表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫の旋律  作者: 蒼夜
第三章
42/75

41 お嬢さんと私の外出

 帰ってきてからずっとオルフェお嬢さんと一緒に戯れている。シーラは側にはいるけれど、壁の近くに立ったまま近くに来ようとはしない。

 

 あれだけ憂鬱といってもいいほどの感情を抱くにいたった外出も最後にオルフェお嬢さんやリチャードに会ったおかげか、幾分か良かったことと捕らえることができる。

 これが終わりよければ…ということなのだろうか。

 リチャードも記憶の中とは少し変わっていた。カルスは大人びたという印象だったけど、リチャードの場合は老けた…という言葉が正しいのかもしれないけどそれでも、ファクリスという存在所以か、どこからか溢れ出る輝きは増すばかりの様に思えた。

 

 精霊という存在のオルフェお嬢さんは外見的には何も変わっていない。ずっと纏わりついていてくれるところも変わっていない。

 ここが王宮ではなかったら…もっと楽しいのに。

 

 カルスはと言えば、急な用事が入ったとかで宰相に連行されていったのでいない。

 

「そういえば、オルフェお嬢さんのご飯は何なんですか?」

「キュー」

 

 そう問いかければ、返事の様な鳴き声が一つ帰ってくるだけ。

 リチャードはよくオルフェお嬢さんの鳴き声と会話をしていたけれど、私はまだまだそんな域には達していない。

 

「厨房に行ってみます?」

 

 オルフェお嬢さんの耳がピンと立つと嬉しそうなキューという鳴き声が帰ってくる。

 

「じゃあ!行きましょう!!」

 

 顔の目の前と言ってもいいほど近くにいたオルフェお嬢さんを抱きかかえてシーラの側まで歩いていく。

 ただ、なかなかその距離が縮まらない。なぜかそろそろ、とシーラが後退していく。もともと壁際にいたシーラは最終的に行き場所を失って立ち止まったが。

 

「どうしたの?」

「いえ、あの私…生き物が苦手でして」

「そう…」

 

 金色のクリッとしたアーモンドの瞳に全身灰色の可愛い毛の身体をしていて、触るとふわふわなのに。

 

「苦手なんだ」

 

 確認するように反復するとコクコクと頷くシーラ。

 

「じゃあ、私オルフェお嬢さんと一緒に厨房に行ってくるから。シーラはここで待ってて?」

「そんなっ!お一人で出歩かれることは…」

「でも、シーラは無理でしょう?それに今日はオルフェお嬢さんもいて一人じゃないから」

「それでも…ひぃ!」

「ご…ごめんなさい」

 

 腕に抱えていたオルフェお嬢さんを抱えつつシーラに寄せてみると悲鳴をあげられる。

 

「待っていてください。い…今他の者をお連れしてきますので!」

 

 珍しく取り乱したシーラは勢いよく部屋から出ていく。

 ほぼ四六時中べったりを側にいた監視の様なシーラの目がない。そして王は極力誰にも会わせたくないという配慮からシオンについていた侍女はシーラ一人。

 

「オルフェお嬢さん、これはチャンス到来かもしれません」

 

 一人で王宮を歩くことは少し怖い。

 言い付け。を破ろうとしてる自分がいることにも驚きだけれど。

 いつもオルフェお嬢さんが近くにいてくれるとちょっとだけ自分の意志で何かをやろうとする気持ちがムクムクとちょっとずつ顔を出してくる。

 いずれ去る王宮と言ってもまだ去ることはできない。ちょっと、一人で歩くだけ。

 

 オルフェお嬢さんをギュッと抱え直して部屋の外に続く扉を開く。

 

「オルフェお嬢さん。今回の外出も目的は厨房を探すんですよ」

「キュッキュー!」

 

 とりあえず、今日カルスと一緒に向かっていない方向に歩く。外に出る時は厨房的な感じを漂わせる場所は一か所もなかったからだ。

 途中階段があったので一階に降りる。きっと厨房なら二階などではなく一階にあるだろうという考えで。

 

 無駄に広く、閑散としている。

 王宮のどこか、ということはわかっていてもそれだけしかわからない。

 王の私室がある居住スペースならわからなくもないが、一人で出歩いたこともない、賓客用の部屋が多数集まる場所には、一回も来たことがなかった。

 

 こんなこと考えてもいなかったため部屋の外に出る時はシーラの背中ばかりみて歩いていたのが仇になった。

 

 適当に扉を開けていくと侍女たちの制服だろう物が大量に干されている部屋につく。

 

「こんなとこで、干してたんだ」

 

 そんな時自分の名前が呼ばれる声がする。

 焦って部屋の中に入って扉を閉めると声はどんどん遠くなっていく。

 

「はやいね。ばれちゃった」

「キュッ」

 

 腕の中からオルフェお嬢さんがひょいっと抜け出ると干してある侍女の制服に飛びかかる。

 

「キュッキュ!」

「どうしたの?落としたら汚れちゃうからいじったら駄目だよ」

「キュキュー」

 

 いつもなら人語を解しているのではと言ってもいいほどの行動をするオルフェお嬢さんがなかなか言うことを聞かない。

 

「キュー」

 

 ブチッという音とともに侍女の制服が落ちてくる。

「キュー」

 

 服をシオンに押し付けるような行動にやっと合点がいく。

 

「これ、着るの?」

「キュッ」

 

 嬉しそうな一鳴き。

 

「確かに、歩くならこれの方が目立たないよね」

「キュッキュ」

「よし!着替えちゃおう」

 

 せっかく制服を洗濯していた侍女さんと、オルフェお嬢さんの飛びかかりで破けてしまった制服の人には、後で正直に言おう。

 謝りたい。そう言えばきっと会わせてくれるはずだ。

 

 手近にあった侍女服と黒髪を隠すためにキャップの様な頭を覆ってくれるものを被る。きていた町娘の洋服はばれない様に片隅に追いやっておく。

 

「オルフェお嬢さん!いざ、ご飯を求めて出発ですよ!!」

「キュー」

 

 ちょっとだけ扉を開けて誰もいないことを確認する。

 第一関門はこの建物から外に出ること。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