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紫の旋律  作者: 蒼夜
第四章
63/75

62 浮かされて

「でも…アスカちゃんが現われた。『軍神の巫女姫』を冠するにふさわしい人が。だから私は…」

 

 再度、要らなくなった。

 

「あの時は戦があって、それで…。」

「良いんです。私は、本当のことが知りたい。この国の建国の歴史に…王は巫女の冠を間違えることなし、と書いてありました。でも…カルスは間違ってしまったのでしょう?」

「きっとね。だから二人目の巫女姫が現われた。『軍神』の名を冠することが相応しい人が、でもその巫女は王の部下との結婚を望み、私はそれを許した。」

「らしいですね。それで、記憶を消して追いやったもう一人の異世界の人間が必要になったのですか?」

「違う!!私は追いやろうなんて思ってない」

「じゃあ、どうして?」

 

 なら、どうして私の記憶を消したの?

 

「記憶を消したこと…すまないと思ってる」

「ソレは…わかった。どうして消したの?どうして消さなきゃいけなかったの!?」

 

 叫んだと同時に風が吹き荒れて髪の毛を激しく揺らす。

 

「サリューが言ってた。風に好かれてるって言うのは本当だったんだね」

「答えないなら良い。次…どうしてアスカちゃんと私を会わせなかったの?」

「会わせたくなかったから」

「アスカちゃんは、昔からあのままの性格なの?」

「えっああ、そうだよ。あの人懐っこい明るくって、あった時から」

 

 私が会ってたあの人はじゃあダレ?

 私と二人で会う時だけ見せる裏の顔って言うの?

 

「ありがとう。ごめんね、捲し立てる様に色々聞いて」

「いや、シオンだって思うこといっぱいあっただろうにそれを全部無視してたのは私だから。あんまり出歩かない様にって言いに来たんだけど…もう良いよ。王宮内なら好きなところに行って」

「えっと、それは」

 

 昨日今日と勝手に出歩いたお咎めがなしな上にこれからも勝手にこの王宮内を歩いていいという?

 

「縛り付けてるだけじゃだめだよね、と反省しました。シオンと一緒にいると安心するっていうか、落ち着くんだ。また来る」

 

 そういってカルスは一人去っていった。

 

 一人になってふと思い出した宰相と王の会話。

 巫女を差し出す。

 二人いる巫女姫。異世界の人の血の入った器が欲しいなら、アスカでもいい。

 別に継承権を全部持ってないと言ってもカルスは玉座についている。そのカルスが誰とでも良いから子を為してその子どもと子どもを掛け合わせれば――。

 

 あれ…これって。

 どこかの国に渡す前の一時の自由な時間ってこと?

 

「シオン様、終わりましたの?」

「あっうん」

「王様なんだか、ちょっと元気なかったですけどなにかしました?」

「した、と思う」

 

 あんなこと言ったことなかったし、聞いたことなかった。大声で叫んだことも。

 

「ま、倦怠期っていうやつですか?」

「倦怠期って、言葉が違うと思うけど」

「…なんか今日のシオン様違います?」

「そうかな~。もしかしたら疲れてるのかも知れない」

 

 そうだ、きっと疲れてるんだ。一気に色々な情報が入ってきて、それを整理出来てないから。

 

「シーラ…寝るね。夕飯には起こして」

 

 寝れば情報が整理されるって言うし。寝て、頭をすっきりさせないと。

 

 疲れて身体が重い気がする。あの記憶みたい。

 一歩を出すのに、その場所で良いのかわからない平衡感覚がくるっている様な…。

 

「シオン様?もしかして、体調が本当に悪いんではないですか?」

「…かも」

 

 自覚すると風邪って確か酷くならなかったっけ。

 

「夕飯には起きるから」

 

 テラスから部屋にはいって寝台に入る。シルバが来るって言うのに風邪なんてひいてる場合じゃないのに。


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