表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの花  作者: ルート
1/23

1

ひさしぶりにこの村へ帰ってきた。引っ越してから何年たっているだろうか。指を折って数える。

「もう6年か」

見るものなにもかもが懐かしい。変わらぬ家々、変わらぬ雑木林。歩いていると、田舎独特の匂いがする。決していい香りとは言えないが、この村に帰ってきたことを改めて実感させてくれる。

俺は自然と、楽しかったあの頃を思い出す。そしてその記憶の中には、いつもあいつが隣にいた。これからあいつの家を訪れる。


見慣れた角を曲がり、二階建ての家の前までやってきた。その家の隣には、昔俺の家があった。今はもう取り壊されて、空き地になっている。

意を決して門を開ける。入る時、ちらりと表札を見た。

【柳】

あの頃と何も変わっていない。

一度深呼吸をし、インターホンを押した。ブーッと音が鳴る。磨りガラスのドアの向こうに人影が現れ、ドアが横に開いた。

「どちら様?」

出てきたのはあいつの母親だった。俺たちは家族ぐるみで付き合いがあったから、おばさんは俺のことを知っているはずだ。しかし6年も経っていれば気づけないだろう。俺は一礼し、名乗った。

「お久しぶりです、香坂です」

おばさんはしげしげと俺を眺め、やっと気付いたようだ。

「えっ、うそ、那流ちゃん!?」

「はい」

「いつ帰ってきたの?ひさしぶりねー」

おばさんは嬉しそうに目を細めた。

「ほら、ここじゃ何だから、どうぞ上がって」

「お邪魔します」

俺は脱いだ靴を揃え、柳家に上がった。


「いつ帰ってきたの?恵さんと英輔さんは一緒じゃないのかしら?」

恵と英輔というのは俺の両親の名前だ。

「昨日帰ってきました。両親は一緒じゃないです」

「あら、そうなの?」

「そのままペンシルベニアに住むそうです」

俺は引っ越してから今まで、父の転勤先であるアメリカのペンシルベニア州に住んでいた。日本の大学に進学したかったので、1人で日本に帰国した。

「あら、そうなの。いつか会いに行けるといいんだけどねえ…」

「夏に一度日本に帰るそうです」

「じゃあその時会えるかしら」

「俺の家に来るそうなので、多分会えるかと思います」

「那流ちゃん、どこに住んでるの?」

「神崎大学の近くです」

俺は入学する神崎大学に近い二階建てのアパートを借りている。狭い部屋だが、大学生の一人暮らしには丁度良い広さだろう。

「ここから一時間もするじゃない!わざわざ来てくれてありがとうね~」

「いえ…」

出してもらった烏龍茶を飲み干し、喉を潤す。俺は一番気にしていたことをおばさんに尋ねた。

「おばさん、青葉は?」

俺の幼馴染、柳青葉。歳は3つ離れているが、幼い頃から兄弟のように、いつも一緒にいた。俺は青葉に会うために柳家を訪ねた。部屋を見回すと青葉の姿はなかった。自分の部屋にいるか、もしくは外出しているかだろう。

「あぁ…青葉ね…」

今まで笑顔だったおばさんの顔が急に曇り始めた。俺は怪訝に思い、

「…なにかあったんですか」

と訊いた。

おばさんは溜息を一つ吐き、言った。

「あの子ね、病気にかかっちゃったのよ」

「病気、ですか」

胸に何か詰まっているような嫌な感じがした。それでも俺は声を絞り出すように尋ねた。

「…どんな、病気ですか」

「病気と言っても大した病気じゃないのよ。…そうね、もう起きてる頃かしら。詳しいことは、本人に聞くのが一番よ」

おばさんは立ち上がり、手を招いた。

「青葉の部屋に行きましょう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