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紫の旋律  作者: 蒼夜
第三章
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49 継承条件


 記憶を失くしていてもそのすべてを忘れたわけじゃない彼女だから、似たり寄ったりの反応が帰ってくることはわかっていたけど、ここまで同じ反応が帰ってくるというのは、逆になんだか清々しい。

 あの時の反応が彼女の心からの物だってことは、能力を使ってしまってわかっていたことだけど、使っていない今は使った時よりも充足感に満たされる。

 

「継承条件の一つはなんか、一応金髪が良いんだって。これは初代がそうだったから慣例になってるってのがあるね。だから他の色を持ってたりすると臣下から甘く見られる。」

 

 目の前に座るシオンは何か合点が言ったという様に首肯する。

 

「後は、王族たるもの強大な能力を扱えること。諸外国と渡り合うために。」

「能力って魔法のことよね…。」

「そう。でもってオルフェお嬢さんみたいな精霊を使えるととびっきり優秀な能力者っていうことの証だね。精霊を持ってると試験もすっ飛ばして、王宮の魔導師になれる。…ま、例外が無きにしも非ず」

 

 その例外の一つがルーク。彼は存在自体が例外。だからこそ、長官に任命された時誰も反対の声を上げなかった。奇跡の満場一致決定の魔導師長官。あの席の任命ほど権謀術数が張り巡らされる席も珍しい。特殊な場所だからこそ誰もが自分に近しいものをあてがいたい地位。

 

「と言っても、王族にはいくら能力が強力だろうと…俺が持ってるこの力がないと継承条件を満たすことはできない。この力を持つ者は、他の能力を持つことができない。そして王がこの能力を持っているということは極秘。強大な能力っていうのは建前で、裏の意味は、読心の能力があるかないかってこと。

 先々代の王の嫡子は金髪の要素は持っていたけど、能力は持っていなかった。先王の時代に生まれた先々代の息子はその能力を受け継いでしまった。それでも俺を殺さなかった先代は甘いよ。

 別にこの能力、親から子にしか遺伝しないわけじゃない。飛び石で出たことだってあると歴史書には書かれてる。」

「だから、先王は…」

「本当は生まれて欲しくなかっただろうね。」

 

 せっかく父親を亡きものにして自分に王位が転がり込んできたのに、ほぼ一年後には俺が生まれてきている。存在が表に出れば、年齢的に王位を継承できるようになればすぐに王位は譲位させられる。

 ただ、愚王だった。数年で失脚してしまうほどに。

 

「せめて女だったら王宮で育ててもらえたらしいけど、俺はあの離宮で育ててもらえて良かったと思ってる。シオンのことが心配で王宮に来たわけだけど、ここはどす黒いね」

 

 離宮にいた時から時折流れてきた感情の波。

 シオンという存在を認識してしまったから、あまりにも強い感情だと遮断していても流れてきて感じ取ってしまう。シオンの周りに絡みついた感情も一緒に。

 

 それまで極力母さんは俺を王宮の使いだろうと会わせないのは秘密の子どもだからだと思っていたけど、もし会っていたら今感じてる比じゃない感情に押しつぶされてた。力の使い方が未熟なうちは、たくさんの自分のモノでない感情の奔流について行けないから。

 

 だから離宮には最低限の人数しか配置されていなかった。

 能力の扱い方をちゃんと習っておいてよかったと思ったのはこの王宮に来てから。

 

 遮断していないと、通り過ぎただけで押し寄せる感情。一人や二人ならまだしも王宮の様に人が何百人と詰めているところでは難しかった。慣れれば、なんとかなるものだ。

 

「それでも…シオンはこれに守られてるよ」

 

 首から下げられているペンダント。そこに宿る魂は二つ。間に合うか、間に合ってもギリギリかな。

 

「これに?」

「シルバから貰ったんでしょ?」

「うん、そう言えば。ルークもサリューも知り合いなの?」

 

 本名をばらしたのに、それがどうのって質問が帰ってこない。まるまる信じたってことなのか。俺がもし嘘をついてたらどうする気なんだろう、シオンは。

 

「昔からの知り合いかな……」

 

 このままこんな話をしててもしょうがないか、ここはシルバの話しでもして場を和ませるか。

 

 愚王と罵られた先王でも一応異母兄には変わりはない。一度だけ対面したことがあるが、ソレはカルスよりもはっきりとした嫌悪だった。

 いつかルカディアを俺に乗っ取られる、口癖だったと宰相から告げられても何とも思わなかった。

 カルスは表面上は優しい兄という立場だったけど、心の中の黒い部分は隠せず、さらけだされたまま。

 

 周囲からどれだけ嫌悪される存在だったとしても。それでも俺は父と母からは惜しみない愛情を持って育ててもらった。

 せめて、俺とカルスが本当に兄弟だとしたらよかったのに。

 優秀と謳われた先々代の隠し子、その子供は先々代の能力を受け継いでいて金髪。

 先王の嫡子とはいえ、この国の基準を何一つ満たしていない現王。

 叔父と甥。兄と弟。

 

 本当の弟だったらよかった

 そうしたら、少しは喜べたのに。 


 カルスの心を読んだときに聞こえた声。

 だから俺は、頼んだ。

 巫女を召喚してくれるように。

 そうすれば認められる。だって、巫女を召喚することができるのは、認められたルカディアの王だけ。

 だから、カルスの元に巫女を


 シオンをこの国に召喚させた原因は俺。


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