ギーナ王国編序章3
続きです。
目を覚ましたのは宿のベットの中だった。周りにはヴェインと涙目になっているアリアと優鬼がいた。
「どうしてここにいるんだ?」
「やっと起きてくれた。もう…死ぬんじゃ…ないかと…思ったのに…よかった…よかった……うえぇぇぇぇーーん」
「泣くな、アリア。ジークは生きてたんだ」
いきなり泣かれても困る、てか質問の意味に答えてほしいんだが…
「質問に答えてなかったな、結果から言うと俺が倒した。ヴェインやお前が死ぬのは流石にこの世界のことを教えてくれた恩を仇で返すわけがないからな。だが、俺が仇をとってすまなかった」
「……いや、ヴェインを助けてくれて、ありがとな」
優鬼が謝る必要は無いし、正直感謝しているのだけどな〜。
「てか、いつまで泣いてんだアリア?俺は無事だったんなら泣き止めよ。そんなことより優鬼はこれからどうするんだ?」
「…俺はまだこの世界の事をあまり知らないから邪魔でなければお前らについて行きたい。そしてある程度強くなったら魔王を倒しに行こうと思ってる」
優鬼の意思は固かった。それを察してヴェインは、
「そうか。ならジーク達と同じ学園行かなきゃならないな」
優鬼は怪訝そうな顔でこちらを見てきた。
「このギーナ王国にはいくつか学園があって私達はその中の王立第三学園に在学してるの」
「今は面倒くさいことに冒険者になっているが、これも学園側の意向でランクEになるまでは学園に帰れないんだよな〜」
「ジーク説明が足りないぞ。学園は基本5年制で最初の1年間は基礎的な魔法や剣術などの戦闘術を教えてもらう。その後に冒険者ギルドに所属して、ランクEになるまでは学園に帰れなくなる。大体1年くらいでなる人が多いため、ランクEになり次第、3年生としてまた学園で学ぶ。そして俺らは今ランクがFで2ヶ月前に学園から出たわけだから結構早く学園に戻れそうなんだ」
「つまりね、優鬼が一緒についてくるなら私達と同じ3年生にならなきゃいけないの。そうするためには2つ方法があって、1つ目は学園の特殊特待生Sに合格すること。2つ目は冒険者ギルドのランクでE以上になること。このどちらかで編入が可能になるの」
「ふーんで、どっちが早いの?」
余裕綽々と聞いてくる優鬼に対し、ヴェインは呆れて、
「お前なぁ、どっちも楽じゃないぞ。今回倒した魔族によって、ランクの上下は決まると思うが。それができなかったら、来月の編入試験をやれば良いと思うぞ」
「まぁ、ギルドに行けば分かることだから、行ってみようぜ」
そう優鬼が言うとヴェインとアリアは準備しはじめた。ただ1人、ジークだけが 嫌そうな顔して言った。
「あのな〜病人を連れ出すような真似はやめてほしいんだが。第一遺体はどこに置いてあるんだ?」
「俺の時空魔法の「収納」でしまってある。えーと、これだな」
そんな事を言って首のない遺体取り出す。
「お、おう。てか明日にして欲しいんだが」
「お前に拒否権はないな。いつも怠けてるならその分の体力を使え」
この世界はやはり俺には優しくないようだ。どうしても行くらしい。魔族討伐などの大きい依頼は報告時に証拠とともに当事者もいなければならない。面倒くさいことに俺も当事者なので強制的に連れてかれるようだ。誰でもいいから転移魔法で連れて行ってほしいんだが。
「なぁ優鬼お前神域の魔術で転移とか使えないのか?ベットに寝ている人を普通は移動させないだろ、だからそれで運んでもらえるとありがたいんだよな〜」
「やってみないとわからないぞ」
そんな事を言いながら手を掲げて「ワープ」と唱える。手から約1メートルほどのところに黒い渦が出来た。多分これが「ワープ」なんだろうけど、中に入ったら戻れないような気がして恐怖を感じる。
「おい、優鬼これ入って大丈夫なのか?」
「知らん。まぁ入ってみるけど」
優鬼は躊躇なく渦の中に入った。
「中は普通にギルド内だぞ、早く中へ来いよ」
どうやら心配はないらしい。
「あー」
曖昧な返事をして、3人は優鬼に続いて中へ入る。入ってみるとやはりギルドの中のようだ。神域の魔術士は伊達じゃないらしい。てか俺もMPは500ぐらいはあるんだけど適性がないからな〜。非常に羨ましい。魔法が使えるだけでどれだけ怠けられることか。あーでも俺は支援系の魔法は適正があったはずだから、怠けるためにあいつに教えてもらうとしよう。
それにしてもギルドがいつもより騒がしいな。なんか俺たちを見ているような気がしなくもない。俺は人に注目されるのは好きじゃないんだけどな〜。
「報告して帰ろうぜ」
「そうだな」
そう言い、マルリーナさんのところに行った。
「大丈夫でしたか!?行方不明になっていると聞きましたが」
「はい大丈夫でしたよ。途中魔族が出てきて、死にかけてましたがなんとか倒しましたよ」
ヴェインのいつもより気持ち悪い喋り方に驚いているのか、魔族の方に驚いているのかわからないが、困惑しているようだ。
「そ…うです…か。えーと、魔族を討伐したのですよね?えーと魔族の名前と遺体の方をお見せできますか?」
「あぁこれでいいか」
「収納」からルシフェルを取り出す。
「「「!?」」」
ギルド内が騒然となった。周りから
(マジでたおしたのか)
(剥製なんじゃね)
(ヴェイン達の横にいるやつだれだ?)
