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裏話(11) 感謝しますお姉様(必要な情報収集を完了)

備考とあとがきが長くなりました

 しばらく経って、恥ずかしいのでやめてくださいといえば、二人はすぐにやめてくれた。あまりにもスムーズに離れるので、ちょっとだけ寂しく感じたのは絶対に内緒です。

 意識を切り替えて、左前で停止している魔術師を観察する。考えるのは始末の手法だ。

 事前の打ち合わせはこうだった。まずボクさんが魔術師を拘束して生きたまま無力化する。

 そして逃亡の手段もない魔術師は命乞いをするだろう。それを無視して私が自身の力を使って魔術師の体を壊し、その魂を溶かす。そうして無慈悲に始末する手筈だ。

 だから、まずは心臓部を穿つか、それとも首を断ち切るか。

 迷ったのでお姉様に助言してもらいましょうか。その前にボクさんの左手を挙げてもらう必要がありますね。

 その時ボクさんがひょこっと私の視線を遮り、告げる。


「ヨラメ、こいつ先兵にしては非常に珍しい人格者らしいから、始末するまえにボクが会話してみてもいいかい?」

「それは構わないですが」

「すぐに終わるから待っててね」


 それは打ち合わせには無かった提案だ。しかし、特に問題も起こりそうにない上、ボクさんからのものなのですぐに了承する。

 確か人格者とは裏表のない誠実な立ち振る舞いによって他者に慕われる人物を指す言葉だ。そして、ボクさんが見せた冷笑を考えるに、それは純粋な皮肉として用いられた言葉な気がする。

 私はこれ以上深く掘り下げる気はない。

 それよりも、ボクさんを待つ間に心臓と首のどちらが効率的に始末できるのか、お姉様にアドバイスをもらおう。


「お姉様、心臓部を穿つのと首を断ち切るのではどちらがいいですか?」

「ヨラメ?」


 お姉様の尻尾がブワーっと逆立った。すごく驚いているらしい。今は顔を小刻みに横に振って、手が慌てている。こんなにたじたじになるお姉様は初めて見た。


「お姉様、魔術師の始末についての質問です」

「そ、そうよね。あと結構前向きなのね」

「はい、切っ掛けをくれたボクさんもそうですが魔術師さんにも感謝しています」

「ちょ、え?そんなに可愛く首を傾げてもわからないわよ」

「お姉様?効率的な——」

 

