40 許可
「シオン、その方は?」
後ろからの声に忘れかけていた存在を思い出す。
「あ、カルスごめんなさい。この方は…」
ファクリスの方だって言っていいんだろうか。以前あまりその身分は明かしたくないのだと言っていたし。それに精霊のオルフェお嬢さんのことも…。
どう説明したらいいのかわからずリチャードの方を向くと、任せろとでもいうように一歩前に出てカルスに説明を始める。
どうして出会ったのか、ウソにはならない程度に事実をサラサラとまるで台本でもあるかのように伝えるリチャードに素直にすごいと感心する。
「シオン、連れが居るんだったらちゃんと一緒にいなきゃだめだろ?」
「うん、でもオルフェお嬢さんが居ると思ったらいてもたってもいられなかったんだもん」
「それはわかるが彼、心配してきてくれてるじゃないか、こんなおじさんとシオンじゃそりゃ心配になるってもんよ」
「ごめんね、カルス」
久々のオルフェお嬢さんのモコモコを堪能しつつ、謝るとカルスは先ほどを同じように笑って許してくれる。
「リチャード、まだ王都にいたんだね!また遊びに行ってもいい!?」
「ん?俺は良いけど…カルス君が心配するんじゃないか?」
親指を立ててグイッとカルスの顔を指してコレコレとでも言うように言ってくる。
私的にはここでカルス公認の外出理由が欲しいんだけど…。
「あの、カルスだめ?」
「あ、シオンが行きたいなら…」
「ホント!?じゃ、リチャード明日にでも行くね!!いいよね、カルス?」
「う、うん」
なにか呆気にとられてるカルスに追い立てるように外出の許可を願うと、ずいぶんすんなりと許可が出る。
「やった~!オルフェお嬢さんまた明日会えるって!!」
今も既に堪能している灰色のモコモコに顔を埋めるようにして抱きしめる。
「シオン、そろそろ夕刻の鐘が鳴る。カルス君、シオン送っててやってな?」
「え…」
もうそんな時間だろうか。
「そうですね、帰りましょう?」
「う…ん」
差し伸べられる手に戸惑う。オルフェお嬢さんを離したくない。帰りたくない。
「シオン、嬢ちゃん離したくないのか?」
差し伸べられている手に中々手を差し出さないのを不思議に思っているのかリチャードが聞いてくる。
「…うん」
オルフェお嬢さんを抱きしめてると安心する、から。
「カルス君。明日シオンは俺のとこに来るってことでいいのかな?」
「…はい」
「じゃ、お嬢は、一日貸し出してやるよ。シオン」
ボリボリと頭を掻いてしょうがない、というようにいうリチャード。
「ほんと!?」
「ああ、ただし、明日には返しに来ること」
「うん!」
「じゃあ、よろしくな、お嬢も、行儀よくするんだぞ」
「キュー」
「じゃ、カルスかえろっか」
一日でも一緒にいられるということに嬉しくなって自然と笑みがこぼれてくる。
憂鬱でしかないあの王宮での生活にオルフェお嬢さんがいてくれるというだけで、明かりが灯る。
一日しかいられないといっても、明日もまたこの王都に降りてくることができる。一人で降りてこれたら一番いいけど…。無理だと思う、けど。
シルバやユフィに会えるかもしれない。明日も王宮から出てもいいといったカルスだけどどこでその言葉が取り消されるか分らなかった。
でもオルフェお嬢さんを帰すための家はきっと私しか知らない。自然、明日も私が王宮から出ることは自然な行為。
王宮に連れ戻されてからは、ほぼ軟禁生活と変わらない。部屋の外に出るのでさえ、カルスの許可が必要になっていた。
「じゃ、明日な」
「うん!」
**
「まさか、気付かれるとはね」
「順調のようだね」
「そのようだ」
物陰に隠れていたもう一つの影が姿を現したのは二人と一匹の影が完全にみえなくなった頃だった。
「シオンの観察眼には恐れ入るよ」
出てきた影に片目の男は話しかける。
「そうだろうって、私も相当あれには苦労したんだから」
そういうと微笑ましそうにいなくなった二人の方に顔を向ける。
「でも…お嬢のことを思い出しているってことは相当だろう」
「そうだね」
「会わなくて良かったのか?」
「会ってどうする?無理やり連れて行ったりしたら、あれと同じだろう」
「シオンは会いたそうだったけどな。王宮で相当息が詰まってるんじゃないか」
「オルフェはさしずめ精神安定剤ってところだろうね」
「シルバはどうしてる」
「まだ…帰ってきてないみたいだよ。情報を流してあげる、アレクスが出てくる」
「俺は…離れたいが今回は見送った方がいいか?」
「それはあんた次第だよ」
金髪は一寸の迷いもなくその場から立ち退く。
「高尚な者達の考えはいつだってわからんな」
いつだって、そう。
大昔から。




