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ピアノフォルテ

 フルーテガルトは楽器製造が盛んな街だ。


「この辺は楽器に向いている木が多いからな。鉱山もあるし」


 ユリウスパパとの対面を果たした翌日、私は楽器工房に顔を出した。


 ザシャは職人なだけあって楽器についてはとても詳しい。この世界の楽器のことがまだよくわからない私にとってはありがたい存在だ。


「そういやお前、なんか用があるんじゃねえのか?」

「そうだった! へへー、実はザシャにちょーっとお願いがあるんだ」


 私が持つクッキーを見てザシャが言う。頼みごとをする時に持ってくる賄賂である。頼み事というのは昨日のユリウスとの会話にも出た楽器の改善だ。


「ピアノフォルテ? 聞いたことねえんだけど」

「うん。チェンバロみたいな鍵盤楽器で、音に強弱がつけられるから『ピアノフォルテ』。省略してピアノって言われてる」


 ピアノの正式名称は『ピアノフォルテ』あるいは『フォルテピアノ』だ。元は小さい音も大きい音も出せるチェンバロという長い名称を省略してそう呼ばれるようになったのだ。


「聞いたことねえな。チェンバロに強弱っておもしろそーだけどよ、どうすりゃいいんだ?」

「チェンバロって弦を弾くよね。ピアノは弦を下からハンマーで叩くんだよ」


 絵を描きながら説明していくが、私もさすがに実際にピアノを作ったことはないのでだいぶ大雑把だ。


「大きさは? チェンバロとおんなじくらいなのか?」

「いや、もっと大きいよ。音域も広いんだ」

「んー、響板がだいぶ大きくなるな。割れそう。それとダンパーをどう付けるか……」


 響板は音を楽器全体に行き渡らせて響かせる板で、ダンパーは押された鍵盤が戻る時に弦を押えて音を止める役割がある。名称や役割はわかるけど、私には仕組みはさっぱりだ。


「弦はチェンバロより強く張るんだよ。だから強度が必要になると思うんだ」

「だろうな。低音は太くしねえとダメだし。となると、フレームの強度も必要だな」


 さすが職人。私の拙い絵でも問題点がぱぱっとわかるなんてすごい。


「これ、急いでんのか?」

「全然」

「じゃあ前に頼まれてる分を先にやるわ。ピアノはたぶん出来たらすげえことになんぞ。響板の乾燥も時間かかるし、じっくり考えて取り組んでみるわ」

「うん。お願いします!」


 おお。ザシャがやる気になってくれた。うんうん、ピアノはすごいんだよ。


「そういや、前に頼まれてたキーな、あれって金属加工の職人に頼まねーといけねーんだけど、費用とかどうすんだ?」

「ユリウスが出してくれるって。まあ、私の出世払いなんだけどね」

「ぶはっ! 出世しなかったらどーすんだよ。まあ、あいつなら売って利益に繋げるんだろうけどな」


 さすが幼馴染。よくわかってらっしゃる。


「なあ、昨日俺が言ったことマジで考えてみろよ。この工房で働くって話。お前、昨日チェンバロ弾いてただろ?」

「あー、うん。そりゃ聴こえるよね」


 楽器工房はヴェッセル商会の1階にある。ユリウスの書斎は3階にあって昨日は窓も開けていたのだから、工房に聞こえるのは当然だ。


「王都に行っちまうんじゃねえかって親方が……」

「ふーん。王都に行く話は昨日ユリウスから聞いたけど?」

「マジか……」


 そのユリウスは今朝から王都に行っている。王宮とアーレルスマイアー侯爵に先触れを出さなければならないのだとか。貴族や王宮って面倒だ。


「アマネ、チェンバロ運んでおいたぜ。って、どうしたんだ? ザシャは」

「ラース、ありがと。ザシャ、私、練習するから行くね」


 声をかけてきたラースはヴェッセル商会の護衛だ。私の発見時にも一役買ってくれたと聞いている。


 ラースは30代前半で顔に細かい傷がたくさんある。一見怖そうに見えるが、話してみると快活で気のいい男だ。


 昨日のユリウスの話では、演奏会に出ないといけないかもしれないということだった。そこで、ラースには私が練習をするために、ユリウスの部屋にあるチェンバロを別の空き部屋に移動してもらったのだ。


