5th Contact 【一発の銃弾】
◆ 2080年12月 25日 雪 ◆
■ 中央合同庁舎 29階 3係 執務室 10:00 ■
「ただいま戻りました!」
宿舎から急いで戻ってきたので息が少し乱れるが、すぐに落ち着く。
隣の保管室で装備品を手早く装備して、また執務室に戻る。
朱梨が戻ってきたのを見計らって、宜音が話し始める。
「全員ではないが、ブリーフィングを始める。
先程、厚生省潜在者対策管理局から連絡が入り、氷野達が連行した
潜在者を施設護送中に職員を殺し、逃亡したとのことだ。
鋭利な刃物のようなものを所持しているとの情報もあり、
十分注意して確保に当たる様に」
宜音からのブリーフィングが行われている最中に、
執務室のスピーカーから聞き慣れた警報音が吹鳴し、電子音声が続けて流れる。
『現在手配中の潜在者がFシステムに反応。所在地、旧千代田救急病院周辺。
3係担当官は、至急現場に急行して下さい』
Fシステムと言うのは、顔認識の頭文字を取ったものでNシステムが応用されている。
ただ、肖像権などの問題から緊急性などを要する場合等に使用が制限されている。
「聞いたな…行くぞ!」
宜音の号令で直通エレベーターに乗り込み、地下の駐車場に降りる。
お馴染みの覆面車両と護送車に分かれて乗り込み、現場に向かう。
雪は少し落ち着きつつあったが、まだシンシンと降り続いていた。
◆ 2080年12月 25日 雪 ◆
■ 旧千代田救急病院駐車場 10:25 ■
以前は病院として最先端の医療を誇った施設であったが、
より発展した医療技術の前にその病院は衰退の一途を辿る他なかった。
今では廃墟となり下がり、浮浪者が住み着いていた。
「何か、想像以上に暗いですね…」
覆面車両から降りた朱梨は、そう呟いた。
「移転されてから、かなり時間が経つからな」
護送車から降りてきた夏谷と糸葛も合流し、簡単なブリーフィングを開始する。
「当時の施設地図によると5階建てで、4階以降は病室だったらしい。
俺と夏谷は東側から、氷野と糸葛は西側から進入して捜索に当たる。
全員Grockの帯電の確認は済んでいるな? よし、行くぞ!」
2手に分かれて、病院内の検索に当たる事になった。
糸葛と一緒に西側の外部入口を押し開け、中へ入って行った。
◆ 2080年12月 25日 雪 ◆
■ 旧千代田救急病院 1階西側フロア 10:30 ■
病院の中は電気が通っていないのか、真っ暗であった。
御用達のライトを点灯し、前方を照らしだす。
通路は腐敗が進んでおり、以前の面影は夢のようであった。
『こちらシェパード、1階東フロアから進入完了』
宜音から無線での連絡を受け、朱梨もこれに応答する。
『こちらシェパードTwo。1階西フロアから進入完了』
そう返事を返すと、Grockを体の前方に保持しながら前進する。
少し進むと、通路の分かれ目があり糸葛と息を合わせて警戒する。
カウントで飛び出し、Grockを前方に照準を合わせる。
照準には何も映らず、銃をまた前方で保持しながら進む。
また少し進むと、階段があり2階へと続いている。
朱梨が管理官執行システムで施設地図をチェックして、
これ以上検索する場所がない事を確認する。
「これ以上はないみたいなので、2階に進みましょう」
少し声を落して糸葛に話しかけると、糸葛は1度小さく頷いた。
階段の両サイドに分かれて、音を立てない様に階段を上る。
広い病院の検索は、まだまだ始まったばかりである。
◆ 2080年12月 25日 雪 ◆
■ 旧千代田救急病院 2階西側フロア 10:50 ■
「糸葛さん、そう言えば…」
朱梨が小声で話しかけると、片手で制された。
何か気に障ったのかと朱梨が少し考えると、糸葛が口を開く。
「糸葛は勘弁してくれ…他の呼び方にしてくれないか?」
「わかりました…では、私も糸さんと呼ばせてもらいますね」
「そうしてくれるとありがたい」
Grockを体の前に保持しながら、ゆっくりと更に移動していく。
「糸さん…少しだけ聞いてもいいですか?」
「あぁ…」
「糸さんと宜音さんって、長い付き合いなんですか?」
3係に配属され前に、少しだけ関係資料を見る機会があった。
そこに、糸葛と宜音が同期であるという事が書かれていたのだ。
しかし、それ以外のことが書かれておらず、朱梨は少し気になっていた。
