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私の婚約者は可愛いひと。

作者: 相羽昊月

 

 

 私の婚約者はとてもとても可愛い男性(ひと)である。

 一言で表すとしたら、『小動物』。

 彼は、大企業の御曹司で名前は鷹之森静流(たかのもりしずる)。

 私は彼の婚約者で咲山唯子(さきやまゆいこ)。

 彼と私の出会いはお互いが七歳の頃。鷹之森家で当主家族、その親族、主だった幹部社員とその家族を集めて盛大な新年会が行われた時。

 七歳になった御曹司のお披露目も兼ねていてすごく豪華だったのを覚えている。

 私の父は将来有望の若手社員として特別に招待されて、父と母と私の三人で出席した。

 そして、初めて見た彼。とても格好が良くて偉そうで『俺様』だった。同い年なのに開会の挨拶を任されて、それをそつなくこなしていた。

 俺は選ばれた人間なんだと言っている気がした。

 私だったらあんなに沢山の大人達の視線を受けたら恥ずかしくて顔が赤くなってしどろもどろになってしまいには泣いてしまう自信がある。うん、絶対に泣くだろう。

 その後も、彼が色んな大人達と談笑しているのを遠目で見てほーっと感心していた。 将来有望の若手社員でも、下っ端だからこちらから話かけるなんてできるわけがない。ただひたすらあちらから話しかけられるのを待つのみだ。

 でも、やっぱり下っ端だから中々お声がかからなくて、その内彼の姿も見えなくなった。密かに残念に思っていた私もやっぱりお子様だから飽きてきて。

 父と母に散歩してくると言って庭に向かうことにした。個人宅だから危険なことなどないだろうと、父と母もあっさり許可してくれた。

 他の幹部社員の子供達もいたから一緒に遊ぶこともできたかもしれないけれど、幹部と平社員なんて身分差みたいのがあるから何となく違うなって思って一人でいることにした。

 鷹之森家はすごく大きいので庭も当然立派だった。池もあるし、高そうな錦鯉が泳いでいる。

 私はここでもほーっと感心して見ていた。

 多分、しばらくはそのままいたんだろうと思う。植え込みのそばからガサガサと音が聞こえるまでは。

 ガサガサと音がした後はしくしくと誰かの泣き声も聞こえてきた。誰かが隠れて泣いているようだった。

「うう……もう、無理だよぅ……」

「だぁれ?」

 私はお子様なので、空気を読まずに声をかけた。

 びっくりと驚いた顔をしてこちらを振り向いたのは。

「鷹之森様?」

 格好良くて偉そうにそつなく挨拶をしていた『俺様』の鷹之森静流様だった。

「大丈夫ですか?」

 ちょっと近づき、また声をかける。『俺様』な雰囲気はなりをひそめ、涙でうるうるとしてとても可愛らしい顔をしていた。年相応でもっといじめたくなるような感じ。

 返事を待っていると。

「……ちょっと来て!」

 急にハッとした彼は私の手をいきなり掴んで歩きだした。

「えっ?」

 手をつなぎながら庭から室内へ入り、誰もいない部屋の中へと連れていかれた。

 部屋に入ってソファーに座るように促され、お互いに座ると彼は涙声で話し出した。涙は引っ込んだようだけど、まだうるうるしていて、可愛い。

 何だろう、この可愛い生き物。

「僕が泣いていたこと誰にも言わないでくれる?」

 あれ?挨拶の時と口調が変わっている。もっと偉そうだったのに。

「それは構いませんが……?」

 こてんと頭を傾げて了承する。

 疑問を感じたのだろう。彼は深いため息を吐いた。

「僕、本当はこっちが素なんだ」

 彼の話によると。彼の母親ーーー馨様がとてつもなくスパルタらしい。

 大企業の御曹司たるもの、人の上に立つ者としてもっと威厳を持ちなさいと、口調やら振る舞いやらビシバシと教育されているそうだ。

 いわゆるキャラ作り?