 何やら深刻な顔をしているザシャに一声かけ、練習のために部屋に向かった。











 俺は呆然としてアマネの背を見送った。護衛のラースが何か言ってるけど、全然耳に入って来ねえ。


 昨日、ユリウスの書斎から楽し気なチェンバロの音色が聞こえてきた時、親方衆が話していたのだ。


「いい音だな。王都で売り出せば売れっ子の演奏家になるんじゃねえか」

「ああ。ちんまい子どもみてえな見てくれも有利だろうよ。見目も悪くねえしな」

「愛嬌もあるから、貴族の奥様連中がパトロンに名乗り出るだろうなあ」


 訳知り顔の親方たちを横目に、俺は独り言ちた。


「ユリウスが手放すわけねえっての」


 そう思ったのに……。


 俺がアマネに初めて会ったのは、怪我をしたアイツの目が覚めて1週間ほどたったころだった。


 話し相手になるようユリウスに言われた時、俺はすげえ戸惑った。なんせ渡り人なんて会ったこともねえし、女相手に何をしゃべったらいいのかもよくわかんなかった。


 戸惑いながらもデニスさんに連れられて部屋に入った俺だったが、寝台で体を起こしたアマネを見た瞬間、これはやべぇと思った。なんつーか、目の焦点が合ってねえし、顔色も死人みたいに真っ白で、このままほっといたら死んじまうんじゃねえかって思うくらいだった。


「アマネさん、お加減はどうです? 傷は痛みませんか?」

「だいじょうぶですよ……デニスさん、そっちの方は……?」


 大丈夫そうには全く見えなかったけど、デニスさんに向かって弱々しい笑みを浮かべたアマネは首を傾げて俺を見た。


「あ、あー……お、俺、ザシャってんだけど……」

「ザシャは1階の奥にある楽器工房の職人なのですよ」


 しどろもどろに名乗る俺を見てデニスさんが助け舟を出してくれた瞬間、アマネの目が大きく見開かれた。


「楽器の職人さん?」


 さっきのは見間違いだったんだろうかと思ったほど、劇的にアマネの表情が変わって、俺はその時、なんか花みてえって思った。全然柄じゃねえけど、花が開く瞬間ってたぶんこんな感じなんだと思った。


「あ、ああ。そうだけど……」

「どんな楽器? ヴァイオリンとか? チェンバロとか?」


 濁りの無い綺麗な黒目が好奇心を隠すことなく伝えてくる。


「まあ、そんな感じ」


 その後、どんな木を使うのかとか、弦や弓の素材は何なのかとか、そんな話をしたんだけど、アマネは興奮しすぎちまったのか、顔が赤くなって目がトロンとしてきたなと思った途端に布団に倒れ伏しちまった。


 まあ、その後はデニスさんがどうにかしてくれたんだけど、俺が部屋を後にする時、アマネはまた死にそうな顔になってた。


 その次からは楽器を持って行くようになった。俺が作った楽器を見て、アマネは楽しそうに笑っていろんなことを聞いてきたけど、演奏することはなかった。ユリウスに禁止されてるからって笑みを浮かべながら目を伏せて言うだけだった。


「お前、なんで簡単に言うこと聞いてんだよ。演奏してーんだろ?」

「だって、どこの誰とも知らない私を、ユリウスは助けてくれたんだよ」


 伏せられた黒目は見えなかったし、声も普段通りだったけど、たぶんアマネは出ていけって言われんのが怖いんだろうなって思った。


 考えてみりゃあ、渡り人ってすげえよな。知ってる奴が1人もいない世界に突然来ちまって、帰ることもできねえんだ。あんなひでえ怪我までしてて、不安になるのは当たり前だ。


