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「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。  作者: 白木ケイ
1章の裏-1 異空間での出来事その1

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16/23

裏話(1) 逃亡の果て(ただ見ているよ)

本日から(8)まで投稿していきます。

(1)〜(8)はヒマイ視点です。毎日17:00投稿です。

例外として(5)と(6)は同じ話として投稿します。

 月明かりが照らす宵闇の中、一面が砂と岩で、緑のない荒野を進む四人の人影がいた。そこは見晴らしの良い平地ではなく丘や崖などの高低差のある地形だ。

 夜の空気は肌寒く、日中との寒暖差から四人の体力を少しずつ蝕む。

 先導する狐耳の女に誘導され、四人は巧みに岩陰から窪みへと移動した。その目的が極力周囲の目に晒されないための動きであることは明白だった。

 熟練の隠密としての技を見せつつも、四人の表情は芳しくない。

 ここで先導者の女が口を開く。それは内心の葛藤と諦めを示すものだった。


「エフリー、キスト」


 私達は逃亡中の身だ、二人が殺されて残りは四人。状況は苦しい。

 最初に犬耳を持つエフリーが居なくなった。私達の中で一番明るくて、ヨラメに勇気を与えてくれた彼女が。

 次に猫耳のキストがやられた。ずる賢くて、皮肉屋な人。でも最期まで仲間を信頼していた情に熱い彼が。

 私の眼が二人を殺した追跡者を捉えた時には既に手遅れだった。仲間が血飛沫を撒き散らして肉片となる無残な姿は二度と思い出したくない。

 なぜ気づけなかったのか。それは単純だ。私が遠方の追跡者の索敵と殲滅を優先したためだ。

 この間、必然的に私の意識はごく近い距離の脅威に対して散漫になる。追跡者はその瞬間を狙いすまし、空間跳躍による奇襲を仕掛けてきた。

 いつから補足されていたのかは不明だ。しかし二人の亡骸はもはや最悪の悪夢ですらない。今目の前にある現実だ。

 そしてマコムとトレイの二人がすぐさま下手人を殺した。ついでに私は遠方にいた指揮官らしき人物を周囲の護衛ごと殺した。これで追跡者の指揮官を殺すのは四回目だ。

 これで少しでも指揮系統が乱れてくれるといいのだけど。幾度か行われた一連の攻防からそうならないことは明白だけど。

 二人の葬いを素早く済ませ、私は残った皆のため、先行して次の移動先を確認する。

 冷えた地面から伝わる感触が酷く不快に感じる。

 私の荒む心とは別に、体は何度も繰り返した動きを自然にこなしていく。

 この洞窟はダメ、この岩陰は危険。私は一瞬で下される無意識の判断に身を委ねる。

 周囲の目を遮れるこの窪地は悪くない。内側に罠は仕掛けられていない。安全だ。

 そして選定した窪地に皆を誘導しながら、わずかな間で考える。

 私達の追跡者は事前の想定よりもはるかに優秀で量も多い。なぜ奴らは我々の確保にここまでの資材と労力を費やす。

 だがそれも当たり前か。

 思考を取りやめ、新たに眼で捉えた斥候らしき人物を七人、監視役と思しき三人から八人の小集団を三個ほど皆殺しにしておく。

 最後の一人が窪地に隠れた後、狸耳のマコムはすぐに私に近づいてくる。そして私を窪地へと引き込み、

眼の治療を始める。


「まだ大丈夫」

「ヒマイは黙って」


 私はそういって遠方の索敵と補足した追跡者の排除続けようとするが、マコムはそれを許さない。

 抑え込まれたせいで背中と後ろ髪に冷たい土の汚れがついてしまった。

 マコムはそのまま熊耳のトレイに問いかける。


「どうする、このままじゃやばいよ」

「わかっている」


 答えたのはいつも無口なトレイだ。彼はよく無言のまま考え込んでいる。熟慮の末に発せられる、彼の一言には私も何度か助けられたことがある。

 そんな彼からどうしようもない絶望感を感じる。

 やはり攻撃担当のエフリーとキストが殺されたのが痛いわね。


「とりあえずこれで終わり」

「ありがとう」


 マコムによる応急処置は終わった。眼精疲労は改善している。

 この眼は有用だが、追跡者に妨害され続ける中では使用に負担がかかる。それでも仲間のためには無理をするつもりだ。


 しばらく誰も口を開くことはない。

 今はどうにか窪地に潜むことでやり過ごせている。

