表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの花  作者: ルート
17/23

17

紫苑が学校で事故に遭った。

詳しいことは僕もよく知らない。噂によると、理科準備室で先生の手伝いをしていたとき、棚の上にあった薬品が入った瓶を誤って倒してしまったという。その薬品はとても危険なもので普段は厳重に管理されていたはずなんだけど、その日に限って瓶の蓋が緩く閉まっていたらしい。その瓶から零れ出た薬品が、運悪く紫苑の目に入ってしまった。紫苑は救急車で、僕が入院していた病院へ送られた。

夏休み直前に大事件が起こり、学校はこの上なくざわついた。紫苑と仲の良かった立花さんは泣き出してしまったほどだ。

「紫苑ちゃんがもし失明なんかしちゃったら、あたしどうしよう…!なんであたし、一緒にいなかったんだろ…」

立花さんがそう嘆いているのを見下ろしながら、僕はただ呆然としていた。紫苑の傍にいなくちゃいけなかったのは僕だ。紫苑はいつも僕の傍にいてくれていたのに、僕は、どうして、なにもできなかったんだ。

「僕は…」

初めて学校で発作を起こして倒れた。


目を覚ますとベッドの傍に福山さんがいた。確か彼女も紫苑と仲の良かった子。緩く結わえた三つ編みが可愛らしい印象を与える。

「福山さん?」

「柳くん、よかった!目が覚めたのね」

「うん…どうしてここに?もう授業始まってるよね?」

福山さんは照れたようにはにかんだ。頬に笑窪ができている。

「うん、柳くんが心配で。先生には言ってあるから大丈夫だよ」

「そっか。ありがと」

福山さんはパイプ椅子に座ったまま手をもじもじさせていた。もう僕は目を覚ましたんだから、教室に戻ってもいいのに。僕になにか用でもあるのだろうか。

「どうかした?」

「あ、あのね、柳くんが気を失っちゃったのは、やっぱり紫苑ちゃんのこと?」

「うん、まあそれが原因でもあるけど、根本的なとこはちょっと違うね。簡単に言うなら病気の所為だ」

「…病気?……詳しく聞かせてもらっても、いいかな?別に、嫌なら構わないんだけど」

僕はナルコレプシーについて掻い摘んで説明した。理解者が少しでも増えてくれるのは喜ばしいことだ。彼女は僕の病気を知っても態度を変えたりなんかしないだろう。

福山さんは僕の話を黙って聞いていた。時には頷きながら、泣きそうな表情になりながら。

「それで、眠っちゃったわけなんだね?」

「うん、そうだね」

「じゃあ紫苑ちゃんといつも一緒にいるのは、二人が付き合ってるからってわけじゃないんだね?」

「ん?」

「よかったー…」

福山さんはほっと息を吐いた。にっこりと微笑んで、僕に言った。

「私、二人は付き合ってるんだってずっと思ってたんだ。今話を聞いてやっとわかった。こんなときに言うべきじゃないのはわかってるの。でも、柳くんと二人きりで話せる機会ってなかなかないじゃない?だから紫苑ちゃんには悪いけど、こんな機会を作ってくれて感謝してる」

福山さんは僕の両手を取り、握り締めた。ぐっと顔を近づけられた。仄かに香水の甘い匂いがした。

「私ね、ずっと前から柳くんのこと好き。入学式で見て、一目惚れしたの。同じクラスになって間近で柳くん見れるようになって、さらに好きになった。誰にでも優しい、あなたが好き。…付き合ってくれる?」

僕は目を逸らした。僕は別に福山さんのことなんかよく知らない。噂で聞いたのは彼女が男子の間でとても人気があるということ。そして今までずっと彼女は告白されても全員振っていたということ。

どうして、僕なんだろう。

僕より素敵な人はもっといるのに。

「…青葉くん、付き合ってくれるよね?」

福山さんは上目遣いで僕を見上げた。彼女は自分を可愛く見せる方法を熟知しているようだ。瞳を潤ませながら僕に迫る。握り締めた僕の手を胸に押し付けた。柔らかい感触が手に伝わり、僕は手を振り払った。

「君ってそんな人だったんだね。福山さんごめん。僕は君とは付き合えない」

福山さんは大変ショックを受けたようで、愕然として僕を見上げた。

「…どうして?紫苑ちゃんとは付き合ってないんでしょう?」

「僕は君のことを全然知らないし、君も僕のことをよく知らないはずだ。君は本当の僕なんて知らないだろ?付き合うとかそういうのは、お互いのことをよく知らなくちゃいけないと思うんだ。君と僕じゃそれはできないようだ。それに、僕より素敵な人はもっといる。君にはもっと素敵な人を見つけてほしいと、僕は思うよ」

それを聞いた福山さんはポロポロと涙を零した。

「私はこの学校の中で一番あなたが素敵だと思ったの…。人を好きになったの、初めてだったのに。それでも駄目なの?」

「うん、ごめんね」

福山さんはガックリと肩を落として立ち上がった。カーテンを開けながら振り返った。

「…ごめんね柳くん。誰にも言わないでね」

「うん」

「…柳くんは、好きな人いないの?」

そう訊かれて、真っ先に浮かんだのは紫苑だった。どうして?僕が好きなのは那流の筈なのに。僕は平静を装って答えた。

「好きな人は、いないよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