 何日かして部屋から出られるようになると、アマネは時々工房に顔を出すようになった。


 親方衆も渡り人の世界の楽器に興味津々で、アマネにいろいろ聞いてたっけ。


「ヴァイオリンはネックの角度がちょっと違ってましたね」

「へえ、けど音程が変わるんじゃねえか?」

「その分、弦を強く張るんです。というか、そのためにネックの角度を変えたみたいですよ」

「なるほどなあ。で、音も大きく響くっつーわけか」


 楽器のことを話すアマネはすげえ楽しそうで、最初に会った時と同じように、花みたいに笑ってた。俺だけが知ってる表情じゃなくなっちまったのは、ちょっとだけ残念な気がしたけど、でもあんな死にそうな顔してるより絶対いいに決まってる。


「チェンバロが出来上がったんだが、試弾してみるか?」

「えっ、本当に? うっわ、どうしよ。嬉しすぎる!」


 いつだったか、親方がアマネに試演奏を促したことがあった。アマネはすっげえ喜んで、でもやっぱり曲は演奏はしないで、一音一音、確かめながら音階をゆっくり弾いていた。


 その時の光景を、俺は一生忘れないんだろな。一つ一つの音がすっげえ愛おしいって言ってるみたいに、アマネは柔らかい表情で自分が響かせた音に耳を傾けていた。きっと昨日のチェンバロも、そんな風にして弾いてたんだろうな。


 そんな風に鳴らされたら、楽器だって嬉しいだろう。作った俺らも職人冥利に尽きるってもんだ。


 そういやあ、あの時は確かユリウスもいたっけな。俺はアマネの姿に目も耳も奪われちまってたから、アイツがどんな表情をしてたのかは知らねえけど。


 とにかく、俺はアマネの花みたいな笑顔とか、チェンバロを弾いた時のような慈しむっつーの? そんな表情をずっと見ていたいって思った。んで、あいつの知ってる音楽を演奏できるように、あいつの知ってる楽器を作ってやろうって、そう思ったんだ。


 なのに王都に行っちまうなんて……。


 ユリウスだって、陛下が亡くなってからはすげえ機嫌悪かったけど、アマネのことは気にかけてたのに、なんで王都に連れて行くんだよ。ずっとこの街にいりゃあいいのに。


「ザシャ? おい、ザシャ! なんだあ? ボサっとしやがって」

「ラースさん……あいつ、王都に行くって……」

「あ? まあ、そう聞いてるが……へえ、お前……」


 ニヤニヤと笑うラースさんから真相を聞かされ、胸を撫で下ろした俺だったが、散々揶揄われて怒鳴っちまったのは不覚だった。











 ヴェッセル商会は一階が店舗で、楽器がずらりと並ぶ部屋と商談スペースがあり、さらに奥には工房がある。二階は昨日初めて入ったユリウスの書斎や従業員たちの休憩部屋、厨房などがあり、三階が私に宛がわれた部屋がある居住スペースとなっていた。


 厨房の近くを通ると焼菓子のよい匂いがしたので覗いてみる。


「アマネさん、午後からエルマーと一緒に出掛けるんでしょう? 今、クッキーを焼いてますから手土産に持って行ってくださいな」


 キッチンにいたのはヴェッセル家の奥向きの仕事を通いでしているハンナだ。私が臥せっている間、甲斐甲斐しく世話をした肝っ玉かあさんのようなおばちゃんだ。


 数年前にユリウスのお母さんが病で亡くなり、当時ヴェッセル商会で働いていたハンナに家の中のことを手伝ってもらようになったと聞いている。


「ふふ、ハンナさんのクッキーおいしいもんね。きっとみんな喜ぶよ」


 礼を言って立ち去ろうとしたところで、今度はパパさんに会った。こうして鉢合わせるのは初めてで、よく一ヶ月も気が付かなかったものだなと改めて思う。


「アマネちゃん、パパと一緒にお茶しよう」

「私、チェンバロの練習が……」


 私たちの会話を聞いていたハンナが目を丸くするのが見えた。


「大丈夫だよ。昨日あんなに上手だったもの。ユーくんがいない間にパパと仲良くなろうね」

「おやまあ、ではお茶をお持ちしましょうね!」


 引き籠っていたパパさんの変化に喜ぶハンナの声で、練習がお預けになることが決まった。


 こっちこっちと居間に連行され、パパさんと差し向かいで座る。外からはラースの大きな笑い声とザシャの喚く声が聞こえてくる。なにやら楽しそうだ。


「アマネちゃん、聞いてくれるかい。ユーくんときたら子どもの頃から出来がよすぎて、パパのことなんてちっとも構ってくれないんだよ。本当にあの子はいつになったらお嫁さんをもらうのか、早く孫の顔が見たいと思うパパの気持ちをアマネちゃんはもちろんわかってくれるよね?」

