52 自分で
私は全部深く考えることをしていなかった。
今の私の記憶は、順番がごっちゃになってしまっている。自分の記憶何だろうけど、それを夢の様な形でみた今の私には、まるでシルバ達と会ったことが最初に思えてしまっている。
陽が落ちる寸前までリチャードの家に入り浸っていた。そのため王宮に帰った時には既に日は沈んでいて、王宮に戻る途中の階段で街を見下ろせば、魔法で作られている街灯は不規則に色が変わりとても魅惑的な世界を作りだしていた。
私がリチャードの家にいる時、誰も王宮の人は訪ねてこなかった。それでも、私はここに帰って来た。真実が何なのかを見るために。
王宮に入るためにコンコンと軽くノックをすると、上の方の覗き穴がかすかに開き、私だということを認識すると人一人分が入れるだけのスペースが開かれる。
「ありがとうございます」
扉を開けてくれた礼をすると、衛兵の人はペコリと頭を下げる。
「今回はちゃんと許可を貰っているようで安心しましたよ。いつも、穴から抜けて出てらしたでしょう。顔は拝見したことはありませんでしたが」
「えっ!」
「数年前よくここを使っていらっしゃったでしょう?足音が同じなので直ぐにわかりましたよ。ここは、よく響く様に出来てますから、内緒で出ていくなら階段…気を付けてくださいね」
「そうなんですか」
「最近はいらっしゃらないようで、どうしたのかと思っていましたが…元気なようでなによりです」
「ありがとうございます。いつも見逃しててくれたんですか?」
「息抜きも必要ですから。でも、お気をつけてくださいね」
「はい」
そういって衛兵は笑うと、侍女の方が先ほどまでこちらで心配なされてましたよ、っと言うとそれ以降まるで私が目の前にいない様な振舞いで、扉の警護を再開した。
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「シオン様!こんなに遅くなるなんてっ!おやつの時間には帰ってきてくださると思ってましたのに」
昨晩はオルフェお嬢さんが一緒にいたため半径何メートルか近づいてこなかったシーラだがいないとわかっているからか、部屋に戻ると駆け寄って来た。
朝は隣を歩いていたけど、きっとやせ我慢していたに違いない。
これでも、時間的には早いと思っていた。男二人が肉料理にどうがっついていくのかを見たかったのを諦めて帰って来たのだから。まだ夕食の時間にはなっていないはず。
それとも、『初めての一人』での外出にしたら時間が長すぎただろうか。
「ごめんなさい、シーラ」
「シオン様?」
「どうしたの?」
何か目を瞠るようにシーラは一点に視線を集中させたまま動かそうとしない。
「そちらの首飾り…なんだか変わっていません?」
「そう?」
ユフィに貰った服なんかは全てどこかに行ってしまったのに、このペンダントだけは残っていた。
シーラに言われてペンダントを手に取ると確かに、シルバに貰った時よりも翠色が変わってきている様な…。
もしかして、手入れしてないからくすんだとか!
「シ、シーラ!こういうの拭いていい布持ってきて!!」
すっごく素敵な贈り物だから大切にしてたのに。色々ありすぎてそういえば、綺麗にするのを忘れていた。
でも、サリューが触った時は何ともないと思ったんだけどな。
中央から外に広がるようにして細く線が広がっていくようにクルクルと円を描いているように見える。
「お待ちください!今すぐお持ちします」
王宮であてがわれた自室としての部屋の窓に近寄っても、まわりは鬱蒼とした木々で囲まれていて何も見ることはできない。
今の私と一緒。
赤銅色が揺れるのが見えて、階下に目を向ければ離宮にはいい布がなかったのか、王宮の中央部に行ける渡り道にシーラの姿が見える。
「よし…今からがスタート」
まるで私の声に呼応するかのように周りの木々が揺れ動く。決して激しすぎず、緩やかに。
最終目標は全部思いだして、そんでもってシルバ達の話も聞いて、全部納得いくまでつき進めること。それで、あんまりシルバが優柔不断だったら一人で旅にでちゃおうか。でも…やっぱり一緒がいいかも。
幸い、ルークのおかげでカルスの私に対する監視の目も緩くなったみたいだし。
シルバから貰ったペンダントを握る。
人肌で暖まった熱か。次第にペンダントは心地よい温度にまで温まる。
「シルバ、私直ぐ思いだすから…ちゃんと側にいてね」