 後ろで面白そうなことをしているヒマイとヨラメがいるけど。ボクは仕事をしなくちゃ。

 《魔術師との会話》を新構築して行使。

 寄生魂からの干渉を拒絶。

 魂へ干渉し純粋な魔術師の人格を極短時間だけ分離。その後、事象を消去。

 魔術師とボクを再度隔離。

 これでよし。

 ボクは魔術師の停止を解除する機能を再度左手に付与。

 そして左手を上げる。

 これの呼び方は何がいいかな。諸般の事情から鑑みた適切な表現は魔術師か。


「やあ、魔術師。君の話を聞きたいんだけど。教えてくれるかい?」

「......」


 質問の後、作成した純粋な魔術師の人格を観測。

 癪なことに僅かに残った寄生魂のノイズを除去。

 そして再び観測。

 全ての情報収集を完了。

 念の為もう一度観測。

 結果に一切の変化なし。

 用が済んだボクは左手を下ろし始めた。


「ま」


 ボクは左手の付与を解除して、魔術師に注意を向けた。最後に何か言いかけていたなあと。

 まから始まるフレーズだと、まだ何も言ってねえが、あたりか。もしくはまだお前らには何もしてねえ、だろうか。

 その他にもまだから始まるシリーズはたくさんある。ああ、雑談では魔法について質問されたっけ。でもこの状況で魔法と魔術についての質問をするかなあ。

 おっと、至極どうでもいいことに意識を割いてしまった。ボクの悪い癖だね。反省しないと。

 それよりも、会話の成果だ。

 先兵については特に目新しいものは無かったね。そして、新たに判明した目標を攻撃対象に追加する必要が生まれた。敵は思ったよりも規模が大きいみたいだね。

 今同胞への報告を完了した。すぐに必要なところへ伝わるだろう。生じた影響は微小なものだが、それは我々にとって良い方向への変化だ。

 今後も地道に頑張ろう。


 再隔離を解除して異空間へ戻り、ヒマイと話すヨラメに会話の隙間を縫って声をかける。


「——方法はどちらですか。私としてはローブの下に硬いプレートを仕込んでいる可能性を考慮して、首の方が確実だと思いますが」

「え、そうね、多分そうよ」

「ですがそれだとフードが邪魔になります」

「停止している間にフードを脱がせばいいのよ」


 その時にイタズラしないとは言ってないよね。ボクはヒマイを揶揄うのがとても楽しい。

 あ、この場合は歩いて移動しないと。


「確かにそうですね、ってお姉様?」


 お姉様が顔を横に振って今のは私ではないと表明した。なら一体誰が......考える必要もなく、犯人は明らかだ。

 ボクさんが左から歩いて近寄ってくる。

 魔術師との会話はもう終わったのだろうか。だとしたら早すぎる。


「終わったよ。待っててくれてありがとね」

「本当に早いわね」

「すぐに終わるって言ったじゃないか」


 ボクさんが姿勢を低くして、私とお姉様の顔を下から覗いてくる。

 そのまま目を潤ませて、儚い少女のような上目遣いをお姉様へ向ける。ボクさんはそのまま笑顔を作った。ええ?


「ねえ、ヒマイ。今の冗談はどうだった?」

「これは冗談ではなく悪趣味なイタズラです」

「私はその顔がわざとらしいと思います」

「なかなか厳しいね」


 後頭部を掻いて、非常にわざとらしく反省するボクさん。でも私にはそれが面白くて不覚にも笑ってしまう。

 これから魔術師を始末するのに、この状態はよくない。あまりにもよくない。


「うえ?」


 突然、服の袖を掴まれて、グッと体が引っ張られる。私を受け止めてくれたお姉様がとても温かい。


「ヨラメ、本当に大丈夫なのね」


 お姉様の冗談の含まれない真剣な表情が、私の身と心を引き締めてくれる。


「はい、お姉様。ヨラメは少しずつ変わっていきます」

「変わらなくてもいいの」


 今の声色だけでも分かる。きっと私が何もできないままでも、お姉様は甘やかしてくれる。それはとてもありがたくて、嬉しいことだ。

 でもそれはダメ。

 

「皆で逃げているときのような、足手まといの私はもう嫌です」

「無理をする必要はないわ。少しずつ、ゆっくりでいいのよ」


 それはそうだ。私は何でもすぐにできてしまうエフリーお姉様ではない。まして、持って生まれた器用さで複雑なことでも卒なくこなせる変態のキストでもない。

 ましてや、ヒマイお姉様のように特別な眼の力を易々と使いこなせない。

 どちらかといえば、トレイお兄様とマコムお姉様のように鍛練と勉学を地道に積み重ねていく必要があるタイプだ。だから


「はい、一歩ずつ努力を重ねます。その初めの一歩としてまずは魔術師を......って、お姉様?」


 私の本心を伝えている最中に、なぜかお姉様が頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「そうじゃないの、それは多分違うのよ」