「……ソウデスネ」


 何かと思えば怒涛の愚痴タイムである。よくよく聞けばパパさんは入り婿で、実家は別の街で繊維を扱う商会を営んでいるという。


「ユーくんに仕事を仕込んだのは亡くなった僕の妻でね。ほら、僕はこの通りおっとりしてるから」


 確かに堅苦しい雰囲気のユリウスとは合わないかもしれないなとこっそり思う。


「彼女が亡くなった時、ユーくんは王都のアカデミーで勉強してたんだけど、突然辞めてしまってね。仕事はぜーんぶユーくんが引き継ぐからって言って」


 アカデミーとは元の世界の大学みたいなものらしい。ただ在籍期間はかなり長く、14歳から20歳くらいまでの間に学士を取り、さらに12年かけて修士や博士を取るという。


 王都にはヴェッセル商会の支部があり、ユリウスはアカデミー在学中はそこに滞在して母親から仕事を少しずつ教え込まれていたという。


「でもアカデミーを辞めるのって、もったいないことなのでは?」

「そうだね。辞めた理由は母親のことだけじゃなかったみたいだけどね。理由を聞いても僕には何も言ってくれなかったんだよ。ひどいだろう?」


 パパさんが泣きまねをしているけれど、ザシャの話ではユリウスの母親が亡くなってから部屋に閉じこもっていたというのだから、言ってもどうにもならないと判断したんじゃないだろうか。


「……本当は僕がもっとしっかりしていれば、ユーくんもやりたいことを続けられたって、わかってるんだよ」


 パパさんが肩を落として言う。


「ユリウスはアカデミーでは何の勉強を?」

「政治哲学だね」


 うっ、私にとっては苦手な分野だ……。でも音楽と政治哲学は全く無関係という訳ではない。


『社会契約論』で有名な政治哲学者ルソーは作曲家でもあって、確か五線譜ではないけれど、音を数学的に表現する数学記譜法を考えたりしていたはずだ。


 ちなみにルソーは『むすんでひらいて』の作曲者だったりする。


「ユリウスはヴェッセル商会を継ぐつもりはなかったってことですか?」

「どうなんだろうね。妻に仕事を仕込まれていたわけだから、そうしなければならないという風には考えていたんだろうけど、その妻も社会のためになることがしたいという考えを持っていたから」

「あ、ひょっとして私設塾って……?」

「うん。妻が始めたものなんだよ」


 エルマーが連れて行ってくれると言っていた私設塾は、母君が亡くなった後にユリウスが引き継いだものだったらしい。


「ユーくんは妻に影響を受けたんだろうね。国のために何かしたいって、子どもの頃からそんなことをよく言っていたよ。『みんなが豊かになれば楽器だってたくさん売れるはずです』なんて言ってね」


 元の世界でも楽器は高価で音楽にはお金がかかるものだったけれど、この世界でもそれは同じだ。


 ヴェッセル商会の主な取引先は貴族や貴族が抱える演奏家たちで、演奏家は一般市民でもなれるし才能があれば支援を受けられるけれど、音楽を学ぶにはどうしてもお金がかかる。


「でもユーくんはアカデミーを辞めてからも、どうしたらみんなが豊かになれるのかっていうのをずーっと研究してたんだよ。この国は周りに比べて豊かではないから、まずは農作物をどうにかしないといけないって」


