そこにある線を
僕の目の前には線がある。
それも決して見えやしない線が。
彼らは言う。大人になれと。その線を越えろと。
そして、周りのみんなはそうするんだ。一歩を踏み出し越えて行く。
そう、何も考えずに。
彼らは、僕にも越えさせようとする。その線を。
でも、その線を越えれば、もう戻れない。それを彼らは分かっていない。
彼らは僕の手引いたり、優しく語りかけたりもする。
でも、僕には見える。彼らの汚れた部分が。彼らの冷たい部分が。
そんな、怖いところには行きたくない。あんなに汚れたくはない。
僕の心はそう言う。
でも、怒声を受ける心は傷つき叫ぶ。もう嫌だ。と。
あっちに行けば楽なんじゃないだろうか。ここで、傷つけられるよりかはずっと。
僕が、振り返った時には一緒に並んでいたはずの子供はいない。みんな彼らになってしまった。
どれだけ目を凝らしても、ただ僕が線を越えることを待っている次の列が見えるだけだ。
そして、次の列の子達は僕を抜いて先へ行く。
次々、彼らになっていく。
どうして?僕はどうすればいい?もう、分からない。
僕の心は彼らに傷つけられる。
でも、心は言う。行くなと。そして、そのすぐ後には叫ぶ。もう嫌だ。
「行くな」と「もう嫌だ」が僕の中で重なり、ぶつかり、弾ける。
僕はまだいるよ。線の前に。