「そうだな…幼馴染だから、もう20年以上の付き合いだろうな」
「そうなんですか…」
「まぁ、この話はまた機会があったらしてやるよ」
「わかりました」
そう話を結んだ刹那……「ドーン!!」
離れた場所、東側フロアの方から大きな衝撃音が響いた。
ふっと、体を落して周りを警戒するが特に被害はなさそうだ。
数分の間を置いて、宜音から無線に連絡が入った。
「こちら宜音だ。東側フロアで爆発、対象が最上階へ向かうのを確認。
爆発…物……意…して……上…へと向……って……………」
「宜音さん? 宜音さん?」
無線はそれっきり反応しなくなり、糸葛と簡単に打ち合わせをする。
「とりあえず、最上階へ向かいますか?」
「まぁ、それが得策だろうな…様子から見ると、爆発物が他にあるかもしれんな」
「地図を見ると…この先の階段が最上階直通の様ですね」
「じゃあ、行くか…」
2人は、周りを警戒しながら階段をゆっくりと上って行った。
◆ 2080年12月 25日 雪 ◆
■ 旧千代田救急病院 5階西側フロア 11:35 ■
無駄に長い階段を抜けて5階に入ろうとした時、糸葛が朱梨を片手で制した。
「どうしました?」
糸葛が見ている方に視線を遣ると、微かな明かりが点滅しているのが見えた。
「ビンゴだな…接触式の爆発物の様だ。ワイヤに触れない様に越えてくれ」
「わかりました…」
慎重にワイヤの向こう側に足を下ろし、爆発物の周囲を警戒する。
朱梨に続いて糸葛も越え、東側に続く渡り廊下に足を踏み入れた。
4階以上は病室フロアという資料の通り、多くの部屋があふれていた。
「少し、慎重にいかないと危険だな…」
「えぇ…」
Glockの帯電状態を確認してから渡り廊下を慎重に進む。
「ガタッ!」
物音に反応して、2人は音のした方にGlockを構える。
ライトを向けて確認すると、古くなったベットが崩れた音であった。
「進みましょうか…」
更に渡り廊下を進むと、話し声がかすかに聞こえてきた。
更に近づくと聞き覚えのある声、宜音と夏谷の声が聞こえている。
「動くんじゃない!!」
宜音の怒声が辺りに響き、静かな渡り廊下によく響く。
糸葛と朱梨は相手を挟む様に位置を取り、ぱっと飛び出した。
すると、注意が朱梨達の方へと逸れた。
その一瞬を見逃すはずもなく、4人は同じタイミングでGlockの引き金を絞った…はずだった。
ほんのわずかに、糸葛のスタン弾の方が早くそれが対象のひざにまず命中した。
それで体勢が崩れ、夏谷の撃ったスタン弾は命中したが宜音の撃った弾は……。
「きゃっ!?」
スタン弾は対象を逸れ、反対側に立っていた朱梨の右ひざに命中する。
スタン弾は外傷がないのが特徴ではあるが、神経系に電流を流すので……。
「バタッ!」
朱梨は崩れ落ちる様に床に倒れ、宜音と糸葛が朱梨に駆け寄る。
夏谷は駆け寄る気持ちを抑え、冷静に対象に手錠を掛ける。
「氷野! 氷野朱梨! 大丈夫か!?」
いつもの冷静さを欠いている宜音を引き離し、状態を糸葛が確認する。
「秋晴、分析室に連れて行く。単独行動の許可をくれ!」
宜音は直ぐに冷静さを取り戻し、否定の意を伝える。
「そんなことが認められるわけが……」
「お前は、俺が氷野を見捨てて逃げると思ってるのか!」
少しだけ考える仕草を見せてから、管理官執行システムにアクセスする。
臨時執行権限を糸葛に移譲し、宜音は対象の方へ向かう。
糸葛は朱梨を背負うと、階段を慎重に踏み越えて駆け下りる。
外に出ると雪は止み、遠くから晴れ間が差し込んでいる。
覆面パトカーに乗せると、糸葛が臨時執行権限で運転席に乗り込む。
急発進させると、車を合同庁舎の方へと走らせた。
朱梨は大事には至らないはずだが、まだ目を覚まさない。
そんな状況が、糸葛を余計に不安にさせているのだった…。
更新が遅くなりがちで大変申し訳なく思っております、
作者の SHIRANE です。
この作品は自分でも不慣れなジャンルで、試行錯誤しながら書いています。
そのため、あまりお楽しみになれないかもしれません。
皆さんに読んでいて楽しい作品をかけるように、
これからまた勉強して行けたらと思います。
数日中に「護衛艦奮闘記」か「僕が役員でいいんですか?」を
更新できたらと思いますので、そちらもまたお願い致します。
それでは…。