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お説教タイム

「申し訳ありませんでしたーーーっ」


 ユリウスと再会した私の第一声である。


 すぐ戻るつもりだったとはいえ、心配をかけてしまったのだろうから謝るしかない。そう思ってとにかく頭を下げたわけだが……。


「どうしたのだ? 何か謝るようなことがあったか?」


 久しぶりに会ったユリウスは、それはそれは綺麗に微笑んだ。


「それは……ええと……ごめんなさいぃぃ……」

「だから謝ることなど何もないだろう?」


 ぞわり、と私の両腕に鳥肌が立つ。


「ユ、ユリウス、あのねっ、話を……」

「すまんが俺とアロイスは師のところへ行かねばならんのだ」


 そう言ってユリウスたちは私を宿屋に置いて出かけてしまったのだった。


「はぁ……ったく、素直じゃねえなあ……」


 ザシャがため息を零す。私たちは宿屋の1階にある食堂にとりあえず腰を落ち着けた。


「うぅっ、ザシャもごめんね……」

「俺は別にいいけどよ」

「でも、ザシャと一緒の旅はテンブルグまでだったのに……」


 ザシャはヴァノーネには行かない。ピアノの作り方を教えるためにテンブルグに残るのだ。


「俺よりもモニカに謝っとけよ。すっげぇ心配してたから」

「だよね……」


 モニカとキリルにはすでに会ったが、私とユリウスの微妙な雰囲気に苦笑して荷物の整理をすると言って部屋に向かってしまったのだ。


「ラウロはどうしてんだ?」

「ヴィムに謝りに行ってるよ」


 私のせいなのだから私も一緒に行くと言ったのだが、それ以外にも話があるから遠慮してくれと言われてしまったのだ。もしかするとリシャールのことも報告するのかもしれない。


「ついでに休んでくれるといいんだけど」

「まあ、一人で護衛してたわけだしな」


 ゲロルトたちと一緒の時も昨日のミケさんの家でもラウロはほとんど寝ていなかったようだ。


「リシャールさんたちは?」

「仕事があるみてえ。さっき出かけたぞ」


 ちなみにエドはユリウスたちの護衛として着いて行っている。魔力の話をするのにエドを連れて行っても大丈夫なのだろうかと思ったのだが、ユリウスが指名したのだから何か理由があるのだろう。


「しかしまあ、無事で何よりだ」

「うん。ザシャたちも問題はなかった?」

「お前がいなくなったこと以外はな」

「う……ごめん」


 当面の問題は、ユリウスにどうやって許してもらうのかということだ。


「まあ、帰ってきたらなんかあるんじゃねえ? お仕置き的な」

「お、おしおき?」

「アロイスさんと相談してたから、覚悟しといた方がいいぜ」


 私からすれば先ほどのユリウスの対応がすでにお仕置きのような気がするのだが、もっとすごいのがあるらしい。


「まあ、フォローはしてやるから」

「止めてはくれないんだ……」

「そりゃあ、お前、俺だって怖いし。それに明日は歩き回るからな。体力は残しておかねえと」


 そういうザシャは、明日からテンブルグで家を探すらしい。


「宿だと高くつくしな」

「どこかの工房で教えるんだよね? そこで寝泊まりはできないの?」

「いや、テンブルグにも工房っつーか拠点を作るってユリウスが言ってた」


 それは初耳だ。ザシャの説明によれば、テンブルグはもちろんのこと、ルブロイスやヴァノーネにも商売を広げるためにテンブルグに工房を作ることになったそうだ。


「へえ。でも、テンブルグの工房に嫌がられたりしないの?」

「うちは窓口になるんじゃねえかな。メンテナンスくらいはするらしいけど、名前もヴェッセル商会っつー名前は使わねえみてえだし、仕事も出来るだけ地元の工房に回すようにするって言ってた」


 まあユリウスのことだから、私がアレコレ心配するよりも上手くやるのだろう。


「っ、いたた……」

「どうした? 怪我してんのか?」


 椅子の背もたれに寄りかかろうとした時、背中に痛みが走った。そういえば襲撃の際に馬車でぶつけたことを思い出す。昨日は特に痛みはなかったのだが、一晩寝たら痛み出したのだ。


「や、ちょっとぶつけちゃっただけ」

「ったく、気を付けろよ。お前らも明日からあちこち行くんだろ?」

「うん。そう聞いてる」


 と言っても、フルーテガルトにいた時に聞いた予定なので変更はあるかもしれないが。


 私たちは明日の午前はテンブルグの貴族たちへの挨拶回りというか音楽教室の宣伝営業で、午後はフライ・ハイムの支所に顔を出すことになっていた。フライ・ハイムに行くのはフィンから支所に届けてほしいと預かっているものもあるし、もしかするとユリウス宛てに何かの連絡が入っている可能性があるからだ。


