第7章 その先で
真っ暗な世界で次に目にした景色は...
次に目を覚ますと1つ前に住んでいた実家。
ベッドの上で天井を見ている。懐かしい視界にしばらく浸っていた。
少し靄がかかってはいたが、はっきりと世界には色がついていた。
え…
古い方のスマートフォンを見て気づいた。2015年4月3日(金)。
<10年前の過去に戻っていた>
信じられないくらい嬉しかった。
まだバンドを始める前の自分に戻れたのだ。
「願いが叶ったんだ」
もう一度全てやり直すには十分だ。そう思った。
思わず握りしめていたスマホを操作する。
覚えている、今日はジュンと出会う日だ。
記憶通り、友人に呼ばれたご飯会にリョウはやってきた。
「はじめまして、ジュンって呼んでください」
ずっとギターをやってきたんだと友人が補足した。
俺も歌を歌ってるんですと自己紹介すると、すぐにコピーバンドをしようという流れになった。
全て今の所、記憶通りに進んでいる。
だが、俺はもう間違えない。東京に行くなら早い方が良いことも知っている。
早急にメンバーを集めて上京することを目標に行動した。
3ヶ月後、ジュンが集めてきたメンバーを入れて、4人組ロックバンドを結成した。
俺が大学1年、ジュンたちが1つ下で高校3年生だったので、
1年後卒業するタイミングで上京しようという話をした。
そのために俺も大学は中退する覚悟も決めた。
若いのに上手いと定評があったジュンを筆頭に、連れてきたメンバーはみんな楽器が上手い。
さすがだなと思い、早速オリジナル曲を作ってバンドコンテストに応募することにした。
こういう曲が今後流行るというこじつけで、
未来にやっていた曲に似た曲調をリファレンスに、ジュンも素晴らしい曲を作ってきてくれた。
必要な練習は全て頭に入っており、未来の経験を活かして活動した。
若いのに安定しているボーカルと新しいバンドサウンドということで、
楽曲を投稿したアプリで注目されるようになった。
勢いそのまま、バンドコンテストでファイナリストになり、東京でライブをする機会を得た。
結成1年も満たない早熟バンドとして、多くの音楽関係者が注目する中ライブをした。
結果はグランプリを受賞し、憧れていたバンドのボーカルから声がかかり、
「俺が面倒みるから」と、自らレーベルの偉い大人に直談判をしてくれたこともあり、
大手レーベルとの契約が決まった。
春の上京が確定したのだ。
俺は幸せだった。
ボーカルが良いだけでこんなにも人生が華々しく変わるのか。
信じ難いが結果として現れたのだ。
今の俺はすごい。この先たくさん練習する時間がある。
もっと上手くなって、もっと有名になって、
メンバーを、関わってくれるみんなを幸せにできるボーカルになれるんだ。
そう確信していた。
しかしこれは、
<今までの自分を否定して、周りを肯定したことと同じことだ>
ということも、頭の片隅では理解していた。
どこかで理由をつけて逃げたかったんだという本性を、
自ら露出させていることも少しずつ気づいていた。
耳の痛いことから目を背けていた事実もあった。
本気であいつらと向き合えていたのだろうか。
まぁ、今となってそんなことを考えても仕方ない。
「俺はやり直すんだ」
2016年10月22日(月)
俺たちはレーベルが用意してくれた車に乗って上京した。
運転手にはレーベル担当がいた。
助手席には、憧れの先輩バンドマンが乗っていた。
「久々にやばいって思えるバンドに出会ったよ。これからよろしく」と、握手を求められ応じる。
俺たちはとても笑っていた。
メンバーの顔をしっかり見つめたいと思ったその瞬間、
靄が晴れて、はっきりとした視界で捉えた
リンとユキだと思っていたベースとドラムは別人だった。
「なんか違うな」と心の中で思ってしまった。
苦労するし挫折も多いけど、あの人生で出会った、ジュン、リン、ユキ、ハル、カイたちと売れたい。
<もう一度やり直すには十分すぎる時間だった>
読んでいただきありがとうございました♪




