私のオカマの友人が可愛いすぎて酒が美味い。
あまりにオカマ物が少なくて思わず自給自足しました。
同性愛表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
私の親愛なる友人は、とても酒癖が悪い。
「ねえ、アンタも酷いと思わない!?あの男ったら散々アタシに好きだ愛してるって囁いておいて、女に浮気した挙句に『やっぱり俺は女しか愛せない』よ!?」
「うんうん」
「アタシとの今までは何だったのよ!って言ったら悪びれもなく『遊び』って…!」
「うんうん」
「もう頭にきちゃってあのムカつくツラ思いっきりひっ叩いてやったわ!」
「うんうん」
「…カナ、アンタちゃんとアタシの話聞いてる?」
お洒落な雰囲気の漂うバーのカウンターに、やたらと目立つ二人連れの姿があった。
一人は長いモカブラウンの髪を緩くシュシュで纏め、可愛らしいワンピースに似合わずどこか中性的な顔立ちの女、もう一人はセットした黒髪をぐしゃぐしゃに自身で掻き回しながら、グラス片手に喚き散らしている背の高そうな垂れ目の男だ。
先程から男から発せられている女言葉に周囲の人間は思わず二人に視線を寄越したものの、それとなく女が辺りを見回すと自然に視線も散っていった。
「…そんな疑い深い眼しないでもこんな近距離なんだから聞こえてるよ。つーか毎回思うんだけどさ、アキちゃんって男運悪すぎない?」
「ウルサイわね…自覚はあるわよう…」
「今回は浮気男、前回は借金男、前々回は暴力男、だっけ?妻子持ちやマザコンも居たし。いやあ凄いねえアキちゃん。そのうちダメンズシリーズ制覇出来るんじゃない」
「…アンタ少しは慰めなさいよ…」
「毎度毎度の恒例行事だと流石に慰めの言葉も品切れでね」
すぐ隣に居るのに視線すら向けずに堂々と欠伸をする女に、男は恨みがましそうな目線を向ける。
「アンタちょっとアタシに冷たすぎない?アタシ達友達よね?」
「友達友達。なーに、優しくされたいの?」
「当たり前じゃない」
「私に?」
「今ここにアンタしか居ないでしょ」
「そ」
何かを思案するように視線をさ迷わせていた女だったが、くるりと男の方へ向き直るとニッコリと笑った。
そのまま頭に手を伸ばし慈しむような撫で方で、ゆっくりと髪を整えていく。
「辛かったね、アキちゃん。その人のこと、大好きだったんだもんね」
「…うん」
「大丈夫。アキちゃんはとっても可愛いから、またすぐ良い人が見つかるよ」
「………」
「私は、アキちゃんには嘘は言わないよ」
「……………でも」
ボロボロと涙を零していた男の眼に、暗い暗い影がよぎる。
「アタシは、オンナにはなれないのよ」
まるで触れてはいけない所に触れてしまったかのような、それくらいに深く冷たく、憎悪すら感じられる程に相手を拒絶する声音だった。
女はピタリと一瞬手を止めたものの、またゆっくりと手を動かし男の頭を撫で始めた。血が滲むほど唇を噛みしめているものの男は特に止める素振りは見せない。
「…子を孕める体が羨ましい?」
「…ええ、とても。憎たらしいほど」
「残念ながら私の腹から子宮をプレゼントなんて出来ないしなあ」
「なんで簡単に人にあげられるくらいの価値しか感じてないアンタが女で、こんなにもそれが欲しいアタシが男なのかしらね?」
「ままならないね」
「バカにしてる?」
「まさか」
その時、唐突に二人の間に唐突に電子音が鳴り響いた。
女は一度男に触れていた手を離すとそのままカバンから携帯を取り出し画面を確認しているようだ。
その離れていった手を名残惜しそうに男が見ていた事には全く気づかずに。
「ごめんねアキちゃん。タイムアウト」
「は?なんでよ。アンタ明日休みでしょ?」
「『今すぐ来てくれなきゃ死んでやる』ってさ。私の友人のメンヘラ具合もなかなかに素敵だろ?」
「なによソイツ。ソイツとアタシとどっちが大事なのよ」
「アキちゃん」
迷うことなく即答した女に男は押し黙り、少し間を空けてから羞恥かアルコールか分からないくらいに赤く染まった頬を膨らませながら女を引き止める。