 パパさんの説明では、この国は広さはそれなりにあるものの、水害が多いこともあって国自体が貧乏であるらしい。


「たまたまそういったことに詳しい人物がいたから、その人物と一緒に研究をしていたんだ」

「もしかして、それも私設塾ですか?」


 エルマーが連れて行ってくれるという私設塾は、ほとんど研究所みたいなものだと言っていたことを思い出す。


「そうだよ。いつだったかな、ジャガイモの栽培方法の改良に成功して、それで国中がすごく助かったことがあるんだよ」


 パパさんが自分のことであるかのように自慢げに言って、私はつい微笑んでしまう。なんだかんだ言っても、自慢の息子なのだろう。


「だけどその成功をやっかむ人もいて、嫌がらせみたいなこともされたんだよ。ちょうどエルヴェシュタイン城が建てられた後だったし、ヴィーラント陛下とうちの商会が癒着してるんじゃないかって」


 眉を寄せたパパさんが、内緒話をするように声を潜めた。


「あの時はユニオンが妙に絡んできて」

「ユニオン、ですか?」

「ユニオンは商人ギルドの元になった組織でね、都市間の商業同盟の仕組みを作って、その後ギルドへと変遷していったはずなんだよ」


 パパさんによれば、ユニオンはギルドの前身であった組織のようだ。しかし、対立からギルドを脱退した一部の商会たちが、再びユニオンを名乗り、組織として対抗してきているらしい。


「この国は少し特殊なんだよ。隣国は王が力を持っているんだけど、ノイマールグントは大領主の力が強い国なんだ。どうしてだかわかるかい?」


 ギルドの話からいきなり講義が始まってしまって戸惑う。


 確か領主の力が強いのは封建制って世界史で習った。でも隣国は絶対王政だと聞いているのに、どうしてこの国では違うのだろう?


「数十年前まで長い戦があったんだよ。僕が子どもの頃だからデニスも覚えているだろうね。人口はそれまでの3分の2まで減って、ノイマールグントの国自体が疲弊したんだ。復興もままならないほどにね」

「国主導で復興ってできないんですか?」

「戦費が嵩んだから国庫もほとんどない状態だったんだ。だから復興は領主に委ねるしかなかったのさ」


 ノイマールグントが貧乏なのは、その戦も原因のひとつだとパパさんは言う。戦で農地が随分と荒れたそうだ。だからこそ私設塾で改良したジャガイモの栽培方法が、国中で喜ばれたということだった。


「それで大領主はそれまで以上に力を持ったんだけどね、小領地の貴族たちは没落していったんだ。その没落した貴族たちに融資をして力を持ったのがユニオンなんだよ」


 そこでユニオンに繋がるのかと私は納得した。


「まあユニオンは取引自体は国外が多いから、金貸し以外に国内で名前を聞くことはあまりないんだよね」

「国外で取引しているのになんで絡んできたんですか?」

「没落する貴族が減ると国内の金貸し業がうまくいかなくなるだろう?」


 そういうことか。小領地の貴族たちに融資をする分には何も問題ないだろう。結果、小領地が復興されるのだから。しかし復興に役立つはずの栽培方法の改良を妨害せんと暗躍するのはよろしくない。


「栽培方法の改良が嫌がらせの原因だったとしたら、私設塾が狙われたんですか?」

「そう。魔女狩りを持ち出して……いや、これは止めておこう」


 魔女狩り。元の世界でもあった話だ。気にはなるが、パパさんが言葉を濁したということは、私が聞かない方がよい話なのだろうと判断する。


「私設塾だったね。あそこはユーくんが連れて来た怖ーい人がいるから大丈夫だったんだよ」

「怖い人?」

「うん、僕もしょっちゅう怒られてるんだ。しっかりしろって」


 その人の言うことはたぶん正しいんじゃないかな。でも怖いのか……行くのが楽しみなような怖いような……


「でも女の子にはたぶん優しいから、アマネちゃんは大丈夫だと思うよ」

「あの……、パパさんは気付いていらっしゃったんですね。私が女だって」

「さすがに一ヶ月も一緒に暮らしてるとね」


 パチリとウインクをしたパパさんを見て、やっぱりそういう仕草が似あうなと思う。


 パパさんがいつから気付いていたのかはわからないが、こっちは存在すら認識してなかったことを申し訳なく思った。


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