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紫の旋律  作者: 蒼夜
第一章
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9 内緒話

「あの子から、両親を奪ってしまったのは…私なんだよ」

「そんなことシルバは思ってないよ」

 

 思ってたら、こんなにユフィと一緒に過ごすことなんてしない。

 

「私が…知らせなきゃ良かったんだ。どうせ直したってまた同じことの繰り返しだったのに、どうせなら終わってから呼べば…。」

 

 ユフィの瞳から悲涙が零れ落ちる。

 

「私が呼んでしまったから…あの子の両親は戦火に巻き込まれた。他人を助けようとして、敵に気付かなかった私の…代わりに。奥様と旦那様を」

「ユ…フィ」

「私は、必ず助けると言って一回その場を離れた。その人をシルバに預けて…戻った時には、もう。他人を助けて、一番大切だった人を…あの場で治療していれば間に合ったかもしれなかったのに、私は見誤ったんだよ」

 

 掛ける言葉がなくて歯がゆい。私の言葉なんかユフィにはきっと届かない。ユフィはきっと自分の身を忙しくして、すべて忘れていたかったんだ。

 

「シオン、あの子は…本当にあんたのことが大切なんだ」

「…」

 

 ユフィのことだって大切に思ってるのに、でも…今私がこれを言うのは陳腐な言葉にしか思えない。

 

「素直じゃないけど、良い子だ。悪いね、せっかく楽しくお泊りしようとしてたのに」

 

 ユフィの表情は人が変わったかのようにさっきまでの悲しい表情が消えていつもの明るい顔があらわれていた。

 

「今のは…内緒話だよ、シオン」

「うん」

 

 ユフィがシルバを本当に大切に思ってることはひしひしと伝わってきた。

 きっとシルバが戦火を避けて旅をしているのは両親が死んだ時のことを思い出すからなんだろう。

 なんで世界はこんなにも戦争が多いのだろうか。戦火の狼煙が上がれば絶対に誰かが傷つくというのに…。

 

「シルバが帰ってくる前に夜風にでもあたってくるよ」

「ユフィ?」

「大丈夫。直ぐに帰ってくる」

「…うん」

 

 シルバが出て行ったところと同じ扉ではなくてユフィの個人的な部屋が連なっているという扉の方にユフィは向かって、姿を消す。

 

「ユフィ…すごい気にしてる」

「みたいだな」

 

 どこに隠れていたのか調理場の方からでてくるシルバ。

 びっくりしているシオンにシルバはこっちにも入口あるんだよ、と教えてくる。

 

「俺は…ユフィのせいだなんて思ってないけど、駄目なんだよ」

「なんで?」

 

 シルバは蛇口をひねってコップに水を入れる。

 

「ユフィって俺の両親に育てられたから、俺よりも両親に愛着あるんだと思うよ。それを自分の不注意で、だ」

「そう…なの?」

 

 ユフィはシルバのご両親に…。

 

「そう。俺がユフィに育てられたのと、同じようにね」

 

 自分が大切だと思っていた人を自分の不注意で殺してしまったって思ってるなんて…。

 

「俺だって両親が嫌いなわけじゃないし、悲しまなかったわけじゃない。でも…ユフィのことも同じくらい大切」

 

 シルバはユフィのいなくなった方に視線を投げる。

 

「そろそろだからか…」

「なにが?」

「二人が死んだ日」

 

 シオンはハッと息をのむ

 

 そっけなく言い放ったシルバの表情も少し翳りをみせる。

 

 

 

「そうだ、今日はシオンに渡すものがあって…ちょっと待ってろ」

「あ…うん」

 

 カタンと、中身のなくなったコップが置かれる音がする。

 

 二人の関係も、シルバの過去も何も知らなかったんだ。自分は、ユフィに聞かされるまで聞こうともしてなかった。それは…無関心だったということと同じ

 

「シオン」

 

 コンコンと音がする。

 自分の世界に入りかけていてシルバが帰ってきたのに気付かなかった。

 

「あっごめん」

「手」

 

 シルバがシオンのいる方に回ってきて目の前に来る

 

「はい」

 

 言われた通りに左手をシルバに差し出す。

 

「はい、俺からのプレゼント」

 

 そういって置かれたのは綺麗な石。透明な色をしていて置いてある筈なのに自分の手のひらが透けて見えている。

 

「綺麗……えっ!ちょ、なんで光りだしてるの!!」

「フフッ」

 

 貰った本人は何事か解らなくて焦っているというのに余裕のシルバ。

 後で何か文句の一つでも言わないと…。

 

「シルバ!なにがどうなってるの」

「すぐ収まるよ」

 

 一瞬視界を奪われるように強烈に発光すると光は収束していく。手のひらに乗っていたはずの透明な石は見当たらない。

 

「あれ?」

「そこにあるよ」

 

 といってシルバはシオンの胸元を指す。そこには今までなかったもの。

 

「シオンはペンダントか、ちょっと後ろ向いて」

「あっはい」

 

 あっけにとられてシルバの言うことに従う。

 

「よっし、これでいい」

 

 背中で作業されてしまっているのでシオンからは一切何をしてるのかが見えていなかった。

 いつの間にか首から下がっているモノ。さっきまで透明だったそれは翡翠輝石のような色合いに変わり、丸い円の中に細かく意匠が凝らされている。紐の様なものもいつできたのか…肌に触れていても一切の不快感を与えない。

 

「シオン、紐が気になるの?」

 

 無意識に紐に手を触れていじっていた。


「うん。だって…不思議」

 

 触っているのに触っていないような

 

「それは、魔法で造られてる紐だから…肌に触れても不快感はないでしょ。そのうち付けてるのも忘れるぐらいのはずだよ」

「う…ん」

「何かあったら、いつでも呼んで」

 

 そう言えば…まだお礼も言っていなかった。

 

「あの…こんなに素敵なモノ本当に貰っていいの?」

「うん、もうシオンのだから」

「ありがとう。大切にする」

 

 その後夜風に辺りに行ったユフィが私の持っているペンダントをみてびっくりしていたみたいだけど別に何もいわなかった。

 元通り元気になって私たちの前に現れて、シオンと一緒に音楽を奏でたいんだ、と言うのでユフィの得意な楽器とシオンの歌の小さな演奏会が開かれた。部屋の中のシルバはときたま指を遊ばせたりしているものの他にはなにもせず目を伏せて聴いている。

 

 満月の夜、王都の中に穏やかな風が舞う。

 


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