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第7話 これは蛮族(がんばれー)

——前書き

 キーワードのはずの自然派が……活躍できない。


 俺は一連のやり取りを適当な茶々を入れながら傍観していた。

 空気を読んで《音の制御》を行使し、俺の声はヒマイさんとヨラメさんにしか聞かせていない。


 まずは結界の壁を壊す際の動き。

 素晴らしい。地より放たれる光に照らされ、美しく躍動する筋肉が。

 続いて、筋肉の威力が生み出す結界の破壊音。彼の力を象徴するにふさわしい轟音だ。

 やはり好印象の外見は大事だ。

 俺は中立でいたいのに、どうしても彼の肉体美に惹かれてしまう。

 そこに人としての理性や感情はない。あるのは自然に生まれた魂の鼓動だけだ。

 そして察してしまった。彼は自然の肉体のみでその巨体を作り出したのだと。

 彼を俺の言葉で表すなら、自然派のムキムキマッチョメーン。

 違う。これでは足りない。彼は自然を超えた何かだ。

 つまり、超自然のムキムキマッチョメーン。


 今、ヴィーシェルさん放つ熱線が彼の頭部に直撃した。

 霧散する光線が実に綺麗だ。

 筋肉と光線、どちらも甲乙つけ難い美しさを持つ。そもそも比較するのが失礼なのでは?


