イウと塔の採掘師
週末小夜譚第2話
一階また一階とイウが塔を降りていくほどに、彼女の鼻を、目を、口を襲う土ぼこりは酷くなっていくばかりだった。彼女におつかいを頼んだ塔の番人は彼女の顔を覆うためのマスクを貸そうと提案したけれど、イウはそれを断った。
「自業自得というものじゃないかしら」
イウが呟くと、すかさずイウが答えた。
「だって可愛らしくないのだもの」
イウは口を尖らせて反論する。
「まあ、可愛らしさは大事よね」
「そうよ、女の子は可愛らしさが第一義なのだもの」
イウは気を紛らわせようと、とりとめもなく一人二役の独り言を喋りながら、さらに階段を下りていく。
「そうそう。さすがね私」
「そうね。でも、少し後悔していることを認めなければならないわ」
「うん、こうけむったくっちゃ、せっかく綺麗な髪も、夜なべして作った服も台無しだもの」
「マスクで服は守れないけれど」
「それを言うなら髪もだわ」
「馬鹿ねえ、イウ」
「イウこそ馬鹿ね」
しかしこの退屈しのぎもすぐに止めることになった。というのも、喋るために口を開くたびに、砂を含んだ空気で口の中がじゃりじゃりになるということに気がついたからだ。
塔の番人はイウに言った。
「この塔の地下には、何が楽しいのか延々と地面を掘り返し続けている人がいるんだ。彼のところへ行って、掘り返して出てきた石をこのカゴ一杯にもらってきてくれないか。紫の、透明な石だからきっとすぐ分かる」
イウは何故番人がそんなものを欲しがるのか理解できなかったけれど、自分の次に大切な存在である番人が欲しがっているのなら、取りに行ってあげようと考えたのだった。
塔を降りたらまた昇らなければならないことに気がつき、帰りの道のりを思って暗澹たる気分になったころ、イウはようやく目的の採掘師のもとへとたどり着いた。彼女が携えている灯りは小さなカンテラ程度のものだったが、周囲に響き渡る採掘音のおかげで採掘師がどこにいるかはすぐに分かった。
彼の足元には薄紫色の石がごろごろと転がっていた。
つるはしで岩盤を掘り砕いている男に、イウは尋ねた。
「この足元に散らばっているの、いただいても良いかしら」
しかし男はイウを一顧だにせず、めちゃくちゃにつるはしを振り回し続けている。イウは、今度は少し声を張り上げて言った。
「ねえ! この綺麗なのもらっていくわよ! 番人さんの言いつけだから、良いわよね!」
すると石堀り人は騒音に負けないほどの大音声で言い返した。
「あんだあ! 石が欲しけりゃ持っていけ、いつものようにな■■■■■! とっとな! ワシの邪魔をしないようにな!」
耳慣れない■■■■■という言葉は、どうやら塔の番人の名前らしかった。しかしそのころにはイウはもうカゴに石をつめ、階段を昇り始めていた。想像以上に重量を増したカゴに、イウは深いため息をついた。
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