少女の過去
「私が産まれた家庭は、ごく普通の裕福でも貧乏でもないところだった」
リンナがゆっくりと話し出す。
私が産まれたのは、ごく普通の家庭だけど家族全員仲が良かった。
私は長女だった。
弟がひとり居たのだが、仲良く暮らしていた。
お父さんは誰でも一度は聞いたことのある大きな企業、そこで、企画部のリーダーを務めていた。
お母さんは、お父さんと結婚してから専業主婦となった。
お母さんは看護婦をやっていたので、風邪とかなら病院に行かずに治る方法をたくさん知っていた。
ただ、何でもない毎日だったが、それが幸せでもあった。
だが、そんな毎日は突如崩壊する。
その日は私と弟の帰りが早く、お母さんは弟と買い物に出掛ける事になった。
「行ってくるね。夕方には帰ってくるからね。晩ご飯は何がいい?」
「お母さんのハンバーグが食べたいな」
「分かったわ。今日はハンバーグね」
「お姉ちゃん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
これが最後の言葉になった。
その日は天気が良くて、太陽が気持ち良かった。
私は少し寝てしまっていた。
目を覚ましたのは、お父さんが血相を変えて帰ってきた時だった。
「お父さんどうしたの?」
尋常じゃない表情に少し不安になる。
そう言えば、夕方には帰ると言った二人が帰ってきていない。
「お母さんが事故にあって、すぐに病院に行くぞ」
お父さんが運転する車で、病院に向かった。
病院に到着して看護婦さんに案内されたのは、真っ白の部屋。
ロウソクと線香の匂い。
部屋の真ん中に、顔に布を被せられた弟が寝ていた。
いや、あれは弟なのか分からない。
分からない姿に変わってしまっていた。
その時点で私は気がついた。
これは、死んだ人間が安置される場所だと。
「お姉ちゃん、行ってきます」
この言葉が頭で何度も繰り返された。
お父さんが泣き崩れている。
看護婦さんは、何も言えない感じの表情で立っている。
その日から私の笑顔は枯れてしまった。
お母さんは生きていた。
お母さんの病室に行こうと言われたのに、足が動かない。いや、実際には動かしたくなかった。弟から離れたくなかったのだと思う。
そんな今までに感じたことの無い重さの足を動かし、お母さんの病室に向かう。
病室には包帯で全身を巻かれたお母さんが寝かされていた。
「ごめんね。ごめんね」
弟にだろうか、お母さんはずっと謝っている。
病院にいた警察から話を聞かされた。
お母さんの運転する車と、トラックとの衝突事故。
原因はトラックの運転手の居眠り。
信号を無視したトラックの運転手が、お母さんの運転する車に横からぶつかった。
横から衝突され、助手席にいた弟は死んだ。
運転席にいたお母さんも重傷を負ったが、一番傷が大きかったのは心だった。
数日後、お母さんの病院に行くと、見知らぬ男性がいた。
大人が土下座して謝っている。
それだけで、私も察してしまう。
こいつが弟を殺したのだと。
「弟を返してよ!家族を、私たちの毎日を返してよ!」
つい、叫んでしまった。
この人が悪いのだが、責めたって弟は帰ってこない。
しかし、言わずにはいられなかった。
「私たちが何か悪いことした!?買い物に行くだけなのに、弟を殺さなきゃいけなかったの!?何で弟が死んで、殺人鬼のあなたは生きてるの!?あなたが死ねば良かったのに!!」
私は最低だ。
一番言ってはいけないことを言ってしまった。
「すいません...」
男はそう言って、病室から出ていった。
更に数日後、不幸は続く。
あの時の男が、自宅で首を吊り自殺した。
遺書に謝罪の言葉と、全財産を私たちに渡すと書き残して。
最悪だった。
殺したのは私だ。
自分で自分が嫌いになる。
お前が殺した。お前が殺した。お前が殺した。
心が私に言ってくる。
死にたい。死にたい。死にたい。
私が悪いんだ。
あの殺人鬼と同レベルになってしまった。
…......
私が取り戻した記憶はここまでだった。
「つまらない過去を話してしまったわね」
「つまらなくなんてない!リンナが一生懸命に生きて、不幸でも頑張っていた過去はつまらないなんて事ない!」
つい叫んでしまう。
「あんた、そんなこと言ってくれるんだ」
「今まで辛くて、誰も支えてくれなかったなら、僕がリンナの支えになる。今まで誰も助けてくれなかったなら、僕が助ける。だから、もう一人で悩まなくても良いんだよ」
そこまで言うと、リンナが泣き出した。
「今まで辛かったよ…それでも、私頑張ったんだよ...」
「知ってる。だから、これからは僕達を頼ってくれて良いんだよ」
「良いの?」
「もちろんだ」
「辛かった...幸せだったのに、一瞬で全てが壊れて、自分が自分じゃなくなってきて怖かった。こんな事言っても弟は帰ってこないのに言っちゃった。自分も殺人鬼と同じ事をしちゃった。そんな毎日に耐えられなかった...」
リンナは泣きながら、自分の全てを出してくれた。
しばらく泣いた後、泣き疲れてか眠ってしまった。
リンナをお姫様抱っこで、宿に連れて帰る。
「マスター、ずいぶんと遅いお帰りですが、できちゃったんですか!?」
宿に戻ると期限の悪いサリナのお出迎えがあった。
「サリナ、なんでそんなに機嫌悪いの?」
「そりゃ、泣き疲れた女の子と一緒に...」
その後、ずいぶんと長い間サリナにお説教された。
皆様お待たせ致しました。
最近は寒くなってきましたね。体調等は大丈夫でしょうか?
私は大丈夫なのですが、周りで体調不良が多いので皆様も気をつけてくださいね。
そして、今回の内容なのですが、割とキツイです。
再度言いますが、割とキツイです。
個人差はあると思いますが、私は話している人になりきって物語を進めるクセがありますので、けっこう辛いなと思いました。
内容自体は楽しくかけているのですが、過去の部分を書いていて、これはやり過ぎだと自分で思ってしまいました。
もし、自分がこんな環境になってしまったら死ぬと自分でも感じました。
【過去は変わらないが、未来は変えられる】
ここからの数話はこれをコンセプトにやろうと思います。
新ヒロイン、リンナのツンデレにもご期待ください。
そして、いつも読んで下さっている皆様、この回だけでも読んで下さった皆様ありがとうございます。
よろしければ、より良い小説のためにご意見、ご感想、評価等もお願い致します。
それでは、今回も楽しんでいってください。




