23
「…なる兄、まだ見つからないの?」
紫苑に問われて我に返った。少しぼーっとしていた。
「あ、うん、ごめん聞いてなかった。 なに?」
「なる兄まだ見つからないの?」
僕は溜め息を吐いた。
「ああ、うん、那流ね…。この前電話来たんだけど、アメリカ行ったって」
「えっ?何それ、聞いてない!」
「うん、僕も最初は驚いたよ。お別れくらいさせてほしかったよね」
「…またいつか、帰ってくるの?」
「もう、帰って来れないって。だから、本当にお別れ」
「うそ…」
紫苑は相当ショックを受けたみたいだ。右目が涙で滲んでいる。
「…そろそろ帰るね。また来る」
いたたまれなくなって、僕はパイプ椅子から立ち上がった。ベッドの傍に生けられたシオンの花を一瞥した。僕はその花が大好きだった。
僕は那流が住んでいたアパートへ向かった。途中、隣をすれ違った男子小学生二人が仲良さそうに歩いていた。もし運命が違っていたら、僕らも彼らのようになれたかもしれない。でもそう思うのは僕のエゴだ。
紫苑に本当のことを話すつもりはない。話すべきではないと思った。紫苑の目が治ったら話すつもりでいる。紫苑に本当の気持ちを告げるのはその後だ。
アパートに着いた。那流の部屋の郵便受けに、何か挟まっているのに気付いた。昨日まではなかったものだ。勝手に見るのは失礼かと思ったが、もう那流はいない。郵便受けを開けると、一枚の手紙と小さい紙袋が入っていた。宛先は、僕宛てだった。封筒の中には小さい紙切れしか入っていなかった。
【 約束守ってあげられなくてごめん 】
書いてあったのはそれだけだった。僕はその手紙の差出人がわかってしまった。涙が滲む。
紙袋を開けると、パープルのピアスが一組とピアッサーが入っていた。それは春休みに那流が付けていたものとまったく同じ物だった。
「…覚えてて、くれたんだ」
頬に涙が伝った。
「忘れないでね、那流」
右手に持っていた花を扉の前に手向ける。そこにはたくさんの花束が供えられている。全て僕が供えたものだ。全部淡い紫色の花。シオンの花だ。僕は持ってきた花束をそれらの隣に置いて、呟いた。
「…僕も君を忘れないよ。永遠に」
シオンの花言葉は“あなたを忘れない”だから
長い間読んでくださってありがとうございました!




