死んだ僕と死ぬ前の僕
6月9日(火)
暑い。外に出ても、雨でやる気が出やしない。
この、糞みたいに気だるい雰囲気を誰か変えてくれないか……。そんな、毎日である。
僕の名前は、田辺 和良
高校2年生。17歳。体重65㎏ 身長175㎝
好きな食べ物は蟹。嫌いな食べ物はマヨネーズ
彼女なし。特になにか優れた容姿でもないし、頭脳明晰な訳でもない。
『普通の普通の高校生だ。』
これは、そんな普通の高校生のが、繰り広げる。物語である。
Episode1
朝だ。早朝というのは、誰しもが機嫌が悪くなるものである。
うるさい携帯のアラームを消し、布団から出たくない。
この眠れるという、幸せがあるならば、もっと寝ていたい。起こされたくないのだ。
そして、仕方なく、彼女のように大切である布団を苦しい気持ちで手放し、リビングに向かう。
まず始めに、何をしようか、何をしなければならないかー。
何で時間がないのに、こんなに短時間で、身支度を考えなければならないのだろうか…。
歯を磨き、顔を洗い、髪を整え、着替え、朝食を取る。気が狂いそうだ。
全ての身支度を整え、
(今日も、学校か……。眠いなあ。)
そんな、ごく当たり前なことを考えながら
テレビをつけ、朝のニュースをみる。
すると、母が起きてきた。
僕の母は、朝に弱い。スナックで働いているからだとは思うが、寝起きの悪い、だらしない顔で煙草を吸い始める。コーヒーを片手に持ちながら、気だるそうに、ゆっくり椅子に座った。
僕は母の顔を見ながら
「母さん。おはよう。帰りは、早く帰ってくるね。」
反応がない。機嫌が悪いんだろう。こういうときの母は、下手に会話文を増やすと睨まれる。なので、僕は簡潔に挨拶程度の社交辞令かのような振る舞いをしながら、玄関に向かった。
玄関で革靴を履く。
しかし、そこには、僕の靴が無かった。
何故だ ? どこかに忘れたのだろうか ?
いや、靴を履き替えたりしない限りは、忘れるなんてことは、普通にあり得ないだろう。
しかも、履き替えた記憶なんて、覚えていない。
じゃあ、盗られたか?いや、家に帰ってくるまで履いていたのだから、そんなことはない。
そんな事を、推理している間に
「ガシャン!」「バタン!!」
何かが倒れる音がした。
母が倒れたのではないか?
物が落ちたのではないか?
不安と恐怖ながらも、心配でリビングに戻った。
少し焦りながらも、顔が青くなりながらも、リビングに入ると母が床に座っていた。
正確に言うと、崩れ落ちた。という例えの方が、良いのかもしれない。
力が抜け、腰を抜かしたかのように……。
母は涙を流しながらも、TVに向かって
「嘘……。何で、何で、和良…。和良…。」
と嗚咽を吐いた。
何がどうしたか、理解できなかった。
朝起きて、家を出ようとしたら、
母が泣き叫んでいる。
人はこういうことで、パニックになると頭の中が白くなるというが、それ以前に怖かった。
頭と心が追い付かず、離れる感覚とは、このことを指すのだろう。
そして、テレビの画面を見たとき、僕は母が崩れ落ちた理由を理解した。
テレビの画面には、僕の顔が写っていた。
『高校2年生(17) 田辺 和良
都内公園内のトイレで変死で発見。』
そう、テレビの画面に映った、
僕は、『死』んでいたのだ。