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俺たちの花  作者: ルート
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6

ある日帰りの支度をしていると、クラスのある女子のグループに話しかけられた。クラスの中ではもうそれぞれのグループができ始めていた。やはり出身中学の同じ者同士で固まるようだ。あたしはどこにも入っていない。まだ友達ができていないし、同じ中学だった人は僅かだからだ。あたしに話しかけたのは、比較的普通の女子高生と呼べる人達が集まったグループだった。確か、立花ユキさんと福山美優さんと渡部朋香さんの3人組。

「ねえ緒方さん。あたし達これから駅前に遊びに行くんだけど、一緒に行かない?」

「これから?」

「そう。どう?」

「駅前って、神崎駅?」

そう訊いた途端、3人は笑い出した。何か変な事言ったかな。

「神崎駅なわけないじゃん!あそこ何もないじゃない。緒方さんおもしろいね。冗談とか言わない子だと思ってた」

「え、そうかな。…どこの駅?」

「駿河駅よ。あそこなら遊べるとこいっぱいあるし」

駿河駅は、神崎高校最寄りの神崎駅から4つ向こうの駅だ。家から正反対の場所にある。

「えっと…ご、ごめんね。一緒に帰る約束してる人いるから…」

そんなところまで行っていたら、青ちゃんと一緒に帰ることが出来ない。一人で帰らせて発作でも起こしたら、一大事だ。あたしはできるだけ彼女達の機嫌を損ねないように、やんわりと断ろうとした。

「えー、そうなの?いいの、気にしないで。また誘うから」

立花さん達は残念そうに立ち去って行く。しかし誰かがそれを呼び止めた。

「待って」

その声は青ちゃんだった。彼女達とあたしの話を聞いていたのだろうか。青ちゃんはあたしににっこりと笑みを向けた。

「いいよ、僕のことは気にしないで。行ってきなよ、紫苑」

「で、でも、一人で帰るの?危ないじゃない!」

「大丈夫だよ、一人で帰れるよ」

あたし達の事情を知らない立花さん達は、呆然とあたし達の会話を聞いている。

「だ、駄目よ!一人で帰るのは絶対に駄目!」

「大丈夫だってば。最近ずっと快調だしさ」

「でも…」

どうしよう。あたしは迷った。青ちゃんがあたしに友達を作らせてくれようとしてるのはわかってる。その善意を無駄にしたくない。でも、青ちゃん一人だけで帰らせるのは絶対に駄目。もし帰り道で発作を起こしたりしたら。もし運悪く車が通りかかりでもしたら。もし運悪く川に落ちたりでもしたら。そしたらあたしは一生後悔するだろう。

ふと、もう一人の幼馴染の事が浮かんだ。

「あ、なる兄!今日なる兄あたしの家に来る予定だから、なる兄と一緒に帰ればいいんじゃない?」

「那流?」

「大学だってそんなに遅いわけじゃないだろうし、ちょっと待てば一緒に帰れるんじゃない?あんたなる兄のこと好きなんだから、いいじゃない」

「うん、じゃあそうする。また明日」

「うん、ばいばい。…ありがと」

青ちゃんが教室を出て行くと、あたしは立花さんに話しかけた。

「じゃあ、そういうことだから…」

「行けるの?じゃあ行こ!」

「うん、でも…あまり遅くなるのはちょっと…」

「わかってるよ。行こ」

立花さん達はあたしを受け入れてくれたようだ。嬉しかった。始めて高校で女の子の友達ができた。そして何より、青ちゃんが私を気遣ってくれて、嬉しかった。

「ねえ緒方さん」

「なに?」

「緒方さんと柳くんって、付き合ってるの?」

渡部さんがあたしに訊いた。やっぱり女子高生はこういった話が好きなんだろうな。

「ううん、付き合ってないよ」

「そうなの?毎日一緒に帰ってるから、そうなんだと思ってた。ていうか、多分みんな思ってるよ」

「ああ、あたしも付き合ってると思ってた。なんで一緒に帰ってるの?」

福山さんも嬉々として尋ねる。そんな心踊るようなストーリーはないんだけどな。

「家近いし、幼馴染だから…かな」

「いつから?」

「いつ?いつからだろう…幼稚園とかそれぐらいかな」

「へー長いねー!…でもさあ、付き合ってなくても、緒方さん柳くんのこと好きでしょ?それだけ一緒にいれば好きになるって」

あたしが青ちゃんのことを好き?ないない、あるはずない。だってあたしが好きなのは、他の人だから。

「別に、青ちゃんのことは何とも…。他に好きな人いるし…」

「緒方さん好きな人もういるの?同じクラスの人?」

どうやら彼女達は同じ学年の中にいると思っているらしい。

「違う。この学校の人じゃない」

「あ、じゃあ中学の時の人?」

「ううん、違う」

どうしても同い歳じゃなきゃ駄目なのか。それとも彼女達の恋愛対象に同い歳の人しか入っていないだけなのだろうか。

「えー、じゃあ誰?どこの人?」

「…教えない。教えてもみんな知らない人だと思うよ」

「ふーん…でも、柳くんは緒方さんのこと好きだと思うな」

青ちゃんがあたしのことを好き?それはないだろう。友達としか見ていないだろう。…青ちゃんは好きな人とかいるのかな?

「ないよ、そんなの。友達だと思ってるよ。あたしも青ちゃんも」

立花さんは小さく言った。

「柳くん絶対緒方さんのこと好きだと思うけどな」

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