71 岐路
「それってどういうことのなの?」
自然、身体が前に傾むいた。
昨日王の執務室の前、扉一枚を隔てて宰相と王も同じようなことを話していたから。
「…え」
「あの、昨日王と宰相も似たようなことを話してて…それで」
「えっと…心配しなくても大丈夫なんだけど、何にも聞いてないの?」
「うん」
王と宰相の会話なんてこの離宮にいたら聞けるはずもない。それに私はここに来てからというもの外の情報に全くといっていいほど触れていない。
「心配しなくても大丈夫ってどういうことなの?」
やっぱり私は蚊帳の外なの?
「シオンは心配しなくてもちゃんとシルバの所にいけるから」
「ほんとうに?」
「そうだよ。それを王が拒んでる。宰相はシオンを解放してあげるべきだって言ってるんだよ」
サリューが安心させるかのように優しく微笑む。
「あの宰相が?」
「あの偏屈すぎる宰相は、王のために動いてはいないからね」
「王の宰相なのに?」
「彼は王の宰相だけど、カルスの宰相じゃないから。」
「そう…」
「あ、答えが出たみたいだね」
そう言ってサリューはゆっくりと目蓋を閉じる。
「シオン。カルスが来たら世界を巡るってちゃんと伝えるんだよ」
「えっ…」
「じゃ、また後でね!!」
ソファーから立ちあがって駆け足で部屋から去っていくサリューを私はそのまま見送ることしかできなかった。
サリューがいなくなっても私はソファーから動かずに、来るというカルスを待っていた。
サリューがそう感じたなら必ず来るから。
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「ああ、シオン」
廊下にいただろうシーラを手で制してカルスが部屋にやってくる。一日会っていないだけで人間はこんなに変わるのだろうかというほどに、カルスから発せられる気配はいつものものと違っていた。
「おはよう」
カルスも別段焦っていはいない。
「おはよう、お茶してたのかな?体調はもう大丈夫?」
優しく気遣ってくれるとこともいつもと同じ。
「うん、シーラが用意してくれたの。体調も薬が利いたみたいで、すっかり」
「そっ…か」
静かにカルスは先ほどまでサリューが座っていた場所に座る。
「あの…シオン」
いつもなら目をあわせて人と話すカルスが今日は下を向いている。
「シオンは、この国を出て色々な国を周りたいの?」
数拍の間の後に絞り出すような声でカルスは言った。
「うん。私はこの国だけじゃない。この世界を巡る」
さっきサリューが言った様に、しっかりと言葉で伝える。
「私は、この国から安易に出ることも叶わない身だ…」
「そうね、だって王様だもの」
「…私と一緒にはいてくれないか?」
そういって頭をあげたカルスに対して今度は私の方が俯いてしまう。
「わ…たしは、私もカルスといるのは確かに好き。でも、それは」
もう友情としての方が比重が重い。以前の私ならきっと喜んだ。この世界に来てはじめて私を必要としてくれた人とずっと生涯寄り添っていけるなんて素晴らしいって思った。
「でも、今の私には、世界を巡るっていう夢があるの」
シルバと一緒にこの世界を巡るっていう約束の夢。
「待ってても駄目か?」
「…きっと」
「そうだよね。うん…ごめん。実はシオンを呼びに来たんだ。格好はそのままで良いよ」
「えっと」
カルスはゆっくりとソファーから立ち上がると右手を差し出して私が立ち上がるのをまっていてくれる。
「シオン」