 それはそれとして、俺は非常に中立的な感想を述べる。


「コロコロには威力不十分です。そう思いますよねヒマイさん」


 コロコロ癖が治らねー。これは俺を褒めた保護者の責任だ。文句は俺の保護者に言ってくれ。

 足元の砂場に彼の膝下が生えてきましたね。再生力は抜群と。

 あっ、どうもアステアさん。

 俺は事態の現場にいる彼女に会釈をされたので、同じく会釈を返した。


「え、はい」


 唐突に問われた金ケモ耳は困惑する。これを聞かされている灰ケモ耳も同様だ。

 コロコロってなに?、と。


「追加で再生阻害は必要かと」


 ケモ耳達はコロコロの意味を察した。多分、殺害のことだろうと。


◇◇◇


 蛮族の頭部という、非常に硬い物体に接触した熱線は急激に散失していく。同時に頭部の肌が爛れていき内部も焼失していく、最後に残るは高温に晒された頭蓋骨のみだ。

 しかし、それだけだった。

 蛮族の首から肉が溢れ、すぐに頭部は元通りとなる。そして、蛮族の頭部からは熱を放出する際の煙が上る。

 これで蛮族は五体満足になった。


「やっぱりそうなるわね……」

「まだだ!」


 コロコロ……とても間抜けな響きです。

 お姉様の視界を借りている私にははっきりと視えた。エイサンドさんが持つ異能が熱線のエネルギーのほとんどを回収した過程が。

 さらに、彼は体内にあるエネルギーと結界の残り分を費やし、自身へ強力な身体強化を施す。


「しっ」


 それは体を最大限に活かした、洗練された動きだ。ほとんど全てのエネルギーを活用したエイサンド渾身の一撃。

 音を置き去りにしたその一撃は、これまでとは一線を画す威力だ。

 接触と同時に破裂音が鳴った。


「ちっ」


 それを蛮族は小揺るぎもせずに受け止めた。しかし、その顔には一筋の汗が滴る。

 私は視た。

 蛮族は更なる身体強化を片腕に施した。後から動き出したのにも関わらず、余裕を持って正面からエイサンドの拳に当てた。

 そうしなければならなかった。エイサンドさんの一撃は蛮族に防御を強いたのだ。

 お二人とも、お疲れ様でした。


「終わりね」


 ヴィーシェルさんは死を覚悟している。エイサンドさんは半分ほど気絶している。

 本人は決して認めないだろうが、蛮族は今までにない攻撃に怯んだ。

 三者の間、奇妙な静寂が生まれる。


「あー」


 誰もが動かなくなった異空間に、後ろから傍観者を気取る彼の声が響いた。それは酷く悲壮感が漂うものだった。

 察するのが早いですね。

 終始すぐ側で意識外に存在していたアステア様が、予定通りに蛮族へと囁く。


「君よ。目的を思い出せ」

「理不尽だ」


 では、私は無力な貴方様の幸運を祈りつつ、ボクさんより頼まれたお仕事をします。

 まずはヴィーシェルさんを安心させましょう。


◇◇◇


 ——《転移》を行使、外部からの妨害により失敗。


 俺は世の中の理不尽に抗う必要がある。荒波に揉まれる覚悟もある。ただし、能力は著しく不足しているのが致命的で、つまり全く嬉しくない現実だ。

 差し当たっては、蛮族という酷いあだ名を付けられている彼との友好を目指してみよう。

 せめてその可能性が残されていて欲しい。


 彼は胸を張り、俺に対して威嚇をしながら歩いてくる。

 わー、まるで蛮族みたいだなー。

 薄情なヒマイさんはもう俺の側にいない。俺が失敗した転移で逃げやがった。


 目の前に立つ彼は全身に筋肉の鎧を纏う巨体だ。つまり、すごくムキムキマッチョメーン。しかも自然派の。

 身長は、俺の頭に俺の上半身を足した1.5人分程度。胴体の幅は全体的に2倍弱。

 特筆すべきは俺の両脚の太さを合算してもなお足りなそうなふとももの直径だろうか。

 遠目からも題したが、まさに超自然のムキムキマッチョメーン。

 俺の中では彼にピッタリの最高の褒め言葉なのだが、異文化コミュニケーションには気をつけなければならない。

 願わくば、まともな会話を。


「てめえか」


 彼に睨まれる。あなたは、人に敵意をお伝えするのがとってもお上手ですね。

 とてもプライドが高そうな人物だから、最初から這いつくばろう。

 気に障ったら終わりということで。


「私はとてもとても弱いので、あなた様に敵対する気はありません。どうかお慈悲を」

「なら俺に服従しろ」


 目の前のムキムキマッチョメーンはなんですか?

 これは超自然の蛮族です。


「はい喜んで」

「地に這いつくばれ」


 はい喜んで。

 譲れないもの以外の全てを捨てて、とりあえずこの場の争いを避けよう。

 面倒な事態を避けるためなら、俺にプライドなど不要だ。そんなものは見つからないように隠しておけばいいのだ。

 そして必要な時に上手く使おう。


「どうした?早く頭を下げて俺に服従しろよ」

「ぐーっ」


 間抜けな声を出しているのは俺の意思ではない。

 悪意ある手紙の送り主によって、俺は頭を下げられないのだ。もちろん、地に這いつくばることも。

 今回の悪意のある手紙の送り主は、明確に干渉していることを俺にわからせている。

 理不尽だ。


「ふん。手伝ってやろうか?」


 これは救いの手ではない。地獄への片道切符だ。

 蛮族はわざわざ俺の目の高さに合わせ、手のひらで空気を潰す。

 その風で俺の髪がはためく。

 それはお前の頭をこうしてやるという悪意に満ち溢れていた。


「死にたくないので遠慮します」


 ——《物体運動の制御》を行使。失敗。

 ——《転移》を行使。失敗。

 ——《縦深拡張》を行使。失敗。

 ——外部干渉を確認、空間縦深防御が無力化されます。

 ふざけんな。当たり前のように18工程も費やした軍用魔法を無力化するな。

 それは、俺が受け入れられない残酷すぎる光景だ。しかし、俺は現実に向き合わなければならない。

 とりあえず時間稼ぎの言葉を。


「今しばらくお待ちを」

「もういい死ね」

「は?」


 目の前に蛮族の拳が迫る。当然、身体制御で簡単に避けられる。

 足の裏が地面と接着されていなければ。

 これについてはイタズラということで納得するので、魔法を自由に使わせてください。とりあえず逃亡のための《転移》だけでも。

 ——《転移》を行使。当たり前のように失敗と。

 次善の策、《殴打の感触の再現》を行使。これは使えるのかよ。

 ぐえ。


「あ?」


 空間縦深がないのでエスヒルデの障壁で防ぐしかない。

 普通に痛い。これ障壁越しでも浸透してくるのかよ。

 あ!

