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紫の旋律  作者: 蒼夜
第一章
12/75

11 約束


 戻った街はまるでお祭りが終わったような騒がしさを残していた。

 王都に入る前にいつもよ入念にシルバにフードを被るように五月蠅く言われたので、眼深く被りすぎて実際瞳は地面しか見ていないけれど、街の雰囲気がそうシオンに伝えてくる。

 

「シルバ、今日街でなにかあったの?」

「巫女姫様の挨拶というか…演説かな」

「そうなの?聞いてみたかったな」

 

 街に入るときに今日は人が多いからと言って繋がれてる左手が少し強く握られる。そう感じた瞬間にはシオンはすっぽりとシルバの体の中におさまっている。

 

「危ない」

 

 シルバがそう言ってシオンが今まさに歩いていたところを酔っ払いのおじさんが足を縺れさせながら歩いているところだった。

 

「ありがとう」

「これって、役得かな」

 

 アクロディーテといえば、街に帰ると言うと、青い鳥に姿を変えてまた飛び去ってしまった。彼女ならばきっと何か言えたんだろうけど。

 こういうときって一体どうすればいいんだろう。

 

「シルバは軍神の巫女姫様の今日のお話きかなくて良かったの?」

 

 シオンはこの世界の人間ではない。でもシルバはこの世界で生きてきたこの世界のれっきとした住人だ。

 

「俺には別に関係ない」

 

 握られた手はそのままに二人は再び歩き出す。

 周りから聞こえる今日の話題は今日演説をしたという軍神の巫女姫様のことで持ちきりだった。

 まだあどけない黒髪の少女。あの方かがこの国に勝利をもたらした巫女姫とは心強い。聞こえてくるそのほとんどの話は賞賛の声。

 

「すごい人なんだね」

「軍神の巫女姫が?」

「そうだよ!だって平和をもたらしてくれた人なんでしょ」

「…」

 

 シルバは答えず、ただ笑みをのぞかせた。

 

「シオン、俺と一緒に旅に…出てくれるんだよね?」

「――うん、いつか世界を一緒に見て回りたい」

「それを聞けたから…俺は良い」

 

「そこの二人、止まれ」

 

 シルバがそう言ったと思うと瞬時に大きな声で男が声を発した。一瞬自分のことではないだろうと思っていたのだがあまりにも近くで聞こえたので反射的に顔を少し上げると周りは人で囲まれている。皆一様に剣を持って、鎧を身につけている。今まで道は手をつないでいるシルバに伴ってもらっていればよかったので周りの声は聞いていたけど、行動は見ていなかった。

 

「そこの少女…顔を見せてもらおうか」

 

 取り囲むようにいる兵士の一人が一歩前に歩み出る。最初に止まれと言ってきたのもこの男だろう。

 シオンはシルバにどうすればいいのかと無言で問いかける。しかし、その問いかけにシルバは答えることはせず、代わりに握っている手を強く握る。

 

「貴方達はいきなり何なのですか」

 

 シオンはフードを取らずに切りだす。

 

「国王からの勅令だ。王都にいる女すべてを調べろと、顔を見せろ」

「そんなのっ!」

 

 関係ない。そう切り出そうと思って気付いた。シルバとシオンがいるのはまだあの一角ではないことに。今いるのは境界線の外、王の権力の及ぶ範囲。

 

「……」

 

 どうすればいいというのだろう。

 考えている間にも男はずんずんと前に進んでくる。俯いてしまっていた瞳にその男のものであろう靴が瞳に映る。

 グイッっと顎を持ち上げられて顔を無理やりに上を向かされる。反動でフードがひらりと頭から落ちていく。

 現れたその姿は黒髪、黒眼。隠されていた髪の毛はサラサラと夜風に揺られている。

 

「…いたっ」

 

 無体に上を向かされたせいで首が痛い。

 

「男、この少女は我らが貰い受ける。これは勅命である」

「本当にユフィの言った通りだ」

 

 シオンからしたら今だ顎を持ち上げている兵士も十分に背が高いというのにシルバはそれよりも高く悠然とその場に佇んでいる。

 

「離してっ!」

 

 シオンは首を一気に捻る。多少自分にも被害はあるがそれでもこんなわけのわからない人間に触られてるよりはましだ。

 そのあと、シオンは離れないというようにつないであったシルバの右腕に絡みつく。

 

「私は…王様の勅命になんて従わない!」

「抵抗するならどのような手を使ってもよいといわれている」

 

 兵士とシオンの間にバチバチという火花が散る。普段冷静なシオンにしてみれば珍しい展開だ。

 

「…ハァ」

「なんでため息つくのよシルバ!」

「しょうがないよ。勅命なんだ…でも、約束はさっき確認したから覚えてるね?」

「え…うん」

 

 まさかシルバがこんなにあっさりと折れると思っていなかったシオンは少々拍子抜けした気分だった。

 

「悲しくなったり、辛くなったりしたらすぐに呼ぶんだよ」

 

 シルバの左手がシオンの髪を撫でる。

 

「お前たち」

 

 シルバの声のはずなのにすごくビリビリとして周囲に響き渡る。

 

「この少女を傷つけたものは誰であろうと制裁が下る。そう思え」

 

 重々しく響くそれはまるで――。

 

 シルバとシオンをつないでいた手が離される。

 

「シルバ!」

「こちらへ」

 

 兵士に腕を掴まれて取り囲むように周りを固められて、すぐにシルバの姿が見えなくなる。

 少し進んだところにあるのは馬車。そこにシオンは押し込められ左右には一人ずつ兵士が座る。

 

 

 

 

 


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