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紫の旋律  作者: 蒼夜
第一章
15/75

14 扉の前の


 国王だというその人に腕を掴まれいくつかの扉と門を潜った。

 どこなのかもわからないけれど、綺麗な調度品。さすが王宮ということだろうか。

 国王はこの部屋に私を連れてくると何も言わずに手を離して一瞥もせずにこの部屋を去って行った。

 直後に、ガチャという音がして、急いで扉に駆け寄ったがそれが開くことはなかった。

 よく周りを見てみれば、窓一つない部屋。照明は魔法によって成されているので、暗いなどということはないもののまるで牢獄のような部屋だと思うと急に身体の芯からなにかが冷めていった。

 

 それが昨日のこと。

 

 とりあえず、ある寝台にまるくなって眠って起きてもその部屋は何も変わっていなかった。

 窓がないので今が朝なのか夜なのかの判断もつかない。ただそこにはずっとついていたんだと思う照明。

 寝台から起き上がり昨日、国王が去ってから開かなくなった扉を再度開けてみようと試みるがビクともしない。

 

「閉じ込められてるのよね」

 

 冷静に判断と言ってもこれでは情報が少なすぎるというか、何もない。サーエフはいったいどうなったのか。あの後ちゃんと親元に帰れていればいいのだけど。ヴィンスがここにいるのならアスカもいるのだろうか。

 

 扉の前で考え込んでいると外から誰かの話し声が聞こえてくる。内開きの一枚扉だったはず。ということは扉の死角にいれば、脱出できる可能性もある。足音をたてない様になるべく慎重に扉の死角となるであろう場所へ足を進める。

 

「――です――シオ…様―」

 

 一枚扉といってもそれなりに厚さはあるらしく外の声がとぎれとぎれにしか聞こえないものの自分の名前が呼ばれた気がした。

 扉からカチャッと鍵を開く音が聞こえると扉が少しずつ開かれていく。

 扉からの死角にいるとはいえ、いつばれるか解らないのだから逃げるとしたら今だろう。

 一歩前に足を踏み出した瞬間目の前に一陣の風が吹く。その場所を見やれば首元にあるのは剣先。

 ゴクリッと唾を飲み込む。

 

「そのような場所に隠れて如何なされたか。シオン様」

 

 低く、少し呆れたように聞こえるその声は昨日、シオンを捕まえた人物であった。

 

「ヴィンスさん、剣を降ろしてください」

「出来ませぬ。逃げられるおつもりだったのでしょう」

 

 そうだ、などとここで言えるはずもない。それに昨日シオンを最初に捕まえたのは他でもない、この男だ。

 

「私は、貴方のこと…思い違いをしていました」

 

 アスカと共に自分に会いに来たヴィンスは、決して人の嫌がることをせず、気配りがとても上手で、一緒にいて不快に思ったことなど一回もなかった。

 

「今の私はアスカについている時の私ではないのですよ」

 

 嘆息まじりに吐き出される言葉。

 

「ヴィンスさん。もう少ししたら人が来るんじゃないですか?そんな時に王の客である私に剣を向けていて困るのは…貴方ですよね」

 

 無理矢理だったとはいっても一応はこの場所まで王だっていう人につれてこられたわけだから。あながち間違ってはいないと思うが、王から直接言われたわけではないので不安は残る。

 

「あなたが客という立場だったら幾らかましだったかも知れません」

 

 そういってヴィンスはシオンの前から軽やかに剣を退かせ鞘に納める。

 

「アスカのご友人に刃を向けたとなれば、私も怒られてしまいますな」

「ヴィンスさん、私は何でここに?」

「そのことについては私の口から申し上げるのは禁じられております」

 

 そういうとヴィンスはシオンから一歩距離を取ると綺麗に礼の形をとると、そのまま顔を上げずに話す。

 

「シオン様、私は王の直属の部下です。この城の中で…私の絶対の君主はアスカではなく、王。あの方の命に私は逆らえませぬ。先にお詫びを」

「だから…昨日も?」

「見つからなければ、そっと出す手はずだったのですが…」

 

 昨日あの場所でみたヴィンスの何時もと違う態度。王に私が見つかった時のアレが本当のヴィンスの――。

 

「この中では私は王の部下。私に助けを求められても…なにもして差し上げられない」

「…うん」

 

 知ってるはずのヴィンスは、この王城の中では私の知らない人。そうしなければいけない。ヴィンスにはヴィンスの立場がある。

 なんでだろう、そう言われて心が少しホッとした。

 

「ヴィンス」

 

 名を呼べば弾かれた様に顔を上げる。

 

「私のことは気にしないで、勝手に出ていきます」

「――ですから!」

 

 シオンよりも大きな身体が扉に行くことを阻むようにその体躯で壁を作る。

 

「貴方は、貴方の仕事をすればいいんですよ?」

 

 私の行く手を阻みたいなら阻めばいい。私はひとりで進んで行くのだから。

 

「シオン様、往生際が悪いですぞ。逃げられるとお思いか?」

 

 まるで子供が新しい遊びを見つけた様にヴィンスの顔は、その言葉と正反対だ。

 

「思ってます。どいてください」

 

 

 扉の前での攻防は侍女が部屋に来るまで続けられた。


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