57 二人の会話
「じゃ、行ってきます。シーラ!そんな心配な顔しないで、大丈夫だって、カルスのところに行くだけだよ?」
「…そうですわよね。昨日の様に王宮の外に出るわけでもないのですものね。」
「今日こそは、私のこと待ってちゃ駄目だよ?」
「ええ。ちゃんと仕事をしています」
私のいる宮から王宮の中枢に行くところの扉。以前魔術師のトルテとあった場所、そこでシーラと別れる。
実は誰にも言っていない、以前カルスから教わった王の執務室に繋がる隠し通路がある。離宮に行く前に教えてもらったもので、塞がれてしまっているかもしれないけど、今の私が普通に謁見しに行っても通してもらえるわけがない。
ヴィンスさんがいたら話は別かもしれないけど、私はそんなに強運の持ち主じゃない。
非正規ルートで行って怒られることはわかっていても、早く会って話がしたい。
既に昼に近い時間帯、誰の供も付けずに歩いているだけで不審がる人が多い様で、今まで以上に不快な視線が気にかかる。
ただ、私の見知った人に誰とも会わないのが不思議だ。あんなに王宮内を歩いて色々な人と仲良くなったというのに。
階段を上って二階に出る。一番端っこの壁まで行き、誰もいないことを確認して回転扉の中に入る。
私が教えてもらったのはこの通路だけど、本当はもっと沢山あると思う。
王の執務室は四階だ。普段私たちが通っているところは表でこの場所は裏。この場所を通る人も存在を知っている人も王宮の内部でも一握りの人間だけ。
階段を上っているとカルスの声が上からかすかに聞こえてきた。王の執務室に入るには階段の七段目から。そこの横が隠し扉になって執務室に繋がっている。
「先方の要求は、巫女を差し出すことです」
この声って宰相?
「巫女を、ね。では、アスカを差し出そう」
「王」
「巫女を要求しているんだろ。ならアスカだ。軍神の巫女姫としてこの国にいるのはアスカ。シオンは違う…ただの一般人だ」
…カルス?やっぱり私は巫女姫なんて大層な存在じゃない。わかってても、なんか辛いな。
「王、このままシオン様をこの王宮に逗留させてどうするのですか。ならば、軍神の巫女姫として国民に認知されているアスカ様を出すより、シオン様を出す方がよろしいでしょう。それに、今の王の言葉が本当なのでしたら、早々にシオン様を王宮から出してください」
「それは…」
「貴方が願って最初にこの世界に降りて来たのはシオン様。それだけでも巫女姫として通用します。それにルーク様の話では…もう変えられないことだと。どうしてそんなに彼女にこだわるのですか。こういっては何ですが、お荷物以外の何物でもないのですよ」
「違う」
「アスカ様が来て下さったからあの戦も勝てた様なものです。その間シオン様は何をやっていました?あの侍従と音楽に興じていたのでしょう?ま、アスカ様はヴィンセントといらっしゃる方が楽しそうで…今の状況からすると、シオン様の方が楽なのもわかりますけど…今のこの国の正式な巫女姫は軍神の巫女姫であるアスカ・サワシロであることをお忘れなきようお願いします。その人が今いなくなることはこの国にとって得策ではありません。もしかしたらこのための二人の巫女姫だったのかもしれませんよ。」
これは…私の存在が何か物議をかもしだしているのではないですか?というか、なに…内容がさっぱり分からない。とりあえず、タイミングは最悪…。
状況が把握できない今、逃げるのが得策かもしれない。




