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「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。  作者: 白木ケイ
第1章-1 割と雑に作られた異空間

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第6話 部屋を出た先(やっと部屋をでるよ!)

 ありがたいことに未だ五体満足の体で、木の床を幾度も踏みしめる。

 床は一切軋むことなく、というか俺の体重を《加重》で重くしてみても少しも曲がらない。まるで石材のような性質だ。これが普通の木材であればありえないことだがここは異空間だ。往々にして自然法則は魔法によって変化する。

 一瞬、体験型の観光地にできるかと思いついたが諦めた。どうあがいても無理そうだし。

 俺がなにをもってそう考えたのかは不明だ。


「まあ床が抜けるよりはマシだろう」


 《加重》を解除してこの部屋の出口らしき扉へ進む。


「おっと」


 渡された手紙を忘れていたので、左手を掲げて《引き寄せ》る。人差し指と中指に挟まった手紙をローブの内側に《接着》で貼り付ければいよいよ準備完了だ。


「このローブに内ポケットがないのが不便だな」


 そうして出口らしき扉へ進む途中で問題が発生した。扉を発見したのだ。

 ......ややこしいな。


「出口らしき扉が正面に、おそらくこの部屋にある別の扉が右側にある」


 どちらを開けるべきか悩ましい。

 なぜ悩むのか。それはここが異空間だからだ。

 通常であれば横の扉を開けて中を見ればそれで終わりだ。部屋の構造を鑑みれば特に大きなスペースがあるわけでもないだろう。

 だが繰り返すがここは異空間だ。横の扉の先には世界を揺るがす大迷宮が広がっていて、俺はその探索に夢中になってしまうかもしれない。

 あるいは多くの人々が大いなるうねりを生み出し続ける高度に発展した巨大都市か。異星の文明が作る景色は複雑で面白いものだ。

 はたまたこの世の知識の宝物庫たる巨大なライブラリーか。どのような情報媒体で保管されているかが楽しみだ。

 否応なしに期待が高まる。


 出口らしき扉の先には手紙の通り屋敷があるのだろう。

 しかしこの扉の先は全くの未知である。そこには夢とロマンが詰まった無限の可能性が広がっている。


「今の俺では異世界召喚をしたやつを笑えないな」


 そう自嘲気味に呟いた時には、もうすでに心は決まっていた。あとは勇気を出して右を向いて扉に手を伸ばすだけだ。

 そうして未知なる危険な扉を開けた先には——


「トイレと洗面台」


 あと端にトイレ用の掃除用具があった。ちなみにタオルと紙はない。白くピカピカに光る便器が無駄に清潔なのが頭にくる。

 

「......」


 たしかに個室には必要なものだ。人という尊厳を守るとても重要なものだよ。でもさ。


「これだけ?」


 風呂は?キッチンとかは?

 いや炊事場でもいいよ?

 この際何もない広い部屋でも許す。


「お前あれだけ窓にこだわったのにさ、部屋のレイアウトはこれだけか。なあ。おかしいだろ。異空間を作れるんだろ?じゃあさもっとなんかあるだろう。そこはこだわれよ」


 窓に凝りすぎて疲れたのか?こんなの適当に間に合わせでも置いておけばそれなりになるんだよ。というかなにも置かないにしてももっと広い部屋にしろよ。そうすれば俺が適当に風呂とかキッチンとか自分で作るからさ。この狭さじゃ何も設置できないんだが。どうしてくれるんだよおい。


