73 これからはじまる
「っんな…じゃあ」
「サリエは、貴方にこの国を託そうとしていたんですよ、ねぇ?」
シルバの顔が向けられた方を見れば、今話しに出ていた渦中の人物。
「今まで黙ってて悪かった。でも、俺は先代カリオス王の息子じゃなく、兄弟なんだ…ごめん」
「あっ…」
今あるこの国の継承条件を総て満たしている王子。
ただ、その存在が知られていないというだけで血筋からしても正統。
「先代の王は余程、自分の息子に自分の地位を譲りたかったらしくってね。リアリリスに言ったんだよ『サリエを生みたければ、離宮に。そして、一切の外政内政問わず、関わることを禁ずる』とね。彼女はその要求を飲んだ。歳は近かったとはいえ、二人はそういう関係じゃなかったから、当然誰の子かは必然だった。」
「そんなの、私は何も知らない!」
カルスは半歩後ろによろける様に下がる。
「ついでに君の祖父、ライアン・ルシエス=ユフィスアナ・ローランド・ルカディアにも今日は来てもらっているんだ」
「生きているわけがない!!それこそ、嘘だ!!父が…敵のふりをして、後ろから矢を射ったんだから!!!」
嘘の中で生きてきた可哀そうな王。
「失敗していたんだよ」
シルバは抑揚をつけずに話す。
「ライアンは今までずっと離宮で過ごしていた。だからこそ俺たちはサリエの存在を知っていた。」
「じゃあ、私はどうすれば…。サリエに玉座を譲ればよろしいのでしょうか?」
「俺は、王になる気はない。カルスが王様で居ればいい」
「サリュー…」
「俺は、母様や父様と一緒に自由に過ごしてきた。これからも、そうしたいんだ」
「そうそう。これは、サリエの母親が俺の息子の一人、カリオスと約束したことだ。カルスが気に病むことはない」
そう言って扉から当たり前の様に入って来たのはシオンが離宮でよく一緒にいた金髪に紅い瞳のライアン。
「私はもう王ではないから、権力も何もない…唯の、カルスの祖父であり、サリエの父という存在。王はカルスお前だ」
「……おじいさま」
この事実を知らなかったシオンも同様に驚いているようだ。小さくライアンと口がその名を紡いだ。
「カルスお前が王だ。なのにどうして、臣を入れ替えない。この王宮はお前のものだ。お前が指揮して行かなければならない場所だ。もっとお前に、お前自身に忠誠を誓ってくれているものもいるだろう?」
先代もそうだが今代のカルス国王も、先々代の人事からあまり人を動かそうとしていない。
先々代が栄華を誇っていたからかもしれないが。それでは、いつまでたっても何も変わらない。
「シルバ様…シオン、この国のことは、後は我々が引き受けまする故」
「そうか…また、来る」
「ええ、次に来る時には――」
「じゃあ、シオン行こうか」
「でっでも」
「この国のことは、王族がどうにかするって言ってるから、部外者の俺たちはいなくなる方がいいんだよ」
「そうか…えっと、カルス今までありがとう。サリュー、また会えるんだよね?ライアン…びっくりしちゃったよ」
一言ずつしか言えなかったけど、それでもきっとまた会えるから。今は、これだけでも。
「では、私達はこれで…国王?失礼しますね」
「あ…」
カルスの手が小刻みに震えている。
「本日はご足労いただきまして、ありがとうございます」
カルスがそう言うと、サリューもライアンもそれに倣う様に礼をする。
シルバはシオンの手を取ると、そのまま先ほどライアンが入って来た扉の方に向かう。
扉を出る直前に三人の方を向くと誰ひとりとして頭をあげている人はいなかった。
その後もシルバは迷うことなく王宮内を歩いて行く。
王宮の端、もう少しで出られるという場所の廊下でいつも難しい顔をして、シオンのことを見ていた宰相が立っていた。
「シルバ様」
「コナリー」
旧知の仲なのか、二人は向かい合う。
「良かったですね」
いつも眉間にしわを寄せてばかりいる宰相が今日は普通の顔をしている。
「コナリーも良くやった。直ぐにでもライアンの許に行けるぞ」
「シルバ様有難うございます。シオン様もお元気で…」
「はい」
コナリーって宰相の名前だったんだ。初めて聞いたかもしれない。
「シオン様、アスカ様のことですが、ヴィンスと供にいる彼女こそが本物です」
そういって、私に見せたことのない笑顔で私をみる宰相
「それって…どういうことですかっ!」
「シオン、難しい顔してる」
「だって…未だにちょっとよくわからないところとかあって…混乱してる。それに、アスカちゃんのことも」
そうだ、この王宮の中で解決してなかったことも、いくつかある。
「だろうな。まずは、ユフィに会ってのんびりしよう」
「会いたい、けど…」
「ちゃんと話すし、今日の晩御飯にアスカもライアンも呼んである。シオンの謎も全部といてあげるよ」
でも、と言い募ろうとするとシルバを見上げれば、大丈夫だいうように笑っている。
いつも隠れて、王宮を出る時に見上げていた空を今日は正面の門から見上げる。空は今日も蒼く遠くとおく広がっている。
「シルバ、世界を巡るんだよね」
確認するように聞けば、シルバは私の方を向いて頷く。
「約束したからな」
まだまだ謎の多いシルバだけど、これから知っていけばいいんだ。時間はいっぱいある。




