1章 4話
ヨルムと合流したミエルカは、一悶着ありながらも中央広場を後にして食事へと向かう。
ミエルカを心配するヨルムだが、ミエルカの意思は固く……。
まだまだストーリーは謎のままですが、読んでいただければ幸いです。
本日行く予定の店は中央広場から南へやや下った場所にある。
特に相談した訳でもないのに、そんな事何で分かるかって?
本日ではなく、毎回そうだからだ。
ヨルムさんはこう見えても一途な凝り性で、料理でも何でも気に入ったものがあれば、基本的にブレることはない人間だからだ。
まぁ、分かり易くていいんだけどね。
飽きるということもないらしく、延々と同じものを食べたりできる。
それはそれですごい事だが、俺はただ面倒くさがっているようにも見えてしまうのだ……。
これうまいし、これでいいじゃん的な。
まぁ本人にはそんなこと言えないし、俺もあの店は気に入っているから、万事問題無し。
日は完全に傾き、夜の帳が都市を覆う。
通りの店には行き交う人々を誘うように明かりが灯る。
少々お堅い都市ではあるが、俺はこういった人間臭いというか、生活感というか、とにかく「生きてる」「今日も生きてた」みたいなこの風景?雰囲気が好きだ。
みんな一生懸命で、楽しそうで。
店の外で酒を飲みながら談笑する奴。
女を引っ掛けようとして失敗してる奴。
はたまたあっちでは喧嘩か?
とにかく賑やかで、キラキラして見える。
何でだろうな。
俺には、遠い世界だからだろうか。
別に距離を置いている訳じゃない。
でもやっぱり、眩しく見えるのは、俺のいる場所が陽の当たる所ではないからなのだろう。
「ぼうっとしてどうした? 着いたぞ」
「はえっ? すみません……」
「今日のお前は一段と間抜けズラだな」
「……ほっといてくださいよ」
店の名前は銀の乙女。
いい名前なのかは、正直わからん。
それに、ヨルムさんが乙女って……。
言ったら殺されるから言わないが、何だがマッチしない。
でも料理は美味いし酒も美味い。
他の店よりもお高かいのも納得。
店構えも一線を画すほど豪華。
ヨルムさんが常連なのもあって、個室を貸し切ってくれるのも評価が高い。
俺はどこに行っても疎まれるからな……。
ひっそりってのが性に合ってる。
店内に入ると、何も言わずに奥の個室へと通された。
流石は常連。これぞ格差。
薄暗い室内に入ると、ヨルムさんはソファーに腰掛けた。
と同時にタバコに火をつける。
ほんとにヘビーだなぁ。
俺もテーブルを挟んで向かいのソファーに座る。
包み込む様にお尻が沈んだ。
何の羽毛を使っているのかは知らないが、上質なのは間違いない。
……俺ん家なんて木の椅子だぞ、チクショウ。
キッチリとした格好の店員がノックをして入ってくると、ヨルムさんと何やら話している。
俺はというと、ソファーの座り心地を堪能していた。
「ミカ、お前は何を飲む?」
「んー、じゃあ、いい葡萄酒を」
「相変わらずそんな甘い酒を。子供か」
「穀物酒は舌に合わないんですー」
「まぁいい。じゃあそれを」
ヨルムさんがそう言うと、店員は部屋を後にした。
「それで? また一人で行くつもりなのか?」
口からモクモクと煙を上げながら、ヨルムさんが問いかける。
唐突な、それでいていつもの質問だ。
何度されたかなんて、覚えてもいない。
俺は天井の柄を数えるのを止め、ヨルムさんに向き直った。
「……もちろん。それ以外の選択肢なんてありませんよ」
「そんな事はないだろう? お前と共に戦う奴だっているはずだ」
「いやいや、いないでしょ。どのみちお断りです。俺のやっていることは、誇れる事じゃない」
「そうだろうが、ギルドとして見逃せない対象なのは事実だ。神格存在は」
ヨルムさんはタバコの火を消す。
まだ結構長いのに。もったいない。
「神格存在による被害は年々増加傾向にある。本部としても対策は急がれているのはお前も知っているはずだ」
「それでも、話し合いは平行線」
「……そうだ。相手は、曲がり形にも神だからな」
「多くの宗教が混在するこの世界の中で、その神と対立するという事がいかに馬鹿げているか皆理解しているんですよ」
「既に何万という人間が被害にあっている。このまま見過ごし続ける訳にはいかない。だが……」
「対抗する手段がない」
俺がそう言うと、ヨルムさんの眉間にシワが寄った。
「恥ずかしながら、辛うじて被害を食い止めることは出来ても、根源を断つことは不可能だ」
「まぁ、難しいでしょうね」
「……圧倒的な力。人類では彼らに1のダメージも与えられない」
カチッカチッ。
時計の針が動く音が響く。
「ミカ。お前を除いてな」
コンコン。
今度は扉を叩く音だ。
どうやら飲み物と料理が来たようだ。
「だから一人でやるんです。こんなキチガイな事、やらない方がいいに決まってる」
「それで今度は! 今度は……何を犠牲にするんだ……」
気まずい空気の中、店員は飲み物と料理をテーブルに置くと、そそくさと部屋を出ていった。
「必要な犠牲です」
「そんな言葉じゃ納得出来ない。ちゃんとしたパーティーを組めば……」
「これは俺のエゴでやってる事だ。どのみち、誰かに譲るつもりもない」
冷ややかな空気が部屋を支配した。
「ヨルムさん。料理が冷めちゃいますよ? 食べませんか?」
「……ミカの馬鹿……」
「……? 何か言いました?」
「うるさい!! お前なんてさっさとくたばれ!」
そのあとは、他愛も無い話をしてヨルムさんは浴びる様に酒を飲んだ。
そんなに強くもないのに、いつも飲みすぎるんだよなぁ、この人。
心配してくれているのは理解している。
俺のやっていることを、他人に分かってもらう必要は無い。
それでも、心配されるのは悪い気はしないからな。
俺はいつものように寝てしまったヨルムさんを店員に任せると、一人、銀の乙女を後にした。
月明かりが妙に眩しく感じる。
今日は、いつもより大きく見えるな。
俺も少し酔ったかな?
一つ大きく息をする。
また明日から、戦いが始まる。
「よしっ!」
俺は自分の頬を両手で叩くと、ねぐらへと戻った。
読んでいただきありがとうございます。
世界観の設定等、徐々に明らかになりますので、ゆっくりとお付き合い頂ければ幸いです。
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_gofukuya_
これからも、どうぞ呉服屋をご贔屓に。
呉服屋。