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俺たちの花  作者: ルート
5/23

5

僕と紫苑は高校に無事入学した。

「同じクラスで良かったね、青ちゃん」

「そうだね」

入学式が済んでクラスが発表され、それぞれのクラスに移動した。みんな緊張と不安でピリピリしている中、紫苑が嬉々として話しかけた。見た感じ、紫苑は緊張している様子はない。

「紫苑緊張とか無縁だもんね、いいな」

「何言ってるのよ。あたしだって緊張くらいするよ」

「そうなの?ふーん…」

「あっ、信じてないでしょ!」

「別に…」

「あ、先生来た。また後でね。一緒に帰ろ」

「うん」

前のドアから僕たちの担任となる教師が入ってきた。入学式で顔を合わせてはいるが、近くで見るのは初めてだ。若い男の先生で、まだ20代だろう。田中と名乗った。田中先生は担任をするのは初めてなのだろうか、喋りや動きがぎこちなく感じた。

「一年間、よろしく」

お決まりな自己紹介が終わり、早くも放課となった。帰る準備をしていると、

「柳、ちょっと来てくれ」

先生に呼び出された。用は大体想像がつく。紫苑に正面玄関で待っていてと告げ、先生に着いて行った。

「病気のことですよね、先生」

「…そうだ。君の病気については詳しく聞いた。無理をせず、何かあったらすぐ言いなさい。君の友人関係も聞いている。緒方と…あと、隣の大学にも知り合いがいるらしいな」

「ええ、まあ」

「何かあったら彼を呼んでくださいと親御さんに頼まれた。安心して学校生活を送りなさい」

「はい、わかりました。さようなら」

一方的に別れの挨拶を言い、さっさと切り上げた。急いで玄関へ行く。他の生徒はもう帰ってしまったようで、残っているのは部活動がある上級生だけだ。野球部の掛け声が響く中、紫苑は一人で空を眺めていた。

「ごめんね、紫苑。帰ろう」

「うん」

僕は徒歩通学だけど、紫苑は自転車通学だ。紫苑は新しい紫色の自転車を手で押して、歩く僕に付き合ってくれている。

「先生、いい人そうだね」

「そうかな。偽善者ぶってる感じだったけど」

「それはないでしょ。でも、これからそういうのが見えてくるのかもね」

ごうっと強い風が吹いた。紫苑のセーラー服の長いスカートの裾がはためき、うっとおしそうにそれを押さえつける。

「中学の時はブレザーだったからセーラー服に憧れてたけど、実際着てみるとちょっと嫌ね。スカート長くて重いし、上着脱ぎづらいし」

「そうなんだ。男子は別に、変わらないかな。ちょっと襟が苦しいけど」

「そのうち慣れるよね、きっと」

他愛のない話を続けているうちに、会話のネタがなくなる。自然と二人は黙ってしまう。

田んぼに囲まれたあぜ道を歩いてゆく。しばらくじっと黙っていたが、やがて紫苑がぽつりと呟いた。

「なる兄、どうしてるかな」

紫苑もやはり那流のことが気になっている。僕もそうだ。つい那流のことを考えてしまう。

「まだ大学だよ、多分」

「この前会ったばっかなのに、また会いたいって思っちゃうな。なる兄が帰ってきてくれて、本当に嬉しい」

「紫苑は本当に那流のこと好きだよね」

そう言うと、紫苑は急に憤った。

「そ、そんなんじゃないわよ!」

本人は隠してるつもりなのかな。傍から見れば紫苑が那流に恋愛感情を持っているのは丸わかりだ。しかし那流はそれに気付いていないらしい。紫苑の好意は引っ越す前からなのに、一向に気付く気配がない。鈍感なのにも程がある。

「那流、全然変わってないよね」

「そうよね、顔がちょっと大人っぽくなった以外には、変わってないわよね」

「それだけじゃないよ」

紫苑の好意に気付かない鈍さも変わってないよね、と心の中で付け加えた。

「あと何かあるっけ?」

「…んー、なんでもない」

そうこうしているうちに紫苑と別れる曲がり角まで来た。

「じゃあね、ばいばい」

「うん、また明日。ありがと、紫苑」

「いーのよ、じゃあね」

紫苑は自転車に乗り、帰って行った。僕はその姿が見えなくなるまで見送った。そして小さく呟いた。

「僕の方が紫苑よりずっと那流のこと好きなんだから」

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