第四話
タイマーを止めるために布団から手を伸ばしスマホをスワイプする。
スマホには朝の7時が表示されている。
今日は土曜日で学校が休みである。そのため本来はまだまだ寝ていたいのだがそうはいかない。
ベッドから体を起こし、朝食を食べ、身支度をする。
昨日はあの後連絡先を交換しただけで解放された。
「これからはスマホで連絡するからこまめにチェックしてね。」
そしてその日の夜に
『明日一緒にでかけよう。』
そう言われた。
自分を殺してほしいと頼んだ相手と出かける意味が分からなかったが、
『私のことを全く知らない人には殺されたくない。』だそうだ。
なおのことわけが分からないが、彼女がそう言うなら僕はそれに従うしかない。
『了解。』と返信した。
そういうわけで僕は休みの日にこんなに朝早くから準備をしているのである。
彼女が言うなら僕はどんな時でもどんなことでもする。
玄関を開けると梅雨とは思えない晴れ模様である。
時刻は8時。
大貫さんが指定した集合場所は僕の最寄りの駅。
集合時間を考えると早い出発であるが、人を待たせるのが嫌なので早めに家を出る。
歩いて15分。
僕の最寄りの駅は多くの人が利用するからかそれなりに大きい。近くには飲食店が何個かあり僕もたまに入る。
駅に到着し中に入る。
さすがに大貫さんはまだ来てないと思うのでどこかで座って待っていようと辺りを見渡すと大貫さんが座っていた。
まさかこんなに早く来ているとは思わず驚いた。
大貫さんは僕に気づくと手招きでこっちにこいと合図する。
「早いね、西岡君。」
「それはこっちのセリフ。なんでこんなに早いの。集合時間まだでしょ。」
「うーん。私あんまり人を待たせるの好きじゃないか。」
同じ理由でお互い早く来ていたとは。
僕と大貫さんは案外気が合うのかもしれない。
「それでこの後は?」
「うーん。思ったよりもずいぶん早くあつまったね。私の好きな喫茶店でも行く?」
「大貫さんがそれでいいなら。」
「じゃ行こう。」
そう言うと大貫さんは立ち上がり歩きだす。
そしてとある喫茶店の前で立ち止まる。
「ここの喫茶店すごくいいんだ。」
「………そうなんだ。」
僕は入ったことないみたいな返事をしたが実際は違う。
僕もとてもお気に入りの喫茶店である。
たまに本を持ってここに入りコーヒーを飲む。
好きな時間である。
大貫さんと僕は中に入りテーブル席につく。
そしてコーヒーを二人分注文する。
「ここのコーヒー美味しんだよね。」
「………そうなんだ。」
知っている。とても知っている。
「後、お店の雰囲気もいいよね。」
「………そうだね。」
分かる。とても分かる。
しばらくすると二人分のコーヒーが届き口に含む。
やはり安定の美味しさ。
「美味しいでしょ。」
「そうだね。」
「でしょ。」
大貫さんは誇らしげに笑う。
その顔は大貫さんが学校で人気者である理由がよく分かる笑顔である。
「それでこの後は?」
「ああ、それなら今日は映画でも見ようかなって。」
「………映画?」
「そう。映画。私が前から気になってたやつを見ようと思うの。」
「それは分かるけど、なんで僕と見ようと?」
「なんでって。そりゃ映画の感想を語りあえたらいいじゃない。」
「………そうかな。」
「それに私、西岡君と気が合いそうだし。」
「…なんで?」
「ほら、西岡君よく教室で本読んでるでしょ。その本私が前から気になってたやつだったり、読んだことあるやつばっかりだから。」
「……奇遇だね。」
まさか本の趣味まで合うとは。
「それに…好きな喫茶店まで一緒だし。」
「………………最初から知ってたの?」
僕の嘘は何の意味も無かったらしい。
「たまに私がここの喫茶店入ると西岡君いることあるし。」
……………一度たりとも気付いたことが無かった。
「なんで入ったことないみたいな返事したの?」
「僕と趣味合っても嬉しくないでしょ。」
「そんなことないよ。今日だって趣味が合いそうだから映画行こうと思ったし。」
「それは光栄です。」
「もう隠さなくていいよ。そんなこと。」
「………すいませんでした。」
まさか僕と趣味が合って嬉しく思うとは。
「それにしても西岡君が断らなくて良かった。もうチケット二枚先に取ってたから。」
「…………そりゃ断れないでしょ。」
「そりゃそっか。」
大貫さんはもう一度笑うとコーヒーを飲み干し立ち上がる。
「もう、電車の時間だから行こう。」
「了解。」
僕も飲み干し後に続く。
「あ、お会計よろしくね。」
「…………了解。」
なんとなく多めにお金を持ってきてよかった。
この駅から映画館のある駅までは20分程度。
しばらく揺られているとすぐに到着した。
この駅は僕の最寄り駅よりもさらに大きく県有数の駅となっている。
それ故多くの人々が通勤、通学でごった返す。
だが今日は休日。さすがにそこまでの人はいない。
映画館まではそんなに時間はかからない。
「西岡君は映画好き?」
「好きだね。たまに一人で見に行く。」
「やっぱり私たち趣味が合うね。」
他愛もない話をしているとたまに周りから大貫さんを見る視線を感じる。
もともと美人の大貫さんだが、今日の私服はしろいブラウスに青のロングスカート。大貫さんにとてもよく似合っている。
そりゃ通行人もみたくなる。
………僕ももう少しおしゃれしてこれば良かったな。
端から見たら僕らはデートをしていると思われるだろう。
同じ学校の男子なら喉から手が出るほど羨ましい展開である。
昨日の夜メッセージがきたときは何をやらされるか怖かったがそれからは考えもしない状況になっている。
映画館でチケットを渡され、タイトルを見ると僕も気になっていたタイトルが書かれていた。
「…僕の見たかったやつだ。」
「ホントに?すごいね。」
ここまで気が合うとは……これはもう…
「運命だね。」
大貫さんが喋る
「今西岡君、そう思ったでしょ。」
「………」
「図星だな。これは。」
ここまで揃うとさすがに嫌になりそうだ。
「さ、もう入場できる時間だし。入っちゃおうか。」
「そうだね。」
あまりにも普通なかんじの大貫さんに若干とまどう。
昨日の大貫さんのあの言葉は嘘だったんじゃないかと思うほど。
僕の頭の中で昨日の大貫さんの言葉が思い返される。
『私を殺してくれる?』