 しかし私がいくつかの監視を潰したとはいえ、追跡者の能力を考えればいずれ見つかる。そして襲撃によって全滅するのも時間の問題だ。

 その時トレイと目が合う。私は彼と同じことを考えている。

 それは今すぐの全滅を避ける手段であると同時に、仲間を見捨てる外道の所業だ。決して私の口からは言えない。

 ふとトレイが笑う。それは私への、しょうがないな、という呆れが含まれていた。


「俺が外で目立って足止めする。ヒマイ、マコム、ヨラメ、あとは3人で行け」


 この状況をよく理解している彼はその重い口を開けた。

 言葉の通り、彼はこのまま私達を逃すためにの囮になるつもりだ。

 なぜトレイは優しい顔でいられるの。

 私は彼が優しくヨラメの頭を撫でる様子を見ていた。ヨラメは少し痛そうにしている。それが嫌でいつもは拒むんでいた。

 そしてマコムとは強く抱き合った。彼の大きな背中とマコムの小さな腕が震えているのがわかる。

 なぜこの場での囮役がいつも無口で落ち着いている彼なのか、それがわかってしまう自分が憎く、罪悪感から下を向く。

 私の瞳から流れているこの涙は本物だと信じたい。決して必要に駆られた演技ではないはずだ。


「痛っ!」


 急に乱暴に頭を撫でられた。撫でられたというより叩かれた気がする。無理矢理されたせいでまだ耳がジンジンする。

 その感触は非常に不快なものであるはずなのに、だが不思議とそうは感じなかった。

 私が顔を上げれば、彼は振り返ることなく窪地から出ていくところであった。すかさず別れを告げる。


「さようなら」


 私には彼の示した覚悟と意思を曲げることなどできない。決して綺麗なものではないが、別れを告げられただけマシだと思おう。

 エフリーとキストの二人とは別れの言葉すら無かったのだから。

 そしてどうせ、いざとなれば私も彼と同じことをする。

 トレイを見送り少し休憩したのち、再び逃亡を開始する。引き続きルートを決めて皆を導くのは私だ。

 そして一日が過ぎた。

 私達の逃亡中にトレイは死んだ。偶然にもこの眼でその最期を見てしまった。

 私が彼を捉えた時、彼まだ戦っていた。私は彼が生き残れるように、横から隠密で迫る刺客を殺していた。だが無駄だった。

 当然、彼の犠牲に関わった全ての追跡者はもうこの世にいない。

 今朝から感情の整理がつけられていない私が何度もミスをした。そのせいで襲撃を受けているのに誰も責めてくれない。

 大切な仲間たちは私に命を預けてくれているのだ。その信頼に応えるためにも、私はできることをするしかない。

 しかし、私は預けられた命を既に三つも取りこぼした。だがとにかく進む。

 痕跡を残さず目立たないように移動するために、それは鈍重で知られる亀のような歩みだ。

 遅々としているが、しかしこれが最も速いものだと私は知っている。

 後ろを歩くヨラメから小さな嗚咽が聞こえる。見れば日中の強い日差しで乾燥したはずの地面に水溜りができていた。

 まずい、このままでは溢れてしまう。これ以上はヨラメが耐えられないか。よく持った方だろう。


「ヨラメ、泣かないで」

「マコムお姉様、私が戦えないせいでみんなが死んじゃう。私のせいで、ごめんなさい」


 マコムが寄り添ってくれているけど。ヨラメは自責の念に駆られてさらに落ち込んでいく。

 でもいいの。私達はあなたに生きて欲しいと思ったらからこうしてるの。

 あなたが自分を責める必要はないわ。

 私達はあなたを守れて幸せよ。

 でも苦しむヨラメを見ていると、そんな無責任なことを伝えられない。


「でも......でも」

「ヨラメ、文句を垂れずに逃げるの。そして強くなれ。あんたにはそれができるんだから。そしたら......私達の無念を晴らしてね」


 その時のマコムの言い方を変に感じたのは当然のことだったのだろう。

 また私は失敗した。今度は私のくだらない情動のせいで。

 いい終えた彼女は乱暴にヨラメを突き飛ばした。そして彼女は最期、私に視線を向けたのだ。

 任せたよ、と。


 追跡者は治癒役のマコムを殺した。それは三択の中で最も合理的な選択肢であることは、嫌になるほど理解している。

 だが今の私には受け入れられない結果だ。


「死ね」


 激情に駆られるまま私が放った攻撃は、マコムの分の復讐を果たした。


「お姉様」

「ヨラメ?」


 彼女が近くに寄ってくる。服の裾を掴んだては震えていた。怯えているのだ。大丈夫、すぐに私が全部片付けるからね。

