだいたのか。
「そういえば、うちのクラスに転校生来たんだぜ」
「ほーん」
「反応薄いな」
「関係ないしなあ」
「でも名前聞いたらマジでビビると思うぜ!」
ニヤリと笑う高橋。
「ほう」
「転校生っていうのはな……、なんとあの、ThrTHの雪音ちゃんだぜ!」
「……マジで?」
「流石にビビッたろ?」
「お、おう」
その転校生、俺の幼馴染なんだけど……。