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紫の旋律  作者: 蒼夜
第二章
29/75

28 蒼

 

 侍女がシオンを迎えに来て、シオンが「また後で」といって去っていた。

 侍女が履いている靴の音だろうカツンという音が聞こえなくなるまで二人のいる場所には沈黙。

 

「で…シオンに聞かせたくない厄介なこととは?」

「それが」

 

 宰相は言いにくそうに目を伏せる。

 

「長い間冷戦状態であった隣国が…攻め入ろうと企んでいるという話が、」

「疲弊している間にってことか、っくそ!」

 

 カルスはふざけるなと言わんばかりに言葉を投げる

 

「それと――」

 

 **

 

 宰相に出された書類を片っ端から片付け、やっと小休止だといって部屋に戻ることができた。

 数か月いなかったというのに埃一つ落ちていない豪華な部屋。

 自分には過ぎたる部屋だと思いながらもここは歴代の王の、王のいるべき部屋として造られた場所。

 綺麗に整えられた寝台の上に着替えもせずに倒れこむ。

 

「わからなくなってきそうだ」

 

 ルカディアの王としての証。

 その証を父も、そして自分も持っていなかった。最後の継承者は――。

 証の保持者は別に一代に一人、そんなことはない。子どもすべてに継承されたという話もある。ただ今回二代そろってその証がでなかった。ただそれだけ。

 ただ巫女姫の出現率と伴ってかは定かではないが証を持つものが減ってきていることも確かだった。

 だからこそ王族直系は過大と思われる程丁重に扱われるという事態になってしまっている。

 

 ただ自分は証を持つものだけが呼び出せるはずの巫女姫を喚びだした。

 これまでの史実に証を持たぬ者の願いで巫女姫は現れたことはなかったというのに。

 巫女姫という存在を選定するのは伝承によれば四皇という存在達。その上に座するは天帝。そのどちらも古の存在として、巫女姫と共にこのルカディアで語り継がれていたもの。

 その存在が本当にいたとして、自分が本当にルカディアの王としてふさわしいと思われたのだろうか。

 

 ふと、自分の蒼い髪が瞳の端に映る。忌々しいものでしかない髪を極力見ない様に今まで短く切りそろえていたのだが、戦に出ていて切るのを忘れていた。

 王家に生まれたものの異端と言われ続けた自分。

 王という場所に座してもなお、言われ続ける。王家の歴史を深く知っている重鎮たちはこぞって反対していたし、今も変わらずに反対している。カルスという異端が王の位置に座していることを。

 カルスという第一王位継承者を支援してくれるものは確かにいた。ただカルスが王になれなくても、助力したということでなにかしら援助でももらおうとしている奴らがほとんどだろうが。

 先王、父は証がなくとも、王になる外見の規定は通っていた。その王が残した男児はカルスだけではない。その中には金糸の髪をもつものもいた。

 先王の急逝さえなければ、きっとそれらの誰かが継承したはず。ただ、逝くのが早すぎたために。

 

 ただ…他に王になれる人がいなかった。

 

 王族は金糸の髪の毛。その規定にすら則れなかった自分。

 それでも、王として立てる年齢の子がカルスという異端の存在しかいなかったから。第一子だとしても誰からも期待されない存在。臣達は他の子が王位を継承できる年齢になったらすぐさま王を挿げ替えるだろう。抵抗でもしようものなら殺されるか。

 

 先王の第一子でなかったらきっと、とっくのとうにこの城から追い出されていただろうに。リアリリス様が王宮を出られて離宮に籠られる様になってしまった原因の一端も自分だ。

 サリューに王家の子としての教育を受けさせることができなくした原因も…。

 

 今のルカディアはすべて、つぎはぎ。だからこそ他国は幸いと、攻め入る。

 臣の義が王にないことが他国にまで知られてしまっているから。

 

「どうしたらいいんだよ」

 

 王家の人間だからか魔力だけはいっちょまえに膨大な量を詰め込んでるのに、まったく使えない。

 魔力が渦巻いてる。視えるのはただそれだけ。

 

「異端の王…だからこそ?」

 

 

 昼間の宰相の言葉が通り過ぎる。

 

「巫女姫が…もう一人現れました」

 

 宰相の目は伏せられたままだった。


「どういうことだ、巫女が二人?」

 

 そんなこと聞いたことがない。

 一人の王に一人の巫女。それが、今までのこの国の不変でもあったこと。

 

「彼女の名は、アスカというそうです」

「アスカ」

 

 それまでにあったことを宰相は掻い摘んで話し始める。

 

「アスカ様が降り立たれたのは、王がシオン様を連れて出立して幾日か経った時でした。神官たちが祈りを捧げていると…剣を携えて神殿に降り立たれました。アスカ様は武道に精通されているようで城の残っていた猛者たちも負ける程…。今は親衛隊長であるヴィンセントをアスカ様がいたく気に入ったようでよく鍛錬に出かけていまして」

「それは…あの重鎮達もしっているということか?」

「はい。城内の使用人も、最初こそシオン様のお人柄に惹かれている者が多かったのですが『軍神の巫女姫』が今代の巫女。アスカ様こそ本物なのではないかという噂が、城内に流れています」

「武道に精通していて、城の騎士もお手上げ状態なのか?…今代の巫女が『軍神』と言ったのは私…か。アスカに会おう」

「午後から時間を用意してあります」

「仕事が早いな」

「…失礼いたします」

 

 **


 執務室に向かい溜まっていた書類の整理をしていれば、朝から会うことがなかった宰相が部屋に入ってくる。

 後ろには親衛隊隊長であるヴィンセント・ハルシェン。その後ろに黒髪が揺れる。

 

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