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配管迷宮の探索者はチート装備攻略の夢を見るか?  作者: ソエイム・チョーク


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3/7

ささやかな贅沢


 縦穴まで戻ってきた。

 最下層と下層を結ぶ巨大な円形の縦穴。

 壁面をエレベーターの箱が上り下りしている。

 討伐管理局のある階までエレベーターで上がる。


 俺はKN5を背負ったまま、討伐管理局の出張所へ歩く。

 窓口には中年の職員が座っている。いつも眠そうな目でやる気がないように見える男だが仕事はしっかりしている。

 俺はのブルタンクの角を差し出した。


 職員は目を見開く。


「これは……ブルタンクですね。一人で倒したんですか?」


「まあな」


「……場所の座標を」


「これだ」


 記録データを渡す。

 職員は信じられない、という顔で俺と画面とを何度も見る。


「データーに問題はありません。5000ゴダンです」


 差し出されたボロボロの紙幣を受け取る。

 普段は500ゴダン、うまく行っても1000ゴダンぐらい。酷い時には弾代だけかかって収入ゼロなんてことだってある。それが、こんないとも簡単に……。


「お疲れ様です」


 職員は事務的にそう言い、次の客を促した。

 俺は管理局を出て大通りを歩く。

 胸がどきどきと高鳴る。5000ゴダン。これだけあれば、しばらくは狩りに出なくても余裕のある生活ができる。

 まあ、サービスステーションに借金しているような物だから、そっちを返すために最下層に行かないといけないんだが。


 そんなことを歩いていたら後ろから声がかかった。


「おう、ロイじゃないか!」


 振り返ると、見覚えのある男が笑顔で近づいてくる。

 デクスという名のハンター。俺と同じくらいの年齢で、いつもフレンドリーに話しかけてくる。


「どうしたんだ、その武器。それに服も。いつのまに買い替えたんだ?」


 デクスは俺の背負っている銃をじろじろ見た後、俺が着ている服を上から下まで眺める。

 敵意は感じないのだが、何か探られているような気もした。


「ブルタンクを一人で仕留めたって聞いたぜ? すげえなぁじゃん」


 なんで知っているのだろう? さっき管理局の窓口に申請するまで誰にも言っていないのだが……どこかから見ていたのだろうか?


「運が良かっただけだ」


「そうか? ところでその銃、どうしたんだ?」


「これは、拾った」


 俺はそう答えるしかない。

 デクスは一瞬、顔をゆがませた。


「拾った? 買ったんじゃなくてか?」


「ああ。死んだハンターの近くに落ちてたんだ……」


「それはおかしな話だな。そいつはそんな銃を持ってて、弾もまだ残ってたのに死んだのか?」


「……死んでたんだから、そうなんだろうな?」


 言っていて、自分の言い訳の下手さ加減が嫌になる。


「それで? その服は?」


「拾った」


「死んだハンターが着ていたやつを剝ぎ取ったのか?」


「……」


 答えようがない。

 デクスはにやりと笑う。


「まあいいか。とにかくおめでとう。今日は景気良く飯でも奢ってくれよ」


「悪いが、用事がある」


「そうか。じゃあまた今度な」


 デクスはひらひらと手を振った。


「また詳しく聞かせてくれよ、お前の武勇伝」


 俺は適当に頷いて、逃げるようにその場を離れた。



 エレベーターに乗って縦穴を上がる。


 普段降りるような場所よりも、数階層上まで来た。

 通りを歩く。

 T字路。

 右に進むと繁華街。左に進むと少し落ち着いた雰囲気の町。

 右にはカジノなどもあるようだが、そちらには行かない。あれは金を増やす手段のないバカが行く所だ。モンスターを狩るより手堅い稼ぎ方があるわけがない。

 左に進む。


 こっちには、前々から、稼げるようになったら行きたいと思っていた店がある。

 ブレードエッジ停。

 店内は清潔で、おしゃれな照明が灯っている。

 客層も、静かで落ち着いた雰囲気だった。

 俺がいつも利用するような、安さだけが自慢の食堂とは違う。本物の肉が出るのだ。


「いらっしゃい。お一人様ですか?」


 店員が笑顔で迎えてくれる。


「ああ」


「こちらの席へどうぞ」


 案内された席に座りメニューを受け取る。料理の名前と値段が並んでいる。いつもなら手が出ないような値段だが……。


「ステーキセットを一つ。飲み物は炭酸酒で」


「焼き加減はどういたしますか?」


「んー……ミディアムで頼む」


「かしこまりました」


 店員が一礼して去る。

 これで300ゴダンか。だな。


 しばらくすると料理が運ばれてくる。

 焼かれた肉と野菜のサラダ、柔らかそうなパン。どれも普段は食べられないような物だ。

 俺ははやる気持ちを抑えながら、ナイフとフォークを手に取り、肉を少しずつ切って口に運ぶ。

 一噛みするだけで、口の中に肉汁の味が広がる。


「……うまい」


 こんな物を食うのはいつぶりだろう?

 俺は昔、上層を目指していた。

 バカなことに、狩りを続けて大物を倒すことに成功すれば、上層で生活できると信じていたのだ。

 上層の市民がどんなことをして金を稼いでいるのかは想像もつかないが、何か仕事をしているのだろう。それが狩りでないことだけは明白だった。

 その事実に気づいてから、夢を見るのはやめた。俺は最下層でモンスターと殺しあうやり方しか知らない。


 だが、それはそれとして、ここの料理はうまい。

 わざわざ上層なんて行く必要はないのだ。ただ、好きな時にこういう物が食えるなら、それでいい。


 食事を終えた後、俺は宿泊施設を探す。

 普段は安宿の雑魚寝だが、今日はいい所に泊まりたかった。


 そう遠くない所に、宿があった。

 中に入ると、受付の女性が俺に微笑む。


「宿泊ですか?」


「ああ。いくらだ?」


「はい。一晩1000ゴダンになりますが」


 普段なら絶対に泊まれない所だが、今の俺なら払えてしまう。


 この辺りの廊下は、普段、俺が泊まるような場所と雰囲気は変わらない。

 ただ、妙に静かだった。壁が厚いのだろうか。


 与えられた個室のベッドは一人用だが、広くて柔らかそうだ。シャワー室も付いている。窓はないが、テレビまで置いてある。


「いい部屋だな」


 俺はシャワーを浴び、清潔なシーツのベッドに横になる。マットレスが体重を優しく受け止める。


 あのサービスステーションはなんだったのか。

 うまく使えば、もっと稼げる。

 新しい銃の弾だって必要だし、ない


 俺は目を閉じた。

 久しぶりに安らかな眠りだった。


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