 ぶつぶつと一人で呟きながら、激しく頭を掻き始める。そんなお姉様の様子がとても心配だ。でもどうすれば。


「ヨラメ、ヒマイが落ち着くまでこっちで待とうか」


 ボクさんに手を引かれながら考える。一体何が違うのだろう。

 私は何もできない今の自分を変えたい。お姉様を助けられるようになりたい。

 ボクさんの依頼で魔術師を始末することで、危険が少なく、私ができることを増やせると思うのですが。これの何が間違いなのでしょうか。


「ヨラメ、ちょっとその思考はまずいかも」

「どういうことですか?ボクさん」

「うーん、ヨラメは変わりたい?」


 当然そうだと、私は肯定の返事を返した。


「でも、そのせいでヒマイが悲しむのはよくないよね」


 とても意地の悪い問いかけだ。何でボクさんが私を否定するのかわからない。


「ヨラメも魔術師を始末するのは辛いよね」

「辛くありません」


 これは嘘だ。でも部外者のくせにでしゃばるボクさんが気に入らないから絶対に認めない。

 これ以降、ボクさんが問いかけてくることもなくしばらくお互いの沈黙が続いた。

 決して気まずくはない。


「はい、ヨラメ」


 ボクさんに背中を押されて、少しだけ前に出た。前を向けば、暗闇の中で沈黙のまま佇むお姉様がいた。

 ここで何かを話さなければならないのは分かる。でも何を話せばいいのかわからない。

 私が迷っていると、お姉様の方から口を開いてくれた。


「ヨラメ......私は何を話せばいいのかわからないけど、辛いのなら無理をしなくていいのよ」


 お姉様はいつも私を甘やかしてくれる。今すぐにその胸に飛び込みたい。そして、とても苦しそうにしているお姉様を癒したい。

 もうすでに気づいた時には一歩を踏み出していた。これはダメだ。

 お姉様の思いやりは、折角強固にしたはずの私の覚悟をぐずぐずに溶かしていく。

 だから私は顔を逸らす。


「私は何もできない不甲斐ない姉だけど——」

「そんなことはないです!」


 ついさっきまでの思考を無視してお姉様へ駆け寄る。そして勢いよく抱きついた。


「うわっふ」

「お姉様は......お姉様はいつも私を甘やかしてくれます。それはありがとうございます」

「それを言うのは私の方よ。ありがとうヨラメ」


 抱き合ったまま、お姉様は私が背中に回した両手を尻尾で器用に撫でてくれる。

 今の私はとても幸せ。だからこそ。


「こうしていつでも私が甘えられるように、どうかお願いします」


 うまく言えないけど、きっとお姉様ならわかってくれるはず。


「ヨラメ、平気?」


 お姉様が問いかけてくる。これに私は正直に答える。


「少し怖いです」

「大丈夫?」

「お姉様が大丈夫になるようにしてください」

「それは......やっぱり上手く言えないから」

「はい」


 私はお姉様の柔らかい胸に顔を埋める。ちょっとだけ不安だ。


「あんたには期待してるわ、頑張りなさい。......お前ができるまで俺は待つ。だからゆっくりでいい」


 ゆっくりと顔をあげる。

 それは、マコムお姉様とトレイお兄様の真似だ。お姉様のモノマネはあまり似てない。でも、二人がここにいたら。


「キストの分は」

「必要ないです」

「そう......彼が悲しむわよ」

「それでも要りません」

「ひ、ひどいよー」


 あの変態が言いそうなセリフでも、お姉様が言えばとても可愛いものだ。あいつのはもっと生理的に気持ち悪い。

 お姉様のおかげで、今のセリフからはキストのことは全く連想できなかった。ありがとうございます。


「あとは、えっと、うーん」

「エフリーお姉様の感性は不思議ですから」

「そう、そうなのよ。だからね——」


 とても期待してますよ、お姉様。

 私は極めて明白な意図を込めて、ただ微笑んでおく。

 お姉様がたじろいた。

 絶対に逃しません。そのためにも抱きしめる力を強くしておかないと。

 はい、ぎゅー。


「えと、えー、あそうだ!」


 さあ、ヒマイお姉様の考えるエフリーお姉様を聞かせてください。


「こう、しゅパッとやればすぐに終わるわ!頑張りなさい!」

「なんだか少し違う気が......」

