47 一歩
「そうだ。聞くの忘れてたけど、あれから記憶は戻ったりしてないんだよね?」
「うん。まったくといっていいほど何も」
男の人はよく食べる。
リチャードとサリューはすごい速さで食べ物を無くしていく。
「そっか…」
「シオンも早く食わないとこいつに全部食われるぞ」
会話をしてる間にサリューは食べたい物をお皿に盛りつけ、黙ったときひたすらものを口に詰め込んでいる。
「そりゃ、リチャードが食い過ぎるからだ!俺は、それに対抗しようと急いで食ってるんだよ」
「対抗しなくていい!」
「しょうがないだろ昨日から何も食ってないんだ、腹減ってんだよ」
「って…その肉は俺のだ!!とるな!」
「一回とったものを戻すのはマナーが悪いだろう。だから俺の」
サリューは勝ち誇ったかのようにリチャードを見る。
こんなに楽しそうに食べてるの久しぶりに見た。
そういえば王の元に戻る前、ユフィの家に泊まりに行った時もシルバとユフィはこんな会話をしながら食べていた。
今ほど、勢いはなかったけど。
「ごちそうさま」
「あれ、終わり?」
「うん。まだ入るけど、少しはリチャードにも残しておかないとね」
さわやか過ぎて逆に腹黒そうな笑みをサリューは浮かべる。
「本当だ…お前がこんなに食うのがわかってたらもっと量作ったのによ」
「じゃ、お昼ごはんはいっぱいつくって」
「おまえは…」
「夕飯はこってりな肉が食べたい気分だな~」
「…一日中居座る気か?」
「うん」
うんざりしたというようなリチャードにこれまたさわやかにサリューは笑みを返す。
「俺は食ったら寝る」
それだけ言うとやけ食いのようにガツガツと口にモノを運んで行く。
「さ、今日の予定を早くやって…後はのんびり過ごそうね。シオン」
「…うん」
私の記憶をとりもどすのに重要な人。サリューはこの国に来て失いたくないと思った大切な人。
「王宮に俺が来たことは覚えてるんだよね」
「うん、それで…王が帰国してからサリューがいることに驚いて連れて行ってしまうところまで」
最後の方はおぼろげな記憶になってしまっているがそれでもなんとかそこまでは覚えてる。
「俺がこの国の王子だってことは覚えてるよね」
「うん」
王宮の中でもその存在を知っているものは少ない王子。
「俺の母親リアリリスは、大国ラッシードという国の姫様だったんだ。まあ、大国っていってもここ数十年で台頭してきた国なんだけどね。
一時期は、それこそ国の存続が危ぶまれたこともあって…母はここに人質として連れてこられた。以前話したんだけどそこは覚えてる?」
「おぼえて、ない」
「ま、人質っていってもまだ十歳にも満たない姫様だったから後宮でやりたい放題やってたらしいけど…。性格はあのまま変わらず来ちゃったらしいんだ。父にはあの辺の性格をどうにかして欲しかったよ。でもそんなところに惚れちゃったっていうからね。うん……っと話がずれた」
「リアリリス様のお話を聞くのは楽しいから」
「なんだってこんな話をするかというと…一応ちゃんと説明しておきたいというか…。」
「サリュー、とりあえず順をおって説明していけばいいだろ」
今まで何も言わなかったリチャードが言う。
「わかってるって…どうして、記憶あそこまで何だよ。ルークの馬鹿やろー。」
いいながら机に突っ伏していくサリュー。
「とりあえず…お話しますよ。シオン」
「はっはい」
今までのどこか砕けた調子とは違うサリューの態度につい居住まいを正す。
「じゃあ、まず俺の名前から…」
「そこまで戻るのかよ!」
「だって…後々には全部話すし」
「そうだな。ここから俺は何も口出ししないからな」
「終わったらうまい飯期待してる」




