12 連れられた場所は
連れてこられたのは大きなホールのような場所だった。
シオンと同じように黒髪や黒眼といった理由で集められたであろう少女が何十人か居た。何が起こったのかわからなくて震えているような少女も中にはいる。まだ幼い子供も…。きっと王都の兵士によって無理やり連れてこられたのだろう。
シオンはみる限り一番幼い少女のもとに向かった。
シオンが連れてこられてからも何人か新しい少女たちが次々に連れてこられる。ただ黒髪ではあるが眼の色は違ったりと、髪も眼も黒いというのは珍しいようだ。
全員が挙動不審というわけではなく誇らしげに何かを待っている少女もいる。
「お嬢ちゃん、大丈夫?」
シオンが声をかけるとその少女は今にも泣きそうに眼には大粒の涙を携えていた。
「…ふぇええええ」
声をかけた途端手を伸ばしてシオンに抱きつくと少女は泣き出す。
シオンは落ち着かせようと少女を抱いて隅に向かう。そこでポケットから昼間シルバがくれた飴を出して少女に与える。
泣きながら少女は『あーちゃん』と呼び続ける。きっとお母さんのことを探して呼んでいるのだろう。
ポンポンと背中に軽く触れて、大丈夫だよとあやし続ける。少し時間はかかったものの少女も少し落ち着いてきてくれたようで先ほどのように咽び泣くことは無くなって小さくしゃくりあげる程度となった。
「お嬢ちゃんのお名前は?」
ここでシオンが不安な顔をしていたらまた少女が不安になって泣いてしまうのでできる限り笑う。
「しゃー…エふュ」
少し舌っ足らずな少女。
「私はシオンよ。何歳?」
「よっつ」
幼い。とは思っていたけど、予想外に小さい。あの兵士たちはこんな小さな子まで王の勅命だからと無理やり連れてきたのだろうか。彼女の母親もつけずに…。
確かに彼女は黒髪だった。でも…少しやりすぎではないか。
――久しぶりに腸が煮えくりかえりそうだわ。
「シャーエフュ」
「ちあうよ!」
彼女の名を呼ぼうとするとその少女の声に遮られる
「シャーエフュ!」
力強く、さあもう一度言って。と言わんばかりに彼女はシオンを見る。
「シャー」
「ちあう!」
彼女の発音と同じように発音しているのに…。何が違うのか
ああ、そうか。一つの考えに思い当たる。彼女は舌っ足らずだ。きっと名前も発音しきれていないのだろう。
「さーえ」
「うん、シャーエフュ」
「サーエフ!」
「あちゃり!!」
そういって少女はキャッキャと楽しそうに笑う。
その間にも続々と周りには黒眼、黒髪をもつ少女たちが集められていく。
「サーエフ、これ何なんだろうね」
「ちらない。かえりちゃい」
「だよねぇ」
その時、今まで少女が入れられてきた場所とは逆の位置の扉が騒がしくなる。
扉が開くとそこには先日会った人が一人。
なんで…ここにいるの
「少女たちよ、よくぞ集まられた。ここにいるはルカディアを納める国王である」
賢者のような格好をした男性がホール全体に響くように声を出す。
その声に導かれるように現れたのはアクロディーテとはまた違った蒼の髪をもつ青年。
少女たちの反応はそれぞれだった。恐れ多いと平伏しだすものや、その側に駆け寄って少し手も眼に止まろうとするもの。町娘と貴族。その違いでしかないのかもしれない。
国王と呼ばれたものに挨拶に行くのはソレは美しい衣装を身にまとった少女たち。平伏しているのはシオンと変わらない服装をしているもの。
シオンの手元におさまっているサーエフは幼いということもあってわけがわからないようだ。
ホールの隅にはちょうど隠れるのに良い柱が大きく立っていた。そこの裏に国王という人物にばれない様に隠れる。なぜかはわからないけど、本能的に。
「シーンはいかにゃいの?」
「いかないわ。私も早く帰りたいし」
一瞬考えたがこの状況からしてシーンというのはシオンのことだろう。
兵士に顎を持たれたときに取れたままだったフードをサーエフを抱えていない方の手でかぶりなおす。
柱の陰から盗み見ると国王と呼ばれた青年と賢者のような男がなにやらヒソヒソと会話をしている。
国王の隣にいるあの人もまだ私の存在には気づいていないようだ。
キョロキョロとあたりを見回しているのがわかり盗み見るのをやめサーエフと二人隠れることに専念する。
「この中にシオンの名を持つ女性はいないか」
賢者がまたしても声を張り上げる。
「シーンりゃって」
腕の中でサーエフがはしゃぎだす。
ただ異世界から来た女を探しているのだろうか。シオンは自分の名前が賢者から発せられたことに疑問を覚える。
その人が側にいるということは顔を見られたら終わりということだ。きっと…シルバのそばに帰れなくなる。
「サーエフ、少し静かにね」
ここでばれるわけにはいかない。サーエフはその言葉に素直にうなずく。この年齢の子にそんなことを言っても聞いてくれるのかわからなかったがとにかく今は何でもいい。
「少女たちを全員前へ」
しびれを切らした賢者が切り出す
少女たちは自発的にその人のもとへ集まる。柱に隠れていた私はシオンたちが入ってきた扉からは丸見えになってしまっていたので腕を取られ強制的に前に連れて行かれた。