「私もやりながらそう思ったわよ」


 方向性は合っていると思う。でもどこかそうじゃない気がする感じだ。


「でも、ありがとうございます。じゃあ、最後にお姉様の分もお願いします」


 もうとっくに大丈夫になってしまったが、それがバレないためにも、今度は真顔にしておく。

 あとこれは私の我儘だけど、お姉様にはお姉様の言葉を使ってもらいたい。


「ヨラメ、私は今すぐに変わらなくてもいいと思うの。あんなことがあったし、ヨラメにはゆっくり休んで欲しい」

「はい」

「それでもヨラメがやりたいのなら......頑張って。でもここで応援させてね」

「はい」


 とても恥ずかしいから顔を埋めて、ぎゅー。

 私、頑張ります。

備考

・ヨラメのお姉様呼びについて

 ヨラメが会話する場合、最初に話しかける時以外は名前を付けずに「お姉様」とだけ言います。

 これは現実では体の向きや仕草によって誰に話しかけているかが明白な場合が多いと思うからです。もちろんグループ内で混乱しそうな場合とか、対象を強調したい場合は名前付きで呼びます。

 でも小説ではこのルールは無効ですよね。なぜなら、文章を構成する単語の情報量が少ないと伝わりにくいから。

 この話を書いている途中で上のことに気がつきました。わかりにくいところがあったらどうしよう。


・ボク(手紙の送り主)の視点

 もしかしてよく分からない?

 大丈夫、細かいところは作者も分らない!(オイ

 この視点は異空間の魔術師部屋にいるボク様視点のほんの一部を抽出した感じです。ボク様は異空間に全く関係のないことを同時並列的に思考して行動してたりするので。流石に全く関係のないそれらは全カットかなと。

 我様視点も事情はほとんど同じです。

 ちなみにボク様の人格を持つ体は他にもあります!(なんの脈絡もない唐突な設定開示)


・ボク様が観測して得たものは?

 魔術師との会話。それといくつかの追加コンテンツ。


・魔術師が考えたこと&いいかけたこと

 「......(一瞬だけ見えた時に少し距離があったはずなのに、いきなり目の前に現れて驚愕してる)」→(思考)なんだこれ、俺は襲われてるのか?

 「ま」→(思考)とりあえず時間を稼ぐぞ!こういう時は相手に質問を投げかけるんだ!

 「ま」→「待ってくれ!なんで俺を襲撃するんだ!せめて理由を教えてくれ!」の「ま」

 「ま」には魔術師の魂がこめられていた。当然、無視される。


・エフリーの励まし(一例)

 「やればできるわ!ならズシっとしてみなさい!無理なら私がパキポキ教えてあげる!」

 ヒマイのセリフは微妙にずれている。

 エフリーが用いる擬音の感性がずれているのと、教導の提案がなかったことが敗因。


おまけ

 エフリー擬音は適当なはずなのに、後付けで意味が通ってしまったので解説。

 ズシっと→あなたにとってそれはきっと重い(重要な)問題なのよね。辛いだろうけど、それでも頑張って

 パキポキ→骨を折るということ

(骨を折る→苦労をいとわず精力的に〜という慣用句。つまり、ヨラメのために力を尽くすわ!ということ)

 やばい、今後のエフリーのセリフ作りには苦労しそう。


あとがき

 (10)から、話の途中での視点変更に挑戦してみました。そして初めての作品で、初めてエモいシーン的な何かに挑戦してみました。いかがでしょうか。以下は自己評価です。

 前者は、「初めてにしては」よかったと思います。

 後者は、通しで考えると違和感が多いなという感じです。いろいろダメダメな気がします。

 もっと視点変更の効果的な使い方とか、わざわざそれをする意味とかを理解しないと。そもそもキャラクターを魅力的にするための前振り話とかもした方が良かったような。反省は以上です。

 話は変わりますが、前提として本質的に彼女達は魔術師への関心が希薄です。例えるなら、人ではなく単なる記号としか見ていない感じです。

 彼女達が停止している魔術師を蚊帳の外にしてこんなやり取りをできる理由がそれです。

 経過時間とかの問題はボク様が解決してくれます。

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