44 ささやかな終わり
「大体の事情は分かったよ」
いつかの記憶と同じように長官の使い魔の子が用意してくれた紅茶を飲みつつ、トルテと会った前、部屋をでるところからの経緯から順を追って説明すると、なんとかルークに納得してもらうことが出来た。
サリューときていたころとあまり変わらない執務室の中。
「執務室ってちゃんとしたところから入ると…雰囲気違うんだ。」
サリューとこの部屋に遊びに来ていた時は誰にも見つからない様に窓からお邪魔していたので正式な手順を踏んで入るというのは初めてなのだ。
「そうですね。シオンが以前通っていたルートは特別なものですから」
「うん、でオルフェお嬢さんのご飯のことなんだけど…精霊さんでもリチャードのところだといつもご飯食べてたけど、なにあげればいいのかな?その辺ルークの方が詳しいんじゃない?」
使い魔や精霊。そういった類の者は魔術師の専売特許、いつだか誰かがそういっていた。
「基本食べなくても大丈夫だし…食べたければ何でもあげて大丈夫だよ。その子たちの身体はこの世界のモノで壊れたりはしないから」
「そ、なの?」
「僕の使い魔のルイも、そのオルフェお嬢さんも元は違う世界の生き物。それをお願いしてこっちに来てもらってるんだ。元々、使役出来るような類の存在ではないけど…そこは本人たちの意志が合致すればいいだけ」
「ふ~ん」
「で、そのオルフェお嬢さんは貸してもらったと」
「だから明日も城から出られるんだ!」
「だからさ~二人ってどんな関係?」
ルークの隣に座ったトルテには全く話しが見えてこないらしい。
「どんな関係でもないから、あなたは…部署に戻って馬車馬の如く働いてればいいんですよ。ルイ、追い出して」
「ん。」
扉近くでこちらを見守っていたルークの使い魔は子どもの姿なのに軽々とトルテを引っ張って外に出ていく。
引っ張られながらもブツブツと文句は言っているが拾えるほど声は大きくない。
「ルーク」
「なんですか、シオン様」
「時間はないだろうから今一番聞きた事聞くけど…王は何がしたいの」
「王、ですか。」
「私の記憶は、たぶんほとんど戻ってるんだと思う。だけど、一番肝心な場所が戻ってない。離宮にいってからと、帰ってきてから。その対応の差に嘆いて王宮を飛び出したなら、もっと早くに飛び出してたと思う。それに、私はルークがどうわたしを裏切ったのか覚えてない。その部分がないからかは、わからないけど…ずっと胸の中がモヤモヤしてる。」
「シオン様」
「ルークにも、サリューにも…今まで誰にも会わせてもらえなかった。今こうやって会えてるのもオルフェお嬢さんのおかげなの。一人だったらずっとあの部屋から出られなかった。」
「僕は、王を裏切れなかった。冷酷になりきれず、協力してしまった。それがすべての間違いだったのかもしれません。僕さえ、王に従っていなければ…貴方はきっと王宮に留まっていた。ただ…今はもう少しお待ちください」
「待ってたらどうなるの?」
「王には僕の方から自由に歩けるように進言しましょう。歩いて…見てください。シオンという存在がこの王宮で過ごした日々を。重要なピースを見つけてください。それさえ戻れば…全部戻るんです」
「ぜんぶ?」
「あまり、お勧めはできませんけど…貴方がシルバと歩むことを望むのなら。カルスと歩むことを望むのならば…今のままの状況を享受することをお勧めします。」
「シルバを知ってるの?」
久しぶりに他人の口からその名前を聞いた。
「シルバとは旧知の仲でして…」
「そうなの!?」
「いつか、事が終わったら小さい頃の話でも聞かせて差し上げますよ」
「約束だよ!」
「それと、サリューに会ってください」
彼も重要な人ですから。小さく呟かれた言葉。
「リチャードって、前に話してくれていた人ですよね。明日そこにいってシオンを待つように言っておきますから」
「う、うん」
「今日は、もう帰ってください。これ以上騒ぎが大きくなると…外出できなくなってしまいますよ」
「ソレは、まずいね」
「オルフェお嬢さんはシオン様が食べているモノを一緒に食べさせてあげてください」
「うん」
ちょうど話が終わったとき外から物音が響いてくる。
「シオン!どうしてこんなところにいるんだ」
そういって入ってきたのは数時間前まで一緒にいたカルスだった。驚いてルークの方を見ると報告させてもらいました、そう一言聞こえる。
「オルフェお嬢さんのご飯を貰いに行こうと思ったら道に迷って…魔術師の人に此処まで連れてきてもらったの」
「そう、先に外に出ていて」
カルスが連れてきた私兵の人に促される様に私はルークのいる場所を後にした。