 目を閉じて待っていなさい。


 それから逃亡の最中、何度も何度も何度も何度も襲撃された。その全てを退けた。

 目の前にある醜悪な魂を壊す。空になった肉が地面に倒れ伏した。これが今回の最後だ。

 そして私は預けられた命を取りこぼしてしまう無能な存在だ。それを忘れさせてくれる仲間はもういない。

 悲しいかな、私の願いは叶うことはない。

 もう終わりだ。


「おね.....え......さ、ま」


 なぜ私は未だに立っているのだろうか。ヨラメが倒れているのに。

 なぜ私は未だに両手があるのだろうか。ヨラメはもう失っているというのに。

 なぜ私は生きているのだろか。ヨラメの息はもう絶えそう......だ。


「何で私は」


 彼女を看取っているのだろうか。

 まだ魂は生きている。適切な治療を施せば間に合う。

 だがそれはマコムにできても私にはできないことだ。

 私にできるのは、体を綺麗に整えることだけ。

 私にできるのは、ヨラメの終わりを待つだけ。

 私にできるのは、起こらない奇跡に縋るだけ。

 他にできることは何もない。無能な私だ。


「ごめんね、みんな」


 エフリーにキスト、トレイ、マコム。そしてヨラメ。


「私、みんなに託されたことを守れなかった」


 預けた命を取りこぼす無能な仲間で。

 託された願いを守れない無能な仲間で。


「ごめんね」


 耳鳴りがひどい。でも大丈夫。

 魔力がすくない。でも大丈夫。

 眼は霞んでいる。でも大丈夫。

 私は大丈夫。


 そして意識がないヨラメを置いて立ち上がる。私は最期の時まで......私は......何をすればいいの?


「仲間を守ればいいと思う」


 そう仲間を守る。守れなかった仲間を守る。みんなどこにいるの?


「目の前にいる」


 そう、目の前には魂のまま苦しんでいるヨラメがいる。彼女を守らないと。でもこのままだと死んでしまう。


「死なない」


 確かに彼女は死んでいない。未だに生きている。でも魂が壊れていく残酷な現実が見える。私にはどうにもできない。


「大丈夫、私ならどうにかできる」


 だから私にはどうにもできない。方法を知らない。無理だ。


「私が助けるんだ」


 助からない。ヨラメはまもなく、世界から失われる。


「だから、私が助けるんだ」

「助けられるはずがな......い......」


 何だ、これは。ヨラメのすぐそば、私の前に女がいる。いや違う、人間ではない何かがいる。

 それから溢れ出る力の余波であってもこの星が至極容易く崩壊させられるとわかる。言い換えればこれが私達を塵芥にするのは造作もないことだ。


「あ、あ、ああ、ああああ!」


 死、死ぬ、逃げないと死んでしまう。無理だ無理絶対に無理。私ではなにもできない。逃げないと、ヨラメを連れて早く。何で体が動かないの。

 違う、恐怖のせいで動けないんだ。

 それはゆっくりと歩きながら近づいてくる、しかしそうではない。それは歩いてなどいない。歩いているように見えるだけだ。そうであると私に理解させているだけだ。


 そこまでだった。

 私の視界は真っ黒になる。

 そこから先の記憶はない。


「あれま、残念だなー。ま、ヨラメちゃんはきちんと助けるから安心してねー。もちろんヒマイちゃんもねー」


備考

・「追跡者の走り書き」

 エフリーは万能で最も強い。第一撃で確実に排除しろ。

 キストは厄介な斥候・妨害役。次善の排除対象だ。

 上の二人を生かしておけば、最悪こちらの全滅もあり得る。何を犠牲にしてでも殺せ。

 マコムは優秀な衛生兵。先の二人を始末できなければこちらを殺せ。あれはヒマイの継戦能力の要だ。始末するのが早ければ早いほどこちらの損失が減らせる。

 トレイは持久戦で抑え込める。発見次第、孤立させろ。あとは専門のチームで対応する。

 ヒマイは眼の過負荷からくる息切れを狙え。その間に生まれる莫大な損失はあらかじめ計画に組み込んでおいた。

 ヨラメは正面から挑まなければ戦力外だ、残存する標的の足手まといとして活用しろ。


・作戦結果の報告(下書き)

 ヨラメの確保に失敗。

 詳細は分析中。

 最終段階まで順調に進行。

 四人の死体を確保。

 全ての実働戦力を殲滅完了。

 途中からこれを書いたのは誰だと思う?

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