などの声が聞こえる。
「名はルシフェルで3時間前に殺った。どのくらいのランクなんだ?」
「ルシフェルというのは、ランクAの討伐対象ですのでそれを倒したとなると、確実にB以上になりますね。倒したのは優鬼さんで戦いに参加したのは皆さんで間違い無いですね?」
「まぁそんなとこか」
「でしたら少々お待ちください。ギルドマスターとその上層部に報告したのちにギルドランク昇格について報告いたします」
「あぁわかった。俺たちはこれで帰ることにするよ」
「なんの騒ぎだ?」
「!?ギルドマスターお帰りになられたんですか?今優鬼さん達が魔族のルシフェルを討伐したということで少々騒ぎになっています」
「!?それは本当か?すまん帰るところですまないのだが、第二会議室で待っていてくれないか?」
「俺は構わないがお前らは?」
「私も同じ」「俺も」
「俺は早く帰りたいからパス」
だって話長そうだし、実際疲れ取れてないし、めんどくさいじゃん。とりあえず帰ろうとおもう。
「じゃあな〜」
「行かせねぇし、怠けるんじゃねぇよ」
ドスッと溝打ちをヴェインに入れられ、アリアがどこからか出したかわからない麻縄(優鬼作)で俺を縛る。その後会議室にに引きずられていった。その間ジークはずっと「解せない」と言っていた。
「待たせてすまない」
少し落ち着いた声でギルマスのバロワーが言った。
「いえいえ、そんなことよりもここに呼んだ理由をお聞かせ願いますか?」
「あぁそのことなんだが、上層部に掛け合う必要なくお前らは全員ランクDに昇格しようと思ってな。それでお前らに聞こうと思った。昇格の理由はランクAの魔族を倒したことと、その周りにいた全員「黒の毒牙」っていう盗賊団で、討伐ランクDだったのを倒したからだ。一応上には報告するが、お前らはどうする?昇格するか?」
「俺はします」
「私も同じで」
「右に同じ」
「ジーク達がなるんなら俺も頼む」
「わかった。たった今言質が取れたから、ギルドカードとステータスカードだせランク変えるから」
そう言われてジーク達はカードを提出する。カードを受け取ったバロワーは事務室に行った。数分後には帰ってきて
「ほい、これで晴れて1人前の冒険者の仲間入りだ。D以上になると難易度の高い依頼もあるから死亡率も高まる。くれぐれも死なないように、自分の実力にあった依頼を受注しろよ」
「「「「了解です(へーい)」」」」
返事をしてジーク達はギルドを後にし、宿に向かった。
「この後どうする?」
「どうすると言われても俺は寝たい丁度昼時だから昼寝にはいいんだ」
「俺はお前の今後を聞いたんじゃねぇよ。アリアはどうする?」
「うーん、昼なら学園に申請するのもいいんじゃない?」
「確かにまだ学園を出てから2ヶ月しか経ってないから、Sクラスになるしな。申請してくるか」
「んー、俺は後で申請するし、優鬼といるから2人で行ってきてどうぞ。あと、優鬼と話したいことがあるから」
怪訝そうな顔をしながらヴェインとアリアは学園へ向かっていった。
「そういえば特待Sの試験っていつなんだ?」
「えーと、確か来月の5日らへんだったはず。出願は今月の20日だ。その日に俺も行けばいいだろ」
「そうやな。で、話したいことってなんだ?」
「一つ聞いてもいいか?」
「あぁ構わない」
「ルシフェルを殺したときにお前どうやって倒したんだ?」
ジークはいつもと違い真面目な表情で聞いてきた。
「時空魔法の「時空斬」を使った」
「なるほど。もう一つ、お前何が目的だ?あっちの世界から来てから何がしたいのか分からない」
「俺は魔王を1人以上倒s「嘘をつくな」
優鬼の答えを遮り、ジークはトーンを下げて睨みつけるように言った。
「嘘はついていない」
「真眼を忘れたか?人の心くらい簡単に分かるんだよ。俺の父さんと関係を持っていたんじゃないか?」
「!?何故それに気づいているんだ?俺は一度も翔真のことを話してないぞ」
「最初に俺の父さんのことを「世界の電子本」で調べてた時お前は驚いたような表情をしていた。あと、俺を見てお前が最初抱いた感情は(懐かしい)だった。
この2つで関係があることを確信してた。」
「何が言いたい」
イラついたように睨みつける。
「お前は俺の父さんの何だったんだか聞きたい。ただそれだけだ」
