1章 3話
黄昏の子猫屋を後にしたミエルカ。
ヨルムさんとの約束の為に中央広場へと向かうが……。
まだまだ書き出したばかりの新作です。
根気強くお付き合いの程をよろしくお願いします。
呉服屋。
黄昏の子猫屋を後にした俺は、街の大通りへと戻って来た。
日も傾きかけ、さっきよりも多くの人で賑わっている。
夕飯の買い出しをする者。
一仕事終えて、1日の疲れを癒す為に飲みに繰り出す冒険者。
もちろん冒険者だけではなく、それ以外の労働者も同様だ。
この世界……ユーグに暮らす人々は、必ず一つ神の恩恵、タレントを有している。
老若男女を問わず、必ず。
戦闘向きのタレントを有している者もいれば、商業向きのもの、技術向きのもの、生活向きのものまで多種多様だ。
極端に言えば、料理が得意とか、洗濯が得意とか。
何だって存在するし、一つとして同じものは存在しない。
言わば個人特有のスキルだ。
大概の人々は、自分のタレントに合った職業に就き、その能力を余すことなく使う。
自分の天職に。
もちろん例外も存在する。
一つと言われているタレントが、複数発現する事例だ。
二つ発現する者をドゥオと呼ぶ。
これは全体の1割にも満たないと言われている。
そして、三つ発現する者をトレース。
実に1パーセントいるかいないかの希少な存在。
それ以上は今の所未確認。
公式なデータではこのようになっている。
まぁ俺から言わせれば、タレントは量より質だと思っている。
いくら二つ、三つと発現しても、それが噛み合わなければ意味をなさない。
全く別の方向性のものであれば、宝の持ち腐れになってしまうからだ。
だから質。
タレントの中にも区分が存在しており、レベルで管理されている。
でもこれは戦闘系タレントに限った話。
戦闘系タレント、または支援系タレントが発現した場合、ギルドへの申告が義務付けられている。
タレントにあった仕事を斡旋する為。不測の事態が起きた時に、協力を要請する為と言うのが名目だ。
そして、その中でレベル管理される。
レベルはⅠからⅤまでの五段階。
もちろんⅤが上だ。
そしてそれとは別にギルド内での階級制度が存在する。
これは色、カラーで分けられていて、下から白、青、緑、赤、黒。そして、ノーカラー。
首から下げているタグで、それぞれの階級を示す決まりになっている。
もちろん、受けられる仕事も相応のものとなる。
俺はというと……青。
何とも情けないほど下っ端だ。
もう7年も冒険者やってるんだけどなぁー。
タレントのレベル、実績などを加味して付けられるものだから、しょうがないとは思ってますけど……。
やや肩を落としながら歩いていると、自分でも気づかないうちに待ち合わせ場所に到着してしまった。
つまりは中央広場の外れ。
綺麗に整備された噴水から、とめどなく水が吹き上がる。
この広場からは都市の多方面に行けるため、人通りは昼夜を問わず多い。
我ながら選択する場所を間違えたと思った。
いや、割と本気で。
「おいおい。腰抜けがこんな所で何やってるんだ?」
……ほらなぁ。
ほんとに選択ミス。
広場から伸びる路地へと目をやると、そこには二人組の男性冒険者。
もう飲んでいるのか、頬の辺りがほんのりと赤い。
……余計にめんどくさいな。
正直見た事ない顔だ。
そもそも、俺は長期間ギルドを空ける事が多いから、顔を覚えている人自体少ないけど。
首からは緑のタグ。
俺より階級は上と言うことになる。
「なんだぁ? 無視するのかよぉ。腰抜けのくせに生意気だにゃあ!」
あ、噛んだ。今絶対噛んだわ。
「いやいや、無視するなんて、そんな事しませんよう。階級が上の方に逆らえませんて」
「だよなぁっ! 上の者が言ったことは絶対だよにゃあ!」
また噛んだしっ!止めてよ!笑いこらえるので必死なんだからっ!
お前らのその顔で、にゃあとか反則だろ!おっさん!
「当然じゃないですかぁ。絶対ですよぅ?」
俺は適当に調子を合わせると、ニコニコと作り笑いをして見せた。
すると二人組の冒険者もニコニコと笑って返し、上機嫌で俺を指差した。
「じゃあ俺の靴を舐めろやっ! 無視した事はそれでカンベンしてやるよぉ!」
……本当に面倒臭い。
都市内では争い事はタブー。
向こうも手を出して来ないだろうが、絶対とは言いきれない。
「それで許して貰えるんですか? 分かりました。舐めさせて頂きますね」
俺はその場に跪くと、男の靴へと顔を近づけた。
「何をやっている?」
低く、怒りの混じった声。
その場が一瞬凍り付く。
「何をやっていると聞いてるんだが?」
俺は声のした方へと恐る恐る顔を向けた。
……まぁ、そりゃあヨルムさんですよねぇ。
「そこに跪いている醜い男は、私の友人なんだが?」
そりゃあ確かに醜いですけど。
そんなストレートに言われると泣いちゃいますよ?
視線が、本当にゴミを見るような視線が痛いですぅ。
「あっ……いや。ギルマスの友人だとは知らず……すみませ……」
「さっさと消えろ。目障りだ。街の風紀を乱すな」
「はっ! はいぃぃっ!」
ヨルムさんに睨まれ、大のおっさん達は尻尾を巻いて逃げて行った。
それはもう、凄い速さで。
……俺も逃げたい。
「早く立たないか、ゴミが」
あらやだわぁ。本気で言ってらっしゃる。
俺は素早く立ち上がると、弁解の為に口を開いた。
「違うんですよ、ヨルムさん。実は……」
「どうせ腰抜けとか言われて絡まれたんだろ? いつもの事だろうが」
ヨルムさんはそう言うと、流れる様な動作でタバコに火を付けた。
「争い事を避けるのはいいが、毎回こんな事やってて、お前に誇りや尊厳は無いのか?」
「それがあれば、俺は強くなれるんですか? 目的を果たせると?」
俺はあっけらかんと聞き返す。
ヨルムさんは、小さく笑った。
「そうだな。お前には必要の無いものだったか。すまない。今のは忘れてくれ」
「いや、俺なんか変な事言いました?」
「お前らしいよ。……それよりも、なんか言うこと無いのか?」
「えっ? 言うことですか? うーん。お腹空きましたね?」
「……はぁ。死にたいのか? まったく。せっかく着替えて来たのに……」
「何か言いました?」
「何でもないよ! ほら、店に行くぞ」
ヨルムさんはそう言うと、俺の前を颯爽と歩く。
周囲の人達もヨルムさんの姿に見蕩れているようだ。
ほんと、外見は美人だからなぁ。
……あ。
「ヨルムさん。そのシャツ裏返しですよ?」
そのあと、ヨルムさんにボコボコにされた事は、言うまでもない。
読んでいただきありがとうございました。
ミエルカはやっとヨルムさんとの夕食へ。
次回はどのような回になるのか、是非お楽しみに。
長い目でお付き合いください。
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@_gofukuya_
呉服屋。