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それでもステラはかまどを守る  作者: 斗和子
序章 夢、芽吹く

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0-4 旅立ち

 身長は伸びても、ステラは同年代の間では小さいままだった。

 父親譲りの花緑青色の目と、夢に対する想いも相変わらずだ。

 しかし魔物暴走(スタンビート)の日、肩につく程度だった母親譲りの薄柿色の髪は、背中まで伸びたことで、高めの位置に自分で1つに結えるようになった。

 そのうえでウィルマにねだってもらった、母が領域衛生師時代に愛用していたという黒いリボンを頭につけたら、12歳のステラが完成する。

 学舎の卒業式より少し前に入学試験を受けたステラは、無事に王都にあるアルデバラン魔術学園行きのチケットをゲットした。


「……え、王都へ行く? おまえみてぇなチビが? 踏まれて潰れて終わりだろ」


 卒業式後、みんなで教室でワイワイ騒いでいるときに、なぜかダニーが目を見開き固まった。

 どうやらダニーは、自分同様、ステラも村から通える範囲内にある魔術学校へ行くと信じきっていたようだ。


「チビって言わないで、ダニー。私は気付かれないだけ小さくないよ。それに私に気付かずぶつかってくるのはダニーだけだもん」


 ステラは眉間にシワを寄せながら臆することなく言った。

 足が早くて、友達の恋愛話によく登場するダニーだが、いつの頃からかステラには意地悪ばかりしてくるようになって、それ以来苦手になった相手だ。

 ダニーの周りにいる取り巻きが面白がってはやすものだから、ステラの気持ちに気付かず積極的に絡んでくる。

 それが嫌なのもあって、ステラは両親の母校でもあるアルデバラン魔術学園を進学先にしたのだった。

 領域衛生師になるためのアーサーからの条件に「最初から就職先を神殿と決めないこと」があるから、というのもある。

 ステラは視野を広げるためにも、王都行きを選んだのだ。

 誰にも言わないで、と。限られた友人にしかその想いを打ち明けない状態のまま。


「っつーかなんで王都に行くんだよ」

「アルデバラン魔術学園に行くの。将来の夢を叶えるために決まってるじゃない」

「夢を叶えるため……?」


 ダニーは呆然と呟く。


「おまえは俺と一緒に冒険者になりてぇけど、チビで普通になるのは無理だから、リョーイキなんたらになるんじゃねぇの?」

「……なんでそういうことになってるの?」


 頭がおかしくなったのか、と。思わずにはいられないことを言うダニーに、ステラは思いきり顔をしかめた。

 確かに領域衛生師は、周囲の人達の心の安寧を保つ職業に就く者として戦闘時でもそうでなくともA級以上の冒険者パーティーに必要不可欠な存在ではある。

 しかし……――――。


「ヨシュアにも勝てない奴と、誰が冒険者やりたいって思うの?」

「な、なんだと!? 後悔してもしんねぇからな!」


 すごむダニーに、ステラはふん、と鼻を鳴らした。

 幼くて、一人称も口調もその日によってまちまちだったヨシュアは、それでも冒険者になるという夢は変わらず、大きくなった今はアーサーに稽古をつけてもらっている毎日だ。

 冒険者ごっこで1番になっているだけのダニーと比べるのもおこがましい。


 それに領域衛生師を求めるのはなにも冒険者だけではないのだ。

 通常時の業務内容は違えど、神殿や騎士団、冒険者ギルドや城にも働き口はある。


「冒険者になったとしても、意地悪しかしてこないダニーとパーティーを組むなんてお断りよ!」


 キッ、と。ダニーを睨み付けながら、ステラは語尾を強める。

 顔を真っ赤にして怒るダニーの目が、なぜか涙で潤んでいた。



 ***



 卒業式から数日後。

 その日、ラ・ソワ村を出るステラを見送ろうと、村の入口には両親のほか、弟妹や友達が集まっていた。

 その集団を見た近所の人達が、「もうそんな時期か」と口々に呟いては日常へと戻っていく。

 月に1回。村を訪れる商隊の馬車に乗せてもらう形で、就職や進学を理由に王都へ向かう。そういった者が多いのが、ちょうど今の時期なのだ。


「寂しくなるなぁ」


 馬車の荷台に荷物を載せるステラに向かって、アーサーはしみじみと呟いた。

 その腕に抱き上げられているエヴァも、父の肩に顔をグリグリと押し付けてこちらを見ようとはしない。

 似た者父娘(おやこ)の様子に、ステラは思わず苦笑する。


「なに言ってるの、あなた。夏休みなんてすぐよ? あっという間に帰ってくるわ。飛行術や転移術を勉強する年になったら、夏休み以外にも帰ってくるわよ」

「そうなんだけどさぁ。ヴィカにも狙われたままだし」

「ルドヴィカ様は、なんだかんだできちんと人の意見を尊重するお方よ」

「でもさぁ……うちの可愛いステラがさぁ」


 ウィルマに溜め息を吐かれても、アーサーはぶつぶつと憂いを吐き出し続ける。

 エヴァやハンナ、ヨシュアに対しても同様の態度をとるため、ヴァイス家はみんな慣れっこだ。


「ねぇね、元気でね」

「うん、ハンナも元気でね。エヴァと喧嘩しちゃだめよ」


 眉をハの字にしたハンナに、ステラは目尻を和らげながら言った。

 馬車に乗りたいステラの手をキュ、と握って、離す気配はない。

 さて、どうしよう。無下にもできず、ステラは迷う。

 そんなステラの気持ちを察したのか、家族のなかで1歩、後ろに立っていたヨシュアが、母譲りの深緋色の目を静かに細める。


「ハンナ」


 咎めるような声変わり前の声。

 それだけで伝わったのか、ハンナが名残惜しそうに、しかしすんなりと手を離す。

 パタパタとウィルマのもとへ駆け寄ったハンナは、ウィルマにぴとっ、と抱き着いた。


 友人達が馬車の荷台に乗ったステラへ別れの挨拶を口にするなか、ダニーは足元に視線を落としたまま一言も発しない。

 商人が気を遣いながらも「そろそろ出発します」と声をかける。

 それを合図に、馬車はゆっくりと動き出した。


「行ってらっしゃい!」

「行ってきます!」


 見送りに来た人達が、口々にステラへと言葉を紡ぎ、手を振っていた。

 ステラは後ろを向きながら一生懸命へ手を振る。

 ステラが目視できなくなるまで、集団は村の入口から動くことはない。


 ――頑張ろう。


 前を向いて、ステラは改めて思う。

 ゆっくりと流れていく景色は、いつもより輝いていた。

お読みくださり、ありがとうございます。

よろしければ、ブクマ等で応援していただけるとやる気が出ます。


第一章からは、毎週水曜日19時投稿予定です

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