【軍用魔法-用途: 範囲殲滅-39工程-ヌ——


「は流石にやめておこう」


 これはシステムが補助してくれない今だと余波で確実に死んでしまう。ついでに万が一生き残っても回復までの数秒間は魔力切れで体調不良になってまともに動けなくなる。

 この感情の昂りを抑えて冷静になるんだ。

 そうだ深呼吸だ。


「すぅー、ふぅーー」


 いつもよりゆっくり長く息を吐く。


「すぅー、ふぅーー」


 よし落ち着け。

 ないものはない。切り替えよう。

 出口らしき扉の先には屋敷が広がっている。まあ屋敷というからにはそれなりの物なのだろうさ。もう最低限それなりであれば許してやるよ。


 俺は手紙の送り主達へ攻撃できない事実を認識しながらも、謎に強気のまま出口らしき扉の前までくる。

 ちなみに雑に閉めたつまらない扉は悲痛な叫び声をあげた。


「普通ノドアノブに目の高さにある内鍵か」


 この内鍵も故郷でよく見るやつだ。形は棒を横にスライドして扉を開かなくするタイプのようだ。

 これさえあればあとは《転移》とかの空間跳躍系にさえ気をつければ籠城できる優れものだ。いざという時の最低限のセキュリティは確保される。

 取り外しはできなさそうだな。これも後で工作しておくか。


「そんなことはどうでもいい」


 早く扉を開けてご自慢の屋敷とやらを見せてもらおうじゃないか。

 優しくドアノブを掴み、扉が開くまでの時間を堪能しつつ、その先の光景に襟を正して刮目する。

 そうしなければ、「他の人の作品を見る時は礼儀正しくしなければダメだよ」と芸術家の友人に注意されてしまう。

 あいつ友人が何をしても怒らないんだよな。逆にそれがとても怖いのだが。俺も一回だけやらかしてしまって心から謝罪した覚えがある。

 その時のあいつは一度も表情を変化させることなくニコニコと佇んでいたのを思い出す。

 「うん、許そう」という一言に俺がどれだけ安心したか。そして「これからは注意してね」という一言にあれだけの圧力があったのは後にも先にもあの一度だけだ。あれはさっきの手紙の時よりも恐ろしいものだった。

 故郷の友人との思い出が俺の身を引き締める。


 部屋と屋敷の境へと2歩踏み出して飛び越える。そして後ろを向いて丁寧に扉を閉める。まずは扉だ。俺の出てきた部屋の内側と同じく木で作られた扉だ。ただしこだわりが違う。

 ドアノブには手触りが良くなるように見た目にはわからない薄いコーティングが施されている。

 全体の造形は上下に正方形の凹凸がありそれぞれが大小二重にあることで扉に立体感を与えている。

 色合いはシックな茶色であり、一枚板の細かな木目を上手く引き立てている。

 素晴らしい仕事ぶりだ。


「いいじゃないか」


 願わくば俺の部屋側の細長い長方形を並べただけの味気ない扉もどうにかしてこだわって欲しかったのだが。


「まあいい、この壁紙と天井も美しい模様だ」


 全体的に白を基調としながら、金色の線で細かな装飾をつけている。特に装飾によって生み出されたこの僅かな凹凸に美を感じる。さらに天井に施された模様は躍動感を生み出して廊下そのものの空間を定義している。


「そしてこの絨毯」


 靴を履いていてもわかるこの柔らかさ。俺の部屋のベッドよりも上質な寝心地を提供してくれそうだ。思わずなでなでしてしまう。


「そして残念なのが照明だ」


 この廊下のテーマはラグジュアリーであると全力で主張しており、実際にそれは非常に洗練された雰囲気からも良く感じられる。


「なのに」


 これはいただけない。


「私はミニマリストです絶対に余計なものは必要ありませんと床に鎮座する照明。光の照らし方もなっていない。そもそもこういうのは素材がいいんだから照明はあくまで引き立て役。最低限それができていれば俺は文句をいわない。もちろん照明にはその良さがあるから上手くデザインできればこのラグジュアリーな廊下もより素晴らしいものになるだろう。だがしかしこれは邪魔だ、ないほうがいい。つまり一言で表すなら」


 照明への鬱憤を言葉に出す。


「美的センスに欠ける」


 はあ、はあ。

 かなり長く喋りすぎたな。

 まあ屋敷の廊下は素晴らしいものだった。照明がそれを台無しににしそうではあるから全体としてはそこそこ以上と評価する。合格だ。

 それはそれとしてやはり狭い部屋のトイレと洗面台の件は決して許せないが。


 それと芸術は人によって評価が分かれるのが常だ。ある人にとってこのラグジュアリーな廊下は騒がしく落ち着きのないものかもしれない。また別の人にとってこの照明は最低限のミニマムないデザインが機能的で美しいと感じるかもしれない。

 だから俺の評価なんて気にする必要はないさ。


 雰囲気に酔って頭を横に振った俺はこれまで見ていなかった方向を視界に入れた。

 そこには、口をむにむにとしながら少し体を引いた様子でこちらを伺う非常に整った没個性的な顔を持つ女性がいた。

 当然俺が発する言葉は一つだ。


「どこから見てました?」

「いえ、その.......」


 とても恥ずかしい。

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