ひとときの世界
「……あれ?」
放課後、帰りの電車の中で何気なく開いたSNS。
たまにやり取りをしていた子のアカウントの表示がない。
タイムラインの返信欄を開くと、そこに残っているのは
削除されたアカウントです。という表示。
「あ、消しちゃったんだ」
ほんの少し残念。
そういえば、最近あの子の投稿なかったな。
でも、まぁ、そうか。
そういうこともあるか。
電車を降りると、ホームの端が夕暮れの紫に染まっていた。
今日はちょっと風が冷たい。
そう思いながら、いつも通りの改札を抜けて
いつも通りの道を歩く。
家について自室のベッドに座り
制服のまま、なんとなくSNSを開く。
友達が自撮りを上げている。
別の子がテストの点数について落ち込んでいる。
また別の子は推し活について語っている。
私は簡単なコメントをして、いいねを押す。
いつも通り。
そういえば
私が授業中眠すぎるとか、どうでもいい投稿をしたとき
あの子は反応してくれてたっけな。
なんとなく自分の投稿を見返してみると
私の返信だけが残っている。
その上にあったはずの言葉はなんて書いてあったっけ。
「おつかれ」だったかな。
「わかる」だったかな。
ちゃんと思い出せない。
画面を閉じて、また開く。
特別な話をしたわけじゃない。
長電話をしたわけじゃない。
誕生日を知っているわけでもないし
どこに住んでるかも、本名も知らない。
そんな関係。
なんで消したんだろ。
飽きただけかもしれないし
リアルが忙しくなったのかもしれない。
特に理由もないのかもしれない。
でも、消すなら消すで、ひとことくらい言ってくれてもよかったのに。
何も言わないなんて、ちょっとズルい。
頭の中で膨らんだ言葉は、すぐに小さくなる。
別に私に報告する義務なんてないか。
リアルの友達でもないし、約束してたわけでもない。
ただ、タイムラインの中で
たまに言葉を交わしていただけ。
それだけ。
それだけなのに。
私は少しだけ取り残された気持ちになっている。
画面を閉じて、天井を見る。
部屋は暗くなりかけていて
カーテンの隙間から残りの夕陽が細く差し込んでいる。
あの子は、私にとってなんだったんだろう。
私は、あの子にとってなんだったんだろう。
思い出そうとしても
特別なことも、深い話も出てこない。
でも確かに。
言葉があって、気持ちがあった。
答えは出ない。
たぶん、これからも。
すっかり暗くなった天井を見ながら、ゆっくり目を閉じる。
あなたの画面に、もう私の言葉が灯る事はないんだな。
それはちょっと寂しいけど
あなたのいる世界が、どうか優しい場所でありますように。