 七歳の男の子になんたる仕打ちだろう。お金持ち怖い。 

 でも、彼の素はほんわか、ふんわり、ふにゃふにゃなのでたまに『俺様』キャラに耐えられずにこっそり泣いてしまうそうだ。

 情けないよねーーーとふんにゃり微笑む彼。

 そんな彼を見た私は。ずっきゅーんと心臓を打ち抜かれたわけで。

 『萌え』ってこういうことだろうかと若干七歳にして悟った。

「そんなことないっ」

 思わず、抱きしめてしまいました。

 真っ赤になった彼はまたふんにゃりと笑って。

「ありがとう」

 と言ってくれた。

 もうっ、大好き!と思ってしまったのは仕方ないと思う。

 それからお互い改めて自己紹介して、彼の素を知ってしまった私は色々あって彼ーーーしーちゃんと婚約したのでした。





 それから、十年が経って。

 しーちゃんは俺様生徒会長として学園に君臨していた。

 馨様による教育のおかげですっかりハイスペックなしーちゃん。 

 ちなみに学園での口調はこんな感じ。 

「何だ?唯子。俺に何か用か」

「ふん、何も言うことがないならさっさと戻れ」

 美人さんが眉間に皺を寄せて機嫌が悪そうに言う。

 でも、二人きりになると。

「ゆいちゃん、膝枕してーーー」

「ふふ。ゆいちゃん、大好き」

 ふわふわの笑顔で小動物に変身するのだ。

 ものっすごいギャップ萌えである。

 もし私が死ぬとしたらきっとキュン死になるだろう。

 毎回鼻血を我慢しなければならないのです。

「ゆいちゃんと会えて僕は本当に幸せなんだ。あの時、声をかけてくれてありがとう」

「しーちゃん。私も幸せだよ」

 まだ結婚していないけれど、多分、長年連れ添った熟年夫婦のような雰囲気が出ていると思う。それくらい濃密な関係だ。

 『俺様』キャラを作っているしーちゃんはちゃんと素を出せる場所がないとストレスを溜めまくってしまう。

 以前しーちゃんが家族でアメリカへ旅行に行って二週間ばかり会えなかった時があった。その旅行も海外グループの幹部との顔合わせもあってずっと俺様モードだったらしい。

 あっちで頻繁にパーティーがあったんだって。

 二週間ぶりに会った時。しーちゃんはいきなりボロボロと泣き出して。

「ゆいちゃん!僕もう辛かったよう!!」

 ぎゅーっと抱きしめられました。

 しーちゃんのストレス解消法は私を抱きしめてただひたすら泣くこと。溜まり具合によって泣く時間が変わるので、アメリカ旅行は本当に大変だったようだ。何時間も離してくれなかったから。

 もう、超可愛くてよく鼻血を我慢できたものだ。自分を褒めたい。

 あと関係ないけど、たまに俺様モードの時、うっかりゆいちゃん呼びになると萌えます。

 赤くなって誤魔化すしーちゃんを見てによによしてしまいます。

「……ゆいちゃんの意地悪」

 早く嫁にしたい。あ、違った。嫁にいきたい。

 




「転入生が静流様に付きまとっているですって?」

「はい。どうやら生徒会室に入り浸っているようです」

「静流様には唯子様がいらっしゃるというのに。目障りですね」

「本当に。排除しましょうか」

「ちょっと待ってもらえますか?静流様に確認してみますので」

「ですが、転入生の行動は目に余ります。すでに一般生徒から苦情が出ています」

 これ、私としーちゃん親衛隊の会話。

 私も基本しーちゃんと二人きり以外の時は静流様呼びで、ですます調だ。

 私も一応嫁教育されているんで。

 未来の義父、義母との関係も良好です。早く嫁げとせっつかれていたりする。

 私も思わずしーちゃん呼びしちゃう時があるんでその時のしーちゃんもによによしてたりする。によによしてるしーちゃんもやっぱり可愛いけどね。

 しーちゃん親衛隊は初等部の頃から結成されている。しーちゃんの美貌は小さい頃から完成されていたから当然だけど。

 ちなみに私は一応可愛い部類に入るんだと思う。いつもしーちゃんが可愛いって言ってくれているから。

 えっと、話を戻そう。しーちゃん親衛隊の報告によると最近転入してきた子がしーちゃんやその他の生徒会役員に付きまとっているらしい。しーちゃんは相手にしていないようだが、転入生は書記の子と仲良くなって、生徒会の手伝いをし始めたそうだ。

 書記の子には参るなあ。一生徒を特別扱いなんて反感買うに決まっている。

 私だって最初はしーちゃん親衛隊に目を付けられたのに。

 今でさえ、父は出世してやり手の幹部になったけど婚約当時は平社員だったから、御曹司との婚約なんて分をわきまえろーって五月蠅かったなあ。

 正式な婚約なんだから外部が口出しすることじゃないのに。

 その時は、キレたしーちゃんが周りを一喝したっけ。

「ーーー俺の婚約者は唯子以外いない。お前達にどうこう言われる筋合いはない!これ以上唯子を貶めると言うなら鷹之森が相手になると思え!」

 しーちゃんは親の権力を振りかざすのが嫌いだったけど、この時ばかりは鷹之森の名前を出した。

 私のために言ってくれたから、もちろん惚れ直した。

 この時から私はしーちゃんに溺愛されていると認識され、一目置かれるようになった。皆の生ぬるい視線は痛かったなあ。

 幼心にダメージは大きかったよ?