「じゃあ今日はずっと、アタシと一緒に居なさいよ」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、流石に本当に死なれちゃ困るし。今度埋め合わせするから、ね?」
「ね?じゃないわよ。そんな顔したって許さないんだから!」
腕を組んで不服を申し立てる男に、女は困ったように頭を掻いていたが、ふとカウンターに片手を置くとそのまま男の方に体制を傾けた。
男の頭の後ろをもう片方の手で支えながら優しく額に口づけを落とす。そして顔色を窺うように至近距離で目を合わせて囁いた。
「…だめ?」
「…ッダメじゃ、ないわ、よ…もう!勝手にしなさい!」
了承の返事を貰うやいなや「愛してる」だの「大好き」だのを並べながら身支度を済ませると、女はマスターへの支払いを済ませ飛び出すように店から出て行った。去り際にヒラヒラと男に手を振っていったが男はそれには最後まで知らん振りを決め込んでいた。
女の姿が見えなくなると男は深く溜め息を吐き、そのままカウンターに沈み込んだ。その背中には人の目を引くほどに寂しさが漂っており、恐る恐る遠巻きに見ていた派手な化粧の若い女が近寄り男に声をかける。
「あの…」
「アタシに馴れ馴れしく話しかけてくんじゃないわよブス。鏡見てから出直しなさい」
カウンターに沈んだ頭を上げることすらなく、凍るような温度で男は女を突き放した。流石に怒りに駆られたのか文句を付けようと開いた女の口も、男の射殺すような眼差しに強制的に塞がれた。
それ以上何もアクションを起こさず、気まずそうに女は店の隅に去っていく。男は何事もなかったかのように一瞥すらせず、静かに酒を煽りながら遠くを見つめていた。
「アンタが居ないと、アタシだって死んじゃいそうよ…」
ボソリと呟いた言葉は虚空に溶け、誰の耳にも入らない。
男は再度酒を勢い良く飲み込むと、アルコールの酩酊感に深く溺れていった。
オカマ×女性よ…増えろ…!
オカン系オカマも大好きですが、今回は屈折系オカマでした。
以下設定です。
設定
『男』…神咲 明彦
26歳。そこそこ売れてるファッションデザイナー。
学生時代からずっと男性しか愛せなかったが、最近は何故かカナに独占欲を抱き始めて戸惑っている。
本人的には友情のつもりだが、男女問わず周りの人間に嫉妬を向ける姿は傍から見れば一目瞭然である。
男性と交際を続けていく内に度々相手を女性に奪われる事も多く、また自分の中に子供の居る幸せな家庭像のイメージが強くあるため、それを叶える事の出来ない自身の肉体への嫌悪と、女性への妬みや憎悪を抱えている。
普段は仕事の関係で女性に接する事も多く、それを表立って態度に出す事はないが、触れるのも触れられるのも吐き気がする。一部の家族やカナを含めた親しい友人などは除く。
酒癖が悪く、絡み酒かつ泣き上戸である。カナとの出会いも男に振られ公園で酔い潰れていた事がそもそもの始まりだった。なんだかんだとつるむようになり、すっかり仲の良い友人に。恋心は無自覚。
『女』…城島 可奈子
23歳。事務職。
困っている人間を放っておけず、よく面倒事を抱え込んでしまう性格。
男女問わず調子のいい台詞を吐くので本気と嘘の違いが分かりづらい。根っからの八方美人。
しかし一見お人好しそのものだが、抱え切れないと判断すると自分に被害が及ばないよう丁寧に縁を切るので、中身はナチュラルに外道である。
見た目より中身重視で、アキちゃんの屈折した性格に一目惚れをしコッソリアプローチをしている。
数打ちゃ当たると考えて適当に喋っているので、実際効果が出ている事には気付いていない。
そもそもがアキちゃんは女性が恋愛対象外だと知っているので、好意を示されても友情だと判断してしまう。
アキちゃん以外からの好意については気付いていても知らないふりをし、踏み込まれないよう壁を作れる程度には察しがいい。アキちゃん相手のアンテナは壊れているらしい。恋心は自覚あり。ただし片想いと判断。