 俺が気付かぬ間に障壁が弱体化させられている。もう無理だこれ。


「なんだてめえ」


 蛮族はどこか違和感を感じているようだ。

 まあ当然か。俺、殴られた衝撃で身体が斜め45度くらいに傾いてそのままだし。


「どうして私を殺そうとするのですか。私は何もしていません。どうかお慈悲を」

「てめえが気に入らねえ。だから殺す!」

「これは理不尽」


 面倒事は避けられないのか。

 いい加減、もう諦めよう。

 ケアスィーで思考を加速する。よしできた。


「しぃー!」


 間延びした声を出している蛮族さんに一つ教えてあげます。

 あなたが相手を不快に思う時、相手もまた不快に思うものです。

 俺も蛮族が気に入らない。だからぶっコロコロ。

【軍用魔法-用途: 対象の殺害-8工程-フレア】

 これで終わりだ。


 ——異空間から大規模な魔法反応を感知。即時対応が必要です。

 ああそうですか。終わりませんか。一応全力で抗いますけどね。


——

《異空間制御、範囲限定、速度遅延》

《対軍用魔法、一般妨害》

 攻撃のフレアを完成前へと差し戻し。

《対軍用魔法、一般解除》

 加速のケアスィー、障壁のエスヒルデ、空間のエスパシー、移動のフエイオム、隠蔽のヘアデイを解除完了。

《魔法エネルギーの還元》

 親切に魔力消費分を戻してやろう。

《指定事象で遅延発動、障壁崩壊の現象再現》

《異空間制御、お屋敷外部を設定速度へと回帰》

 さて、続きだ。

——


 ——加速魔法ケアスィーより全力加速を実行……失敗。

 俺の目が見開かれる。俺の口が歪む。体が固まる。

 種族差は本当に理不尽だ。

 とりあえず犯人は妾。

 せめて告発してやる。


「ねぇー!!」

「わらぶっ!」


 俺は目の前に迫る拳をすっかり忘れていた。頭部を殴られた衝撃で、地面に叩きつけられる。


「ぐえ」


 混乱して頭も体も上手く動かせない。

 地面と接着した足の裏を支点に、俺の体は逆再生のように動く。

 再び地面と直立した状態で止まった。

 故郷の誰かが今の俺を見れば、まるで畑に置かれたカカシだと揶揄するだろう。

 そして蛮族に左手を掴まれた。


【軍用魔法-用途: 対象の殺害-12工程——《対軍用魔法、一般妨害》——ダメだ。そもそも魔法が発動できない。

 一撃必殺の魔法は全て行使不可と考えよう。


——

《軍用魔法への一般干渉》

 一部の魔法を一時的に無効化、左肩と胴体の接続点を弱体化。

 ついでに足の裏に施した《異空間での固定化》をこっそり解除。

——


「あ」


 まずい。何かの干渉を施された。漂う魔法の違和感が非常にまずい。

 横から蛮族の殴打が来るが優先順位は著しく低い。近接格闘補助のマルエルツに対処を任せる。

 生まれた余裕で状態の《解析》を。


「ふん」

「いっ!」


 おかしい。

 俺の左腕が千切れている。

 なぜだ。

 マルエルツでの自動近接格闘はどこへ?迷子かな?

 まあ、空中で腕を戻して服は再生できる。


「くそきめえ」


 ただいま。

 おかえり。

 無事に帰宅した身体制御のマルエルツでしなやかな着地を実現。

 俺の筋肉も捨てたものではない。

 ……実は骨と関節の方が活躍したのは内緒だ。


 蛮族はその場で、手元に残った小物を見る。


「腕輪?まあいい」


 なぜ、マルエルツ君は迷子になったんだい?

 どこかの誰かに干渉されたんだ。役に立てなくてごめんなさい。

 そうかそうか。全然大丈夫だよ。

 本当、理不尽だよね。


「てめえ、ババアより固えな」

「まあ、はい」

「俺様に嘘ついたのか」


 適当に首を傾げておこう。

 あ、弱いとか嘘ついてごめんなさい。今のところ、俺の主観では手紙の送り主の次に強いです。

 ところでその手にある腕輪、返してくれませんか?


第7話終わり

白木ケイ

——備考

・《転移》じゃなくて軍用魔法の便利なフエイオム使えよ

 なんと主人公は素で忘れてます。


・アステア様の囁き

 君よ→我が君よ、の略語的なもの。

 蛮族の意識を主人公へ向けさせるもの。魂に働きかけない精神干渉の一種。

 強いて説明するなら言霊というやつ。

 主人公は囁く前から察した。


・主人公「魔法解除の犯人は妾にしよう」

 正解!特に報酬はなし!


・蛮族「気に入らねえ」

 なぜなら、主人公は蛮族に対して終始形だけの態度だったから。主人公が蛮族を軽くみているのが、肌感でバレた。


・カラリル様の人格、妾さんの行使する《軍用魔法の一般シリーズ》

 作中時間、共同体-システム歴1912年の現時点における、エルガルド共同体のルガル種が用いる最新の軍用魔法に対応した専用の対抗魔法。

 毎年、同胞たちと必死に集めた観測データに基づき、複数回のアップデートが施されている。

 この魔法での「一般」とは、全ての軍用魔法に対応可能という意味。

 主人公の行使した「試作」魔法エスヒルデは、元々軍用魔法として開発された経緯があるため、上記の魔法が通じる。

 これが、正面から全力で戦えば負ける可能性が高いと宣うカラリル様。ちなみにカラリル様の想定では本当です。

 

・カラリル様へ質問です。

 Q、なんで今になって干渉するんですか?

 A、絶対に秘密。

 Q、ねえなんでー?教えてよー!

 A、君、消していいかな

 ひぃー。おたすけー。


——後書き

 妾さんによって主人公が諦めの境地に達したせいで、その内心がシリアスぶち壊し。

 結果、ほとんどが虚空に消えた自然派へ。

 ここで合掌し、供養しておきます。


白木ケイ

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