 その後は街を散策しながら時間を潰して、学校が終わる夕方にマリアに会いに行くことになっている。


「学校の中も見せてもらえるんだって」

「出来たばっかりなんだろ? どんな楽器が置いてあるか、ちゃんと見て来いよ」


 言われるまでもなくそのつもりだ。まあ、学校の設立にはユリウスも協力したので、聞けばわかるのだろうけれど。


「明日の晩飯はどうするんだ?」

「カッサンドラ先生のお宅に招待されてるんだよ」


 ついでに私たちは練習させてもらうことになっている。実は私たちが来ることをマリアから聞いた先生方が演奏会をしてほしいと言ってきたのだ。そのため、練習場所を探していたところ、カッサンドラ先生が場所を提供してくださると申し出てくれたのだった。


「ザシャは一緒に行かない?」

「上品な食い方すんだろ? ムリムリ。リシャールさんたち誘うわ」


 ザシャは堅苦しいのが苦手というか、敬語を使ったりするのもあまり得意ではないと言う。そういえば、以前シルヴィア嬢と偶然会った時もちょっと困った顔をしていた。


「演奏会は3日後なんだよ」

「ふーん。そういやあ、領主にも会うんだろ?」

「うん。そうみたい」


 領主に会うのは2日後だ。こちらから用があるわけではないが、挨拶をしておいた方がよいとユリウスが手配してくれたのだった。楽師をしているプリーモやルイーゼともその時に会えるはずなので楽しみにしている。


「お前、あの男とは会うのか?」

「まだ迷ってる……」


 ザシャが言う「あの男」とはギュンターのことだ。ギュンターは襲撃の際にゲロルトの炎で背を焼かれ、多少の手当てを施された上でテンブルグへ護送されたのだ。牢に入れられていると聞いているが、会うことは可能だとユリウスには言われていた。


「まあ、俺は無理に会う必要はねえと思うけど」

「そうだね……でも、なんかスッキリしないんだよね」


 ギュンターに襲われたのは二度。一度目は私の性別を暴きエルヴィン陛下に教えるためだと言っていた。一度目の襲撃の後、テンブルグに賠償金を請求したと王宮にいる侍従長から聞いたが、そのせいでパトロンを失ったとも聞いている。二度目の襲撃はその逆恨みだろうという話だった。


 その説明に納得していないわけではないのだ。だが、二度の襲撃で私は彼の憎悪を実感した。殴ってきた時のギュンターは私のことが憎くてたまらないという表情だった。それほどまでに憎まれるようなことを私はしてしまったのだろうか。その疑問がギュンターに会わなければならないと思う理由だった。


「ふうん。まあ、俺はよくわかんねえし、ユリウスとも相談して決めろよ」

「うん……でも」

「お仕置きが先だけどな」


 ザシャの言葉に私はがっくりと項垂れたのだった。











「ゲロルトとの旅は楽しかったか?」


 そんな言葉からユリウスのお仕置きタイムは始まった。


「あのね、ペンダントがね……」

「俺は楽しかったかと聞いている」

「えっと、あの、楽しいっていうか、そういうことじゃなくて……」


 何これ怖いっ! ユリウスは相も変わらず美しい笑顔をキープしているのだ。


「そ、そうだ! ゲロルトから気になる話を聞いたんだよ」

「それは後で聞く」


 完璧な角度で上がった口角のままユリウスが言う。泣いてもいいかな?


「我々の世界では、菓子を差し出されても怪しい人物に着いて行ってはいけないと言われて育つのだが、渡り人の世界では違うのか?」

「違わないけど……お菓子はもらってないよ……?」


 お茶はいただいたけど。


「なるほど。お前にとってゲロルトは怪しい人物ではないということか。確かに助けられたことはあったな。拉致されたこともあったと記憶しているが」

「……ごめんなさい」


 もう本当に、誰か助けて!


 そう心の中で叫んだ時、扉を叩く音がした。天の助けがやっと来てくれたようだ。


「お話し中に申し訳ありません」


 にこやかに入ってきたのはアロイスだった。


「アマネさんが背中をぶつけたらしいと聞きましたので、薬をもらってきたのです」


 アロイスはザシャに話を聞いたのだろう。片手に軟膏の容器のようなものを持っていた。


「すみません。大したことないんですけど……でも、助かります」


 受け取ろうと手を差し出すが、アロイスは微笑んだままで渡してくれない。


「ユリウス殿、予定を少し変更しても?」

「問題ない」


 何故かユリウスの了承を取ったアロイスは、そのまま私に言い放った。


「私が塗って差し上げます」

「え……っ、いやいや、自分で出来ます」


 慌ててそう言うが、アロイスの口角も完璧な角度をキープしたままだ。そういえば、ザシャは何と言っていたっけ? 確かユリウスとアロイスがお仕置きの相談を……?


「私が塗って差し上げます」

「あ、あの……でも……」


 繰り返すアロイスの前で私は顔を青くする。背中に薬を塗るためには胸に巻き付けた布も下着も外さなければならない。チラリとユリウスを見れば美しい笑みが更に深まった。


「ユリウス殿の前で私に薬を塗られる。それが私からのお仕置きです」


 アロイスの言葉に絶望する私だった。


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