 えっと、転入生の取り扱いはとりあえずしーちゃんに聞いてみてからということで様子見になった。




「しーちゃん、転入生が付きまとっているって本当?」

「……ゆいちゃぁん、もうやだ……」

 鷹之森家のしーちゃんの部屋での状況を説明すると。

 私としーちゃんはふっかふかのソファに座っていて、しーちゃんを膝枕中です。しーちゃんは涙目だ。

 あれ?ストレス溜まってる?

「書記の舞原が連れて来た転入生ってちょっと変な子でね。皆さんのファンですって堂々と言うんだよ?」

「生徒会役員のそれぞれの親衛隊を敵に回す発言だね」

 生徒会役員は美少年、美少女で固められており、それぞれに親衛隊がいる。しーちゃん親衛隊が最大規模だけどね。

 生徒会も持ち上がり組がほとんどだから初等部から親衛隊やってますっていう子ばかり。各隊に鉄の掟があって生徒会役員達それぞれに必要以上に近づかず、迷惑をかけないことを信条としている。

 うかつに近づこうものなら排除対象になる。

 そんな中で単身生徒会室に入り浸るなんて無知って恐ろしい。

「しーちゃん親衛隊が、排除したいって言ってた。どうしよう?」

「あの子きゃいきゃいうるさいんだよね。僕とゆいちゃんの仲も何だか疑ってて。訳分かんないこと言うし」

「例えば?」

「貴方に相応しいのは私ですとか騙されていますとか?副会長は女子だからあんまり絡まないんだけど。会計と書記にも色々と言っているみたいだよ?」

「転入生は財閥のお嬢様だっけ?」

「そう。でも分家筋から養子に入っただけだし。大したことない」

 しーちゃんは転入生の素性を調査したようだ。さすが御曹司。

 この間私はしーちゃんの頭を撫で回しております。しーちゃんの髪の毛はさらさらで気持ちいいの。

 しーちゃんも涙目から復活したようで今はうっとりしてる。猫だったらごろごろ喉を鳴らしているところだね。

「ゆいちゃん大好き」

「もー、真面目な話してたのに」

 しーちゃんはかなりの確率で真面目な話の合間に愛を囁いてくる。

 シリアスな空気がぶち壊しだね。

「とにかく。しーちゃんは気をつけてね。親衛隊には忠告してもらうようにするから……」

 あれ?

「……」

「しーちゃん?聞いてる?」

「唯子(・・)。あの転入生は排除する」

 やばい。思わずしーちゃんの愛の囁きをスルーしてしまった!

 二人きりの時発動する『俺様』モードはしーちゃんが嫉妬したことを意味する。大好きに答えず、転入生の話を進めてしまったので、しーちゃんは僕よりもあいつがいいの!?となる。

 男女関係ないので正直面倒くさい。本人には言えないけど。

 余談だが、このように嫉妬してお怒りの時はしー様と呼んでいる。

 普段中々怒らない人を怒らせると怖いよね。

 転入生さん。ごめんなさい。

 貴女の明日は無くなったよ(笑)。

「しー様、機嫌直して」

 ちゅう。

 しー様のお怒りをとくには私からキスをすればいい。

 真っ赤になったしー様はふんにゃりと微笑んで。

「直った」

 しーちゃん、その笑顔は凶器だよ?

 鼻血出た。

「わーっ!ゆいちゃんティッシュ!!」

 しーちゃんに鼻血を拭いてもらいながら、またキスしちゃったり。

 あーあ、早く嫁にした……嫁にいきたいな。


 


 

 それからどうなったかというと。

 いつの間にか転入生は転校していなくなってた。

 私一回も顔を見ていない(笑)。

 まあ、いっか。



 

 しーちゃんとはこれからもらぶらぶするということで。

 終わります。 

 

 

 

 

 


 


彼女視点をお届けしました。

単にしーちゃん呼びを書きたかっただけという(笑)

しーちゃんしーちゃん多くてすみません。

後半乙女ゲームっぽくしてみましたが、特に関係ありません。転入生も前世持ちじゃないです。一生ゆいちゃんたちと会うこともないでしょう。

楽しんでもらえたら嬉しいです。


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