33 再
時を待たずしてルカディアという国は再び戦火を交えることとなった。隣国との交渉がうまくいかなかったのだという。そして、巫女姫を国民に披露するという式典も戦のために延期されたそうだ。
「サリュー、いいのかな。私こんなところでのんびりしてて」
「良いんじゃない。だってカルスは何も言ってこないんでしょ?」
「うん。アスカ様と行かれたらしいの」
どうしようもない、そんな思いを遠き地にいたサリューは受け取って、風を纏って王宮まで来てくれたという。サリューの話では、私は風に随分と好かれているという。
風が猛スピードで迫ってきたと思ったら連れてこられ、置いて行かれたという。
シオン付きの侍従として、サリューは王宮に残ってくれることになり離宮にいた時の様に二人でよく散策に行く。シオンの行動が可笑しくなりだしたため恐怖した使用人が何人も配置を変えてくれと言ってたらしいので、ソレはすんなりとシオン付きの侍従としての地位を得ているサリュー。
一応、この国の王子様なのにいいのだろうか。というか、本当に誰もサリューが王子だということに気づいていないのだしたら、この国は本当に大丈夫なのだろうか。
優秀な軍師であるカルスは優秀な戦士であらせられる『軍神の巫女姫』を連れてまたも第一線に飛び出していったらしい。
その間。一度もカルスはシオンの元を訪れなかった。
サリューと共に王宮を歩けば、侍女たちの会話にアスカ様と王の話題は当たり前の様に噂されている。シオンを知っている者は目の前にシオンがくるとバツの悪そうな顔をするものだ。
サリューと一緒に何度も王都にも降りた。リチャードもサリューに紹介したし、オルフェお嬢さんも殊のほかサリューを気に入ったようで頭の上に乗って離れなかった。
この国にきて第二回目の戦の最中。今度は離宮ではなく王宮においてけぼりを喰らっています。戦が始まった時さすがに宰相さんが部屋にきてサリューと一緒でもこれからは王都に降りない様に、そう言われた。
それからの専らの昼間の時間帯。サリューの友達がいる魔導宮とうい場所にいる。まぁ、この国の魔法のエリートが働いている場所らしい。見た目年齢サリューと変わらない少年がもう働いているというからこれまたびっくりというところだ。
「二人ともどうして毎日来ては茶を飲んでるんだい?」
執務室にある窓から眺める景色は青々とした緑が一面に見えてとても綺麗なところ。その部屋の主は王宮魔導師の長官。言葉は丁寧なのになぜか慇懃に聞こえる口調は、すでになじんだものとなった。
「ん~王宮の中って暇なんだよね」
そう応えるのはサリュー
「毎日、毎日…これ以上業務の邪魔をされると腸が煮えくり返ってしまいそうだよ?」
そんな文句をいいつつ長官は、いつもサリューの好きなお菓子と紅茶を用意して待っていてくれる。
「じゃあ、宰相から外出許可取ってきてよ」
「無理なことをいうものじゃないよ、巫女がいて今の王都に降りる許可が下りるわけないと思うよ。シオン様、今しばらく御辛抱下さい」
戦が始まってから、一度もオルフェお嬢さんやリチャードに会いに行けていない。あのモフモフがそろそろ恋しくなってくるのだ。その代わりと言ってはなんだが、シオンの膝の上には黒猫見たいな使い魔のルイが乗っている。ついでにしゃべるし、少年の姿になって驚かされることもしばしば…。
精霊ではないのか、と聞いたところルイは精霊よりも下位に属しているのだという。
「私は、別に何も…」
目の前に置いたままだった茶器に手を伸ばして一口飲む。
サリューがいなかったらまだ部屋に閉じこもっていただろう。サリューがいてくれるから今の私でいられる。
閉じこもってしまおうと思っていたのに。それを防いでくれて、もう一度私に外に出る機会を作ってくれたのは、サリュー。
リチャードがいてオルフェお嬢さんがいる。今は会えないけど、会うと安心する人達がいる。
不安になってもサリューがいてくれる。
多くは望まないから
これ以上、望まない様にするから
お願いだから。
いなくならないで




