59 繋いだ手
「シオンちゃんとこうやってお城の中歩けるなんて夢みたい!」
「そうなの?」
先ほど繋いだ手は今もそのまま繋がれている。
「うん!本当はずっと早くこうして話したかったんだ。だって、シオンちゃんだけが、私がいた世界を知ってる人なんだもん。最初、ここに来た時私、頭がおかしくなったのかと思った。」
「それは、私も」
この世界に来た時は、わけがわからなかった。今まで自分がいた場所とは全く違う場所。カルスや、他の人達がいくら自分と同じような姿形だからといっても…召喚したなんてこと最初は受け入れられなかった。
「それでも…ヴィンスが教えてくれたの。この国にはもう一人私と同じようにして来た人がいるんだって。その人は今遠い地にいるけど近く帰ってこられるからその時に会ってみたらどうだって。でも、あの王都に行くまで私はシオンちゃんに会わせてもらえなかった」
「会ったことがなかったの?」
「そうだね。三年近く同じ場所にいながら…」
じゃあ、記憶の中にいるあのアスカ様は誰?
「今思えば、カルスなんかに頼まないでアーリアに頼めば良かった」
「アーリア?」
「私についてくれてる侍女の人なの。結構上層部のお偉いさんの娘なんだって!そんな人が付いてるなんて息苦しいとしか言い様がないけどね。だから、私はヴィンスと一緒にいるのよ!そうするとあら不思議、アーリアいなくなるの」
アスカちゃんの笑顔は本当に陽だまりの様に明るい。
きっと、側にいるだけで安心する様な人。全てを包み込んでくれる様な明るさを持っている人。
そんな素敵な人なのに、どうして私は…。
「私とアスカちゃんが会ったのは、王都が最初…」
「そうだね。ヴィンスが何度か見かけたことがあるって言ってたしその特徴と…後、黒髪!」
「黒髪?でも、そんなに珍しくないんじゃ」
「王都にいたなら多少は知ってるでしょ?この国の色とりどりな髪の毛の色」
確かに、シルバもカルスも染めてるわけじゃないだろうから…あの色が地毛。王都の人もきっと上空から見たら色とりどりで花畑の様な色になっている様な。
「その中の黒!結構目立つのよ!!」
「そうなんだ、でも私が王宮に連れてこられた時結構黒の髪の毛持ってる人いたけど…」
「じゃあ、黒い瞳と、黒い髪。両方持ってる人はいた?」
「…そこまでは」
「確かに、どっちかを持ってる人はいるんだって。でも両方となるとこの国では珍しいって、ヴィンスが」
「…そう」
「で…今の王宮の散策で何か思い出したりした?」
「あ…ごめん、なさい」
「な~に、謝ってるのこればっかりはしょうがないことでしょ」
「うん」
「シオンちゃんさえ良ければ、これからも仲良くしてくれると嬉しいな~。だって私にとってシオンちゃんは唯一人の人。シオンちゃんの家族がいる世界が他にちゃんとあるって証明に私はなれる。シオンちゃんは私の生まれた世界がここじゃないってことの証明。駄目かな?」
私の生まれた本当の世界がここじゃない。私のいた世界にいた人がいて、同じ時代を生きていた人がそれを証明して、いてくれる。
アスカちゃんも私と同じようにすぐにこの世界に馴染めたわけじゃなくて。
「もしかして、帰りたい?」
アスカちゃんも悩んでるんじゃ
私はその時、アスカちゃんの顔をまっすぐに見ることができなかった。
「ホントのこと言えば、ね。私が生きて、死ぬはずだった場所はここじゃないから。でも私は…もう帰らなくても居場所がある。あの人の側にいることが、いさせてもらえることが…幸せだから。今ある幸せを大事にしていきたいって思ってる。あ、でもこの前の演説聞いてくれたならもう知ってるか」
やっぱり、アスカちゃんとカルスは好きあってる。なら、なんで。
「ずるいってわかってても私の気持ちは、どうしても…彼にしか向かない。一番大変だった時一緒にいてくれたのは、ヴィンスだから」
「…え?」
カルスじゃ…。




