58 重ならない影
結局カルスに会うと行きこんで出たものの、会わずに帰ろうと思って表の通路に戻ってきてしまった。
どっかの先方さんが、巫女姫を欲しがってると。それを拒否しないで検討してるってことはこのルカディアよりも大きい国。
宰相的には私を先方に差し出すことで、終わりにしようとしていて。カルスはまだ答えが出せてない。
私、最初から宰相にはあんまり良く思われてなかったもんね。どこかに出されるにしても、とりあえず…記憶。
でも…そうしたら。どこかの国に売られちゃったらもうシルバと会えないのかな。この国にいるからシルバと会えるって思ってた。
王宮を出されるのも、そんな売られる様な方法じゃなくて王都に放り出されると思ってたから。ユフィやシルバに会いに行けると思ってたのに。
でも…私ってやっぱりどこに行っても要らないんだ。不要な物。
不要な物だけど、利用できる価値がある。だから、殺されることもない。利用できるその時まで、籠に閉じ込める。
トボトボと歩いていると前に見知った背格好の人が見える。
「アスカ…ちゃん」
口に出してその人の名前を呼ぶと振りかえって、一瞥だけして去って行ってしまう。
昨日、あんなに優しく声を掛けてくれたのは、まわりに人がいたから…。そういえば、汗を流したいって私とあんまり一緒に居たくなかったから?
この前の夜に部屋に来たのはやっぱり邪魔だって忠告しに来たの?
シルバもそういえば、どうしてあの衛兵に私が連れて行かれる時あんなに素直に応対したの?
…どうして――。
足が前に進もうとしないで、止まってしまう。横目で外を見るといつのまにか一階に下りてきたらしく花壇が見え、フラフラと近くにある椅子に近寄って座る。
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「どうして貴方なんかがこの部屋を使ってるの!?早く出ていって!!!早く!!!」
誰?
重たい頭に目を開けるように指示を出して、ノロノロと身体を起こせば、今よりも幼いアスカ、様。
「シオン様は今お身体の体調が優れません。回復されましたら、他の部屋に移らせていただきますので、本日は…」
誰かもわからない侍女がアスカ様に極力落ち着いてもらおうとしているのか、ゆっくりと語りかける。
「ふざけないでっ!どうなろうと…!この部屋は、早くこの部屋から出て行ってちょうだい!!」
「ですから…」
思考に霞がかかっているようで深くは考えられないけれど、アスカ様は私がこの部屋にいることが気に食わないんだ。
「アス…カ様。今すぐに出ていきますから、どうか」
お気を沈めください。そう言いたかったのに、息が切れる。
「シオン様っ!お身体に障ります。お休みください」
「いいえ、私は大丈夫です。」
ゆっくりと寝台から起き上がってアスカ様の横を通る。
廊下に出た時には壁に手をついてでないと歩けなかった。
「私の荷物も…直ぐにどかしますので」
「当たり前」
「…っでは、」
一歩、一歩と歩いてしっかりと壁に手もついていたはずなのに私は足をもつらせてそのまま倒れた。
「しっおんちゃん!!!」
グイッっと首に思い何かが垂れ下がり急に現実に戻される。
「あ…」
今まさに見ていた人。
今のは、記憶?どこのかは、わからないけど。今までの記憶があまりにも理路整然と思い出していたせいか、違和感がある。
でも、今のは私が思い出していたのよりも後のモノ。
「こんなところにいるなんてびっくりして飛びついちゃった!!」
「アスカ…様」
「あっ!!様って呼ばないでってば~」
首に回っていた腕が外され、アスカ様はそのまま私の隣にちょこんと座る。
「昨日は会いに来てくれてありがとう。今日はどうしたの?」
「あ…ちょっと、王宮の中を散歩しようかと思って」
「そっか!シオンちゃんって今記憶喪失気味なんだっけ…」
「うん。だからこの王宮を歩いたら少しは思い出すかと思って」
「そっか~。じゃ、一緒に王宮散策する?」
「でも…」
「いいから!ヴィンス先に行ってて~」
アスカ様がクルッと首だけ後ろに回すとヴィンスさんが「わかった」と一言だけいって歩いていく。
「一緒だったんですね」
「うん。王宮ではだいたい一緒かな。じゃ、いこっか!!」
「う、うん」
先に立っていたアスカ様から右手が差し出されていてそれを私は握り返した。




