70 唐突な人物
王宮は本当に慌ただしいらしい。
今まで私の居る場所に昼間、王以外の人はこれなくて、夜中に来ていたのに、堂々と入ってくる人間がいるのに誰も止めるだけの余裕がなかったらしい。
さすがに昨日熱が出た見では王宮を散策したいんだけどといってもシーラから許可が下りるわけもなく、自分でもちょっと言ってみようかなと思っただけでそこまで食い下がる気もなく、部屋でのんびり読書をしていた。
そんなところにこんなところで会うとは思ってなかった人が訪ねてきた。
「元気してる?昨日風の皆が心配してたよ~。あっこれお茶菓子だからシーラよろしくね。ああ、なんか豆鉄砲食らったみたいな顔しれてるね。王宮がちょっと慌ただしそうだったから混乱に乗じてここ入ってきちゃった」
そう言って明るく入って来たのはサリュー。
最初にノックもなしに扉が開いたのもびっくりしたというのに、その人物があたかも普通に入ってくるので、あっけにとられた。
いつもなら抗議の一つでもするだろうシーラが何も言わずにお茶菓子を受け取っていた。彼女も相当びっくりして、脳内の思考回路が止まってしまっての対応だと思う。
「えっと…おはよう?昨日熱出したけど、もう下がってるけど、一応様子見で部屋にいるんだけど」
「…迎えが来たね」
シーラがお茶の準備をしに部屋から出ていくとサリューはそう言ってニコニコと笑った。
「うん…サリューは引きとめないの?」
「俺は会いたい時に会えるし、シオンが行きたいところに行けば良いと思ってるだけ」
「昨日シルバが来てくれて、今日か明日だって言ってたんだけど…」
何か知ってる?と声には出さずに聞いてみる。
「確かに、今日か明日かな。カルスは今王宮を纏め切れてないし…それにシルバに敵うわけもないからさ」
「なんか、私の中でどんどんシルバが謎な人物と化しているんだけど」
「シルバのことを一気に知ろうとするのは大変だから、一緒に旅するんだろ?ゆっくり教えてもらうと良いよ」
「そのつもりだよ」
「今日か明日かわかんないけど、シオンもびっくりな情報が披露されるから、一緒に笑ってね」
「私もびっくりな情報?」
「まあ、すでに色々びっくりだらけだろうけど」
「うん」
これ以上びっくりすることがあるのか。そう思った時サリューを立たせたままだと気付きソファーまで誘導し、一緒に座る。
「そうだ、記憶の方は順調?」
「大体は思い出したと思う。」
「そこで、シオンに聞きたいんだけど、変な矛盾点はある?」
「…ないこともないよ」
アスカちゃんのことなんて専らよくわからない。何が矛盾かと聞かれたら、私は真っ先にそれを上げる。
「それ、俺が聞いてもいい?」
「…」
答えあぐねていると紅茶と先ほどのお茶受けとして持って来られたモノをワゴンに載せて運んでくる。
「ああ、シーラはちょっと下がっててもらっていい?後は俺がやるから」
「あっはい。えっと、以前シオン様の侍従でいらした方ですよね?」
「うん。積もる話もあるから」
はいはい、という様にシーラの背中を押して扉の外に追いやってしまう。
「今日俺がここに来られたのは王は全ての答えを出しあぐねて臣の手綱を握ってられなかったから。」
そう言って私の前に温かい紅茶とお菓子を置いてくれる。サリューの分は…と思って準備しているその手元を見るとしっかりと自分の分も作っている。
「ありがとう」
「ま、そんなわけで、警備が一般兵じゃなく魔導師の管轄になってくれて…俺みたいのは入りやすくなっちゃったわけ。腕力じゃ敵わないかもしれないけど…魔力の量だけなら負けないからね~。…能力は別として。ああこの紅茶美味しいね」
「えっと」
それって…。
「まあ、はっきり言えば、今のシオンの位置ってすごい微妙で…王がちょっと要求をのんでくれないために、ここに入り込んで裏から渡しちゃおうって人が何人かいて危険なんだよ~」
どっちにしろ同じだからそんなことしなくていいのにね~。そう言って持ってきたお茶菓子を食べる。




