温もり
ユキが行方不明になってから一日が過ぎた。
僕とリンナはサリナが目覚めるまで待つことにしたが、消耗が激しかったのかなかなか目覚めてくれない。
僕たちのパーティーにはサリナの魔法は絶対と言って良いほど必要だ。しかし、サリナは目覚めてくれない。
こうなってしまっては僕たちも動きたくても動けない。
「優人、ちょっと外の空気吸ってくるわね。サリナのことお願い」
そう告げるとリンナは部屋を出て行ってしまった。
「サリナ、僕のためにゴメンね」
僕は眠ったままのサリナの頭を優しく撫でた。少しくすぐったそうな様子だが、それでもまだ目が覚めることはない。
このまま、目が覚めなかったら。ユキも帰ってこずに、リンナと二人で旅をすることに。そもそも、サリナが眠ったままなのにどうやって旅に?
一人になった途端に不安で胸がいっぱいになる。なんで、こんな事に。過ぎ去ってしまった事を後悔しても結果は変わらない。分かっていても自分を責めてしまう。
こんなはずじゃなかった。こんな事になるなんて思っていなかった。僕たちならこの世界の全てを手に入れられると、この世界の主人公なんだと勝手に思い込んでいた。
現実はそんなに甘くなかった。
自分の夢を乗せた船は見事に暗礁に乗り上げて、沈没するのを待つ状態だ。
「ほんとに、ごめん…」
悔しくて涙が溢れる。仲間に裏切られたこと、自分を助けるために仲間が限界まで消耗してしまったこと、その仲間に自分は何も返すことが出来ないこと。
多くのこんなはずじゃなかったに襲われ、今は最悪の結果となった。
「こんなはずじゃなかった。この世界に来るはずじゃなかった。現実で幸せな生活を送りたかった。なんで僕ばっかりこんな辛いことがあるんだよ…」
サリナを見守りながらなくことしか出来ない僕を許してくれ…
「優人…」
この温もり、どこかで感じたことがある。懐かしい感覚。
「お、お母さん…」
その女性の温もりは僕を慈しみ、そして割れ物を優しく扱うように僕を胸に抱き寄せた。
「お母さん…僕これまで頑張ったんだよ…それでも僕の力じゃ何にも出来なくて…僕みたいな何の取り柄もない僕なんかじゃ…」
お母さんは何も言わずに黙って僕を抱きしめてくれる。
「僕は、何でこんな世界に…何で現実世界で幸せになれなかったの…こんな世界なら僕は頑張りたくない!!」
僕の本心、自分が主人公となってどんな不幸も乗り越えられる特殊能力でも備わっていると思ってたが、そんな事はなく、世の中は不平等で現実と変わらず、大切なものばかり失う。そんな世界に来たいんじゃない。みんなで幸せになりたかっただけなのに。
悔しさでさっきから泣いてばかりだ。それでも涙は枯れることなく流れ続ける。
「優人、あなたが頑張ってるのは皆が知っているわ。誰よりも頑張ってたものね」
「お母さん、僕はもう頑張りたくないよ」
「じゃあ、優人はここで諦めるの?」
悲しそうにお母さんは僕に問いかけてきた。
「だって、もう無理だよ。こんなに頑張ったのに何にも良くならない」
いきなりこんな世界に飛ばされてここまで来れたんだから、それだけで十分じゃないか。これ以上進んだって、何にも変わらないんだよ。
「頑張っても何も変わらないこともあるわ。あなたの長い人生の中で悲しいことや辛いこと、それこそ消えてしまいたくなることも多いと思うわ」
「だったらもういいよね」
「だめよ」
お母さんははっきりと言ってきた。
「だめよ。諦めるのは許さないわ」
「何で!もういいじゃん!頑張ってもダメだったんだよ!」
今まで苦労した、もう嫌ってほどに苦しんだ。これ以上苦しみたくないのに、何でお母さんは分かってくれないんだ。
「あなたが苦しかったのは分かるわよ。言葉では言えないほど辛かったでしょ?信じていた仲間に裏切られて辛いわよね」
「お母さんも分かってるなら」
「優人、あなたは立ち上がれる強さがあるわ」
立ち上がれる強さ?
「優人、生きていれば必ず辛いことや許せないことがあるわ。落ち込んだりしても良いのよ。でもね、転んでしまってそのまま立ち上がらずに泣いてるだけなのはお母さん許さないわ。優人、優しく強くありなさい。特別な能力なんてなくても、あなたは私や、あなたの仲間にとっては一番のヒーローなんだから。優人の優しさはどんな能力よりも大切な宝物なのよ」
そう言って、優しく抱きしめてくれる。
「お母さん、もう少しだけ頑張ってみるからさ…もうちょっとだけでも頑張ってみるから…」
次がダメだったら諦めよう。でも、今はもう少しだけ頑張ってみればいいか。
「お母さんはいつでも優人の味方だからね。ほら、涙を拭いて胸を張って行ってきなさい。あなたなら大丈夫よ」
お母さんの胸から離れて、胸を張って一本の道を歩く。
ここが夢なのか天国なのか分からないが、なぜか進む方向は分かっていた。今から帰るんだ辛い冒険にまた皆で挑んで、笑いあったり喧嘩したり、それでも進むんだ。
眩い光が僕を包んだ。目を開けると、横に寝ていたサリナが目を覚まして僕を見つめていた。
お待たせ致しました。まっさんです。
突然ですが、皆様は母の温もりを覚えておりますか?
子どもの頃、母の手の温もりは何よりも安心するものでした。
いつの間にかそんな事も忘れて、忙しく会話も少なくなったり、思春期になり雑に扱ったりと、している方も居られるかも知れませんね。
もし、そのような方が居られるのでありましたら、今すぐに親の温もりを思い出して頂きたいです。
いつまでもあると思うな親と金と言いますように、親孝行は出来る間にしておかなければ一生後悔してしまいます。
そんな事を話しましたが、私も親孝行出来ておりませんので、何をするか考えつつ今回を執筆しておりました。
優人と母のやり取りで、自分の事を少し思い出し泣きそうになるまっさんでした。
これ以上書くとガチ泣きしてた事がバレそうなのでやめておきます。
それでは今回も楽しんでいってください。