「それぐらいなら答えよう。俺はあいつの幼馴染で親友だった。会社も同じところに就いて、働いてた。だが3年前に死んだ。死因は過労死だった。上司の仕事がクズで、仕事を押し付けられていた。そんな中でも俺の仕事も手伝ってくれて一緒に頑張っていた。だけどそのうち他の人も押し付けるようになって、そんなことをしているうちに捌けずに残業で会社に泊まることが多くなった。そしてその生活を始めてから2ヶ月が経ったある日、静かに眠りについていると思ったら、死んでいた。肌が氷のような冷たさだった。ふと、目に付いたのがPCのメールのところだ。そこには[疲れたから先に逝くわ。優鬼今までありがとう。恨むなよ]そう書いてあった。でも、遺言には見えなかった。何かを伝えたそうな文章だった。それでも俺はその場で泣いていた。泣き続けた。あいつに謝りたいこと感謝したいことが沢山あったのに、あいつが先に逝ったからいえなかった。あいつの誕生日、死んでから5日後に控えていたのに。感謝として色々と用意してたのに死んだんだよ。この世界に来たのは単純にあいつにどんな形でもいいから会ってみたかったからだ。そしてありがとうって言いたかったんだ」
涙を流しながら優鬼は語った。
「そう…か、なら…いい」
俺も亡くなった日のことを思い出していつのまにか泣いていた。
「今度…父さんの…墓に行くから…一緒にどうだ?」
「あぁ、同行する」
ジークは涙を拭いて、
「話してくれて、ありがとな。」
少し安心したように笑って昼寝した。
「おう、こっちこそな」
優鬼はどこかへ出かけに行った。
一方その頃ヴェイン達は学園の事務所に行っていた。
「いくらなんでも早くないですかね」
「いや、そう言われましても、ほらギルドカードにはこうなっていますし」
「…確かにそうですね。でしたらこちらの進級証明書にサインをお願いします」
事務所のおばさんは疑わしいものを見る目で睨んでくるが、2人はスラスラと書いていく。
「これでいいでしょうか?」
「あぁ、それとこれだよ」
そう言って学生証を渡してきた。
「ありがとうございます。それでは来年の4月に」
「はいよ」
そう言い残し学園を後にして宿に帰っていった。
日が経ち、20日になった。ジークとヴェインは、学園に向かった。事務所に入る前に人だかりができていた。
「うわぁ、待つのだるいだが」
「それには同感だな、もうちょっと少ないと思ってた」
「あー分かる。でも実際この学園人気だからね〜。結構集まると思うよ」
「はぁ待つか」
学園の編入試験を受けに来る人はざっと1000人はいた。さらに増えるからめんどくさいと優鬼は思っていた。
「在校生の方はこちらにお並びくださーい!」
奥の方からこんな声が聞こえた。
「んじゃ俺は行ってくるわ。頑張って並べよ〜」
「んな⁉︎もうちょっと待ってもいいだろ」
「いや、俺この後用事あるし、早いことに越したことはないからなー」
そう言ってジークは優鬼を平然と見捨てる。優鬼は後で〆ようと心に誓った。
「すいませ〜ん、進級証明書くださーい」
「なんだい、忙しい時にって、ジークじゃないか。あんたが進級だって笑わせるんじゃないよ。学年一の怠け者がこんな早いわけないだろう?」
少しイラッときたが平然を装い俺はこれを渡す。
「!!これは、ランクDになってる。はぁあんた何やったんだい?盗賊の討伐?」
「いや、魔族討伐の手伝い的なsomething をやっただけだが」
「へえーそれは頑張ったわねって、魔族討伐?!あんたそれって普通はBになってるレベルじゃ?」
「いやだから手伝いだからこのレベルなの。はぁ面倒だな〜」
「そうね。あんたが活躍なんてありえないからねほらこれ書いて」
癪に障るが気にしないようにして、サインをしていく。
「ほらよ、学生証だよ」
「ありがとなー」
学生証(Sクラス)を手に入れて俺は宿に帰っていった。
(あいついなくなりやがって)イラつきながら優鬼は順番を待っていた。だがもうすぐ受付に入ろうとしていた。
「では次の方どうぞ、こちらに書いていただくのと、ステータスカードの身分の欄をお見せください」
優鬼は受験票に必要なものを書いていった。
「大丈夫そうですね。ではこちらが受験票になります。学園での一時的な身分証となりますので試験の日にお持ちください」
「わかりました」
そう言い、優鬼も宿に帰った。
Side ???
魔族領のとある神殿にて…
「不覚だった。転生者にやられるとは」
ハイト(ルシフェル)は悔しげにそう言った。
「あなたが負けたの何百年ぶり?まぁ、記憶だけ継承して肉体が変わったから、今はいいじゃない後で殺せばいいだけだし」
「それもそうだな、次に会った時は臓物を撒き散らして、回復魔法をかけながらじわじわとやってやるとしよう」
そう言いながら2人はこの神殿を後にして何処かへと向かった。それはジーク達にとっては悪い方向だとはまだ誰も知らない。
次から1章の学園編にうつります。