現実と空想
やっと宿に着いた。
何だか食虫植物のことを話していたら、調子に乗って生命に感謝しなければいけないとか少し恥ずかしいな。
「何も恥ずかしい事はありませんよマスタ~」
「うぉ!ビックリした」
僕の耳元でサリナが良き多めに呟いたので、ゾクゾクしてしまった。もちろんエッチな方じゃなくてだよ?悪寒的なほうの話だよ?
「恥ずかしがってるマスター可愛いです」
お願いだからそれ以上言わないで。自分でも変な声出した自覚あるからさ。
「最近は、いただきます、ごちそうさまを言う人が減ってきましたね」
サリナの言ってる事、それはこの世界の人の事だろうか?それとも僕たちが元々居た世界の人たちの事だろうか?
「どちらの世界にも共通してですね。私の言っているのは」
相変わらずさらっと心を読み取ってくれる。この能力、僕がサリナに対して卑猥な事を考えたらどんな反応するのかな?
興味がわいたので、サリナの大きな二つのプリンをいただきますする想像をしてみた。
サリナのほうを見ると、少し顔を赤く染めている。
「マスターがお望みなのでしたら、今夜一緒に夜桜の下で…」
「サリナ本気で言ってる?」
「もちろんですよ。マスターのためならいくらでも私脱ぎますので…」
お互いの唇が接触しそうな距離。その妖艶な唇に僕のモラルが瓦解していく。
二人の距離は更に近付き、唇が接触しそうになった。その瞬間。
グサッ!
僕の腹部から赤い液体が垂れて、意識が遠のいていく。
遠のく意識の中で最後に見たのは、僕の返り血を浴び、短刀を持ちながら泣くユキの姿だった。
またお婆ちゃんに会う事になった。
「お婆ちゃん何回もこっちに来て、反省してるんだって!僕も来たくて来てるんじゃないんだって!お願いだから信じて!お願いだからサソリ固めをそろそろ止めて!二度と動かなくなっちゃうから」
サソリ固めから解放されると共に目が覚めた。
どうやら僕は宿で治療されているようだ。隣でサリナが魔法をかけてくれていて、心配そうな顔でリンナが部屋の隅に座っていた。しかし、周囲を見渡しても僕を刺したユキの姿は見当たらない。
「マスター、目が覚めましたか?」
僕が目覚めた事にサリナが気付いた。
「バカッ!」
バチンと頬っぺたをリンナにビンタされた。ビンタされたのに胸に暖かく柔らかい感触が伝わってくる。
「すっごく心配したんだから」
普段はクールで、ツンツンしているリンナだが今回は相当心配だったのか、泣きながら僕の胸に飛び込んできて、そのまま泣き続けてる。
「ごめん、まさかこんな事になるなんて」
そっとリンナの頭に手を添えた。
「マスターが目覚めてよかったです。すいませんが、サリナは少し休ませて頂きますね」
そう述べると、サリナは寝息を立て始めた。
「優人、サリナに感謝しなさいよ。彼女二日間ずっと治癒魔法使ってたんだから」
僕が意識を失って二日も過ぎてたのか。本当に不甲斐ないマスターで…
少し落ち着いたので何があったのかリンナに聞いていた。
「簡単に説明すると、優人はユキに刺されたのよ」
やっぱり僕を刺したのはユキなのか。大切な仲間に刺されたなんてあまり信じたくなかった。
「私は先に歩いてて、サリナが叫んだのよ。それで振り返ったら、優人が倒れてナイフみたいなのを握ったユキが走り去って行ったの。咄嗟の出来事で私も焦っちゃって、ユキを追いかけたんだけど途中で見失って…」
リンナの悔しそうな表情は、ユキを信じていたからであろう。
もし、ユキが元から信用されていなかったら、僕の警戒不足だと怒っていたと思うが、ユキを信用していたので、まさか刺されるなんて予想もしていなかった。人間信用していた人物に裏切られるのが一番精神的に辛い。
「なんで、こんな事に…」
何を間違えたのか。何が悪かったのか。どんな理由で僕を刺したのか。最初からこれが狙いだったのか。
様々な負の思考が頭を駆け巡る。嫌な事があったら、全て悪い方向に考えてしまう。
本当にユキのやつ、さすがに痛かったし、死にそうになったから一発げんこつでもしてやらないと気がすまないな。
「リンナ、サリナが起きたらユキを連れ戻しに行くぞ」
リンナが怒った表情でこちらを見つめる。
「何で連れ戻すのよ!あんたを殺そうとしたのよ?そんな奴を何で!」
僕が刺された時の光景を思い出しているのか、リンナが叫んで訴えてきた。
「何でって、ほら、ユキも仲間じゃん?」
「あいつはあんたを刺したのよ!仲間を刺す奴なのよ!」
リンナの言っていることは正しいと思う。このまま三人で今後旅をするのが良いだろう。でも、それじゃあ現実世界と変わらないじゃん。この世界、現実で辛かった人間が来てるんだからさ、この世界くらい皆で仲良く手を繋いでゴールしたいじゃん。
辛いよ、現実世界は。辛いから、頑張った事を知ってるから。皆見捨てるんだよ、事なかれ主義なんだよ。センスがないとか、才能がないとか、平気で心を壊して、自分が良ければそれで良くて、でもそんなのこの世界には要らないよ。救済なんだから。皆を救おうよ、自分が関わった人間だけでも良いから救済しようよ。
「リンナ、言いたい事はわかる。リンナの言ってることは正しいと思う」
「だったら…」
「でもそれって、現実世界での話しなんだよ。現実世界では、全員が自分のことしか考えない。思い通りにならないと怒ったり、八つ当たりしたり、平気で見捨てたり。ここに存在する全員が同じような思いでこの世界に来たんだよ。こんな世界なんだから、信じてあげようぜ」
現実は辛かった、でもここの仲間なら信じられる。僕はユキを信じる。今まで旅をしてきた仲間を信じる。
「分かったわよ。連れ戻しに行ってもいいわ。でも」
でも?
「でも、十倍痛いデコピンをお見舞いするまで許さない」
十倍でも二十倍でもやってやればいいんだ。それでまた一緒に旅ができるようになるなら、なんだってやってやればいいんだ。
「じゃあ、ユキを連れ戻すために準備しますか」
皆さまお待たせ致しました。まっさんです。
今回は、まさかの展開でしたね。
本当は今日は1日ゆっくりしようと考えていたのですが、一度書き始めたら止まらず、一気に書き終えてしまいました。
書き間違え等あるかもしれませんので、編集が入る可能性があります。
そんな事よりも内容に少し触れましょうか。
内容と言いましても、ベストリア編は始まってばかりなのでまだまだこれからなのですが…
もう、春になりまして桜のシーズンですよ。
我が家の近所の道にも桜が咲いてまして非常に綺麗です。
今年こそは東寺の枝垂れ桜のライトアップを見に行きたく思っております。
皆様もよろしければ夜桜を見に行ってみてはいかがでしょうか?
それでは今回も楽しんでいってください




