48 なまえ
「俺の正式名称はサリエ・ファルコナー=ルシエス・ローランド・ルカディア。サリューって言うのは母さんがつけた愛称。どうして俺の名前が問題なのかって言うと、『ルシエス』ってところが問題なんだ。この部分がもし『フィリスト』だったらカルスがこんなに悩むこともなかったんだろうね。いくら…俺が持っていたって、きっと。」
サリューはやり切れないというようにひとつため息をついた。
「俺が王宮にいたのをあんなにカルスが嫌がった理由はね…俺がカルスよりも王位継承権的にいえば本当は上位にいるから。もし俺が王子だって公表すればカルスはすぐにでも退位させられる。年齢の条件ももう適用されないし。カルスはこの国の継承条件をなに一つ満たしていないからね。
それで、問題点の一つ。俺の父の名前はライアン・ルシエス=ユフィスアナ・ローランド・ルカディア…先々代の王。王族の子供は誰の子かはっきりさせるために親の名前を貰うんだ。俺はカルスの叔父にあたる存在、年下だけどね。」
「二人は兄弟じゃないの?」
「うん。ごめん、ウソついて。先王の場合は一応体裁は保てるぐらいだったんだ。それに先々代の王に男子の子どもは先王一人だったからね。他は皆愛らしい女の子。全員降嫁して子どももいるらしいけど…最後の継承条件に当てはまらないから、だからカルスは王の座についてられる。
先王、カリオス・フィリスト=ルシエス・ルカディアは、他に王位継承権を持つ男子が生まれない内に自分の父親でもある俺の父を亡きものにする計画を立て、実行。成功して王位に着いたんだ。だけど、数年のうちに戦死、王位は息子のカルスに譲位された。」
「なんで、そこでカルスに譲位されたの?先々代の息子のサリューがいるじゃない」
「…俺の年齢は十六歳。先代が王位を継承したのは十七年前。俺は父が王じゃなくなってから生まれた。先王は母に俺が生きている代わりに…ルカディアの内政・外政ともに一切の関わりを持たないことを条件にしたから。母と先王は年齢的には近いけどそういう関係じゃなかったから、必然的に俺は先々代の子。先王にはもうカルスという嫡子がいた。
継承条件を満たしていないとはいえ、他に男子が出てこなければ、その子どもが玉座に座るのは…約束された未来。
いくら先王との約定とはいえ、俺は継承条件を満たしてしまってるから。俺が表舞台に立てばカルスの退位はあり得ない話ではない。だからこそ俺の存在を危惧しているし…嫌悪してるんだ。俺にはそんなつもり全くないのに、ね。カルスが頑張ってるならそれでいいと思ってる。と、これが表にはない裏の話であったりするわけですよ。」
「なんだか…すごい話しですね」
直後サリューが目を見開いて大口を開けて笑いだす。直前まで真剣な話をしていたと思えないほどに。
「はははっ!!記憶がなくても本当に変わらないね、同じだよ…おんなじ、反応同じすぎだよ。はらいたいな~!」
「そ、そうなの!?」
「うん、前に話した時も深刻な顔してそう言ってた!」
「…成長してない」
「いや、良いんだけどさ」
「そう?」
「じゃ、次に継承条件でも聞いておく?」
「はい!」
そういってサリューは口を開く。




