56 変化
満月の綺麗な月が空に浮かぶ。
最近の日課の様になっていたカルスが部屋に来ない。昨日の夜も来なかったがそれは、オルフェお嬢さんがいるからかと思っていた。
「シーラ、カルスは忙しいのかな」
「そうですね…いつもでしたらそろそろ来られてもいい気がしますが」
カルスは普段からこの部屋に来るときは、唐突だった。普通先に伺ってもいいかと聞いてきてもいいだろうと思いもするのだが。
「カルスのとこ私から尋ねてもいいかな」
カルスを待ってる間この国の創設の歴史は読み終えてしまった。その他にもシーラが借りてきた本は数十冊あるが、それを読み進めると終わるまで寝る気になれないとおもうので、今日読む本はこれで終わり。
「シオン様、このような時間に会いに行くなどいけませんわ」
「やっぱりそうだよね」
カルスが私に会いに来るのとはやっぱり勝手が違う。
「わかった。今日はもう休むね、シーラ一日お疲れ様」
私に宛がわれている部屋は随分と広い。まるで一つのマンションになっているんじゃないかと思うってしまう。
どこにも行かずこの部屋にいることも可能だ。なんたってバス・トイレ付きの部屋ですから。もちろん寝室も扉一枚隔たれた部屋にある。
寝室に入って扉を閉めたところで今まで自分がいた部屋の物音に聞き耳を立てる。静かに扉の閉まる音を聞いて寝台の上に向かう。
「やっぱり明日の朝聞くしかないのかな」
今日の朝はカルスが訪ねてきたといってもただ用事があったから。今までだったら何でもないことで訪ねてきては居座っていたのに。
「来なかったら…訪ねに行くしかないかな」
アスカがもし来た時のために鍵開けて窓を少し開けておく。ふわふわで肌触りの良い布団に包まれて眠りに落ちた。
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「シオン様」
声を掛けられ、まだ閉じていたい目蓋をのろのろと開く。
「シオン様、良く眠られていましたね。もういつもの時間は過ぎていますよ」
「私…寝坊した?」
「熟睡されていたようですから。昨日の読書が疲れたのではないですか?」
確かに、シルバから字を習ったとはいえ、あんなに大量に慣れない文字を追ったのは疲れたかもしれない。
「ん…カルスは来た?」
少し、頭痛がする頭に手を当てて昨日の寝る直前まで考えていたことをシーラに聞く。
「今朝も…」
最後まで言葉が出てこないようでシーラの言葉が濁る。
「来なかったのね」
「はい」
「わかった。着替えたら出るから…軽くご飯をお願いしていい?」
「はい」
それだけ言うとシーラはすごすごと下がっていく。
会いたくない時はあんなに毎日押し掛けてきたのに、私が会いたい時は全く側にすら来てくれないっていうのも困るわね。
「自分から行動しなきゃ…何も変われないんだから」
用意されている衣装の中で侍女服と似たり寄ったりの洋服があるのでそれを奥から引っ張りだす。
「行動!今日は自分から会いに行く!!」
会いに行って聞かなきゃ。出来るなら、ルークにもう一回あの術を施してもらって記憶完全に戻してもらおう。出来ないなら…自分で思い出す。
当面の目的はそれで――。
軽く両頬を叩く。
「よっし!シーラお待たせ!!」
「おはようございます。